第5章 第2節 その1
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「カリーナ、遅れているわよ」
「はぁ……はぁ……すみません。ちょっと調子が上がらなくて……はぁ……」
「少し顔色が悪いわ。休んだ方が良いのではなくて?」
「いえ……このまま行きましょう……はぁ……」
まさか二日酔いですと正直に言うこともできず、こういうときに限ってセレスはナチュラルに優しかった。やっぱりウザい。
魔男爵討伐の旅は、二日酔いで始まった。
目的地までは徒歩で約一か月。パーティに高レベルのメイジがいれば、《飛行》の呪文で旅程を短縮できるが、残念ながらセレスには人数分用意することはできなかった。もちろん、ポーションやスクロールと言った形で呪文に相当するものを用意することはできるが、《飛行》ともなると高価で諦めた。
余計な手間は誰もが望まないが、訓練を兼ねた行軍ということにした。
主都セントオルドタウンの近くを流れる大河に沿って上流に向かってひたすら歩く。川沿いに歩く期間が長かったので、水や食料の確保は安定し、水浴びや洗濯も行えた。
主都から二週間も離れればほぼ未開の地で、魔物たちが隠れ住んでいた。
気付けば、ゴブリン将軍率いる砦を制圧し、グリフォンの卵で作ったオムレツを食べ、火の精霊に虐められていた風の精霊を助けていた。さすがにこれらを成し遂げたときは、魔男爵討伐を受注したセレスの慧眼に心腹しかけた。心腹しなかったのは、万一の偶然を引いた以外には考えられなかったからだ。
何だかんだで経験を積む機会があり、私のレベルはまた上がり、気付けばレベル二〇に到達。冒険者になってまだ数か月。この速度でレベルアップを成し遂げた者はいないだろう。期間はバリバリ初心者のはずなのに、気付けば中級を名乗っても不思議ではない域に到達してしまった。
惜しむらくは冒険者ギルドには行けないので、レベルアップ処理ができないことだ。つまり、実際のレベルアップが保留された状態で、強さ自体は出発時点と変わらない。呪文もスキルも増えないし、HPもMPも変わらないが、場数を踏まされたせいか、心の余裕のようなものを持てるようにはなっていた。ついでに、パーティレベルも上がっていたが、これも処理できない。ただ、こちらについては、取得するパーティスキルが《スタンプカード》になることが濃厚のため、強さにはあまり関係ない。私の作ったパーティは、古い言葉で不死の甘露を意味する「アムリタ」という名前を付けたのに、景品狙いの欲にまみれたパーティにされてしまった。
その話はともかく、私がレベルアップしたものの目的地が近いこともあって、主都には帰らず先に進むことにする。
実際、レベルという形で成長したのは私だけだったが、ガストの振るうワォーハンマーは連撃の速度を上げているように見えた。「弓は久々なの……」と最初は弓を外しまくったセレスも今では余裕で夕食の狩りをこなし、グースに至っては十フィート棒を一日振っても疲れないようになってきた。
彼らは勇者とはいえそれぞれに長いブランクがあったので、何かしら衰えていたようだが、この長旅がそれを部分的に補ったようだ。
やがて、川に橋が架かっているのが見えた。
いつ誰が架けたのかも分からない古い橋だ。石と木で組まれ、石には模様が施されている。かなり高度な技術が用いられているのが伺える。ただ木が朽ちかけていて少し強度が怪しかったので、ひとりずつ慎重に渡る。その橋から石畳の街道が伸びていた。
かつてはかなり栄えていたのだろう。
見るからに長閑な平野が続き、農作物の栽培には向いていそうだ。水も豊富なので稲作なんて良いかもしれない。しかし、このあたりにはまだ魔物が跋扈しているので、それらを追い払ってからでないと移住はできない。逆に言えば、魔物さえいなければ、快適に暮らせそうだ。
街道に沿って歩き、宿場街らしき廃虚を抜ける。家屋の多くは崩れていた。中から木が生えて壊れているものもあれば、木材が腐ったのか屋根が落ちている家もある。
(どんな人たちで、一体何が起きたのだろう……彼らの魂が安らかに眠らんことを)
白骨となった死体を見かけ、簡便な黙祷をした。
「あれだな、魔男爵の居城は……」
グースが目を細め、先を見つめた。
いくら場慣れしてきたとはいえ、相手が相手だ。緊張のあまり唾を飲み込んだ。
街道の遥か先に、外壁らしきものが見えた。まだかなり遠くなのに見えるということは、想像以上に高い壁かもしれない。




