第34話 うえいたー
第34話 うえいたー
【夏だ~!海だ〜!青春だ〜!】
誰が決めたのか、そんなフレーズが書かれたポスターが世の中には山ほどある。確かに夏と言えば海である。白い砂浜に青い海。波が小さく行っては戻りを繰り返し、日常とは少し違った風景に出会えるだろう。
だが、夏だから青春というのは何故だろうか。昔からいろんな人に言われてきたが、自分には実感がなかった。一体誰が決めたのだろう。学生には夏休みがあるからだなんて言われればそうだが、だからと言って全ての人が当てはまる訳では無い。
現に今の俺達の姿を見ればわかることだと思う……。
「はーい、3番テーブルさんのブルーベリーパンケーキ出来たよー!」
「はいっ、た、ただいま!」
「すみませーん!注文いいですかー?」
「はいっ、お伺い致します!」
「お兄さんを注文できませんか〜?なんちゃって〜!」
「俺を注文しちゃうと高くついちゃうのでおすすめしませんよ〜!」
「アハハ!!お兄さんおもしろーい!」
……これが、青春と呼べるものならどこがどうなのか教えていただきたい。
「すーちゃん!4番さんのテーブルの片付けお願い!」
「分かった!終わったらすぐやる!」
「坂田!!ピッチャーのおかわり……」
「用意してあるから勝手にとってって〜」
……なぜ、何故なんだ。
どうして、俺らはレストランのウエイターなんてやってるんだろうか。
確か、駅に着いて街を散策しながら、坂田の親戚の家に到着したところまでは覚えている。そこまでは覚えているのだが……何故こんなことに……?
気がつけば、目まぐるしい店内の中を、不慣れながらも俺達は駆け回っていた。意外にも坂田がこの手の作業に慣れているようで、坂田中心に進んでいった。注文を受ける時や食器を片付けるタイミング、ピッチャーの補充に、会計など……。普段の坂田からは想像もつかない、まるで正反対の動きだった。
それに合わせて、仁都は持ち前の器用さ、田本は頭の回転の良さ、俺は、なけなしの運動神経を使って動くことが出来た。
バイト経験のない俺ら3人をこんなにも上手く動かせたのはバイトの経歴が長い坂田のおかげと言っても過言ではなかった。
「みんな、お疲れ様〜!大丈夫だった?本当に助かったよ!ありがとう〜!」
閉店の看板を出し、片付けを済ませてから、坂田を除く俺達3人が机にぐったりとしていると、奥の厨房からエプロン姿の女の人が出てきた。坂田の親戚の美由さんだ。
茶色に染めた髪を一つにまとめ、三角巾を付けて前髪をピンで留めている。化粧は控えめだが、それでも若々しく活発的で美しかった。
「んー……残念なことに、俺以外はみんな大丈夫じゃないっぽい」
代表して坂田がそう答える。そう言う本人は、こんなことはどうってことないとでも言うように、まだ店内で細かい清掃作業をしていた。さすが、アルバイト経験者……。
「あっ、あはは、ごめんね〜……。男手が来るってソラに聞いたもんだからついつい任せちゃって……」
「あ、いえ……いい社会勉強になりましたし……」
「すーちゃん、顔死んでるよ」
「あー……相変わらずこの仕事は大変ですね……」
「いやいや、田本。お前は3回目なんだからそろそろ慣れてくれないと困るよ〜」
「待って、坂田。毎度言ってるけど、それは酷すぎるよ……」
「ってか、そう言うそーちゃんが意外なんだけど〜!」
仁都は頬をリスのように膨らませ、不服そうに腕をバタバタさせる。体格が良いから直に振動伝わる。うるさい、駄々っ子か。
「そーちゃんこそ、こういうの苦手そうなのになんでそんな動けるの〜?」
「なんでって……そりゃ、ファミレスでバイトしてるし、これくらいピーク時に比べたら余裕〜」
そう言うと坂田は少し余裕そうにダブルピースする。どこかその表情には腹が立つ。でも今回は坂田にMVPが当たるだろう、間違いなく。現に坂田は高校に入ってからファミレスのバイトをしており、今年の春にサブチーフに抜擢されたのだとか。人が足りてないから、などと言っていたが実力があるからだろうと改めて実感した。
ちなみに、バイト経験が無いと言ったが、実際にないのは俺と田本だけ。仁都は長期休みのみ馴染みのケーキ屋さんの方でバイトしているのだとか。それでもここまで過酷ではないらしい……。
「あはは、今時の若い者には少し辛い仕事だったかな?でも、人手不足だったから本当に感謝してるよー」
さ、店も閉めたことだしお昼にしようかと美由さんは手を叩き、何が食べたい?と聞いてきた。店のメニューにあるものならなんでも作れるそうで、組み合わせもありだという。むしろメニューの提案に貰うとか。
俺らはそれぞれ食べたいものをお願いすると美由さんは奥の厨房へと足取り軽く戻って行った。
ボックス席のブラインドから差し込む陽射しが眩しい。少しだけ覗ける青い空と風に揺れる色彩豊かな花が疲れた心を癒してくれる。
テーブルに置かれたコップの水はこのお店特製ものだ。レモンが少し入っていて、酸味を感じさせず香りだけが残るサッパリとしたものである。
喉を通せば疲れた体に浸透する。あちこちに空いた疲れの隙間を埋めるように足先まで染み渡る。相当喉が乾いていたのかほぼ全員がコップの底まで飲み干した。
やっと、一息つけたところで俺は口を開けた。
「……で?俺達がどうして今こんなことになったのか、説明をして貰おうか、坂田くんよ?」
俺がニッコリと笑顔を向けると、その意味を察したのか坂田はバツが悪そうに話し出した……。




