第5章 第1節
拝啓
パパ、ママ、お元気でしょうか。私は元気です。
冒険者稼業は命懸けで辛いときもありますが、勇者の皆さんのおかげで順調です。
ついに、アレに挑むことになりました。
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1
「くぅー――ッ! 効くぅー―ッ!」
うめきながら、空いたジョッキの底でテーブルを叩いた。
中身はトディというお酒だ。ヤシの樹液を自然発酵させたもので、甘酸っぱく口当たりが柔らかい。そのため、私のような女性で成人になりたてな者にも飲みやすい。
ついこの前まで未成年だったのに、おじさんたちと行動している影響で酒を嗜むようになっていた。少しだけ言い訳すると一人の時は飲まないが、今日はちょっと特別だ。
「お姉さん、お代わり!」
僅かな理性が我慢しろと訴えたが、私だって感情的になるときはある。
小魚の揚げ物を頬張り、魚介のスープを啜り、熱々のグラタンを掻き込む。
ママのご飯は別格にしても、地元の山料理と比べると食材の良さやバリエーションでは海辺に軍配が上がる。ましてやお金を払って食べるプロの料理だ。旨くないわけがない。
太る? 今日は絶賛チートデイの最中だ。何も怖くはない。
これが最期のまともな料理かもしれないのだから。今日最後ではない、人生最期だ。
エルフの美女セレスは以前「カリーナが自信を持てるような冒険をギルドで見繕っておく」と言った。場数が足りないクセにレベルばかり上がり、自信を持てなかった私を訓練してくれるという趣旨だった。
私は、ゴブリン砦の制圧とか、グリフォンの卵を取ってくるとか、虐められている風の妖精を助けるといった、初級あるいは中級冒険者の活躍として聞いたことのあるような冒険を想像していた。
酒場の喧騒の中、近くのテーブルに座る男性二人組の会話が耳に届く。
「そう言えば、聞いたか」
「何をだよ」
「冒険者ギルドの依頼の件だよ」
「それがどうしたんだよ」
「このセントオルドタウンの依頼票のうち、上の三枚はアンタッチャブルと呼ばれ、腕利きの冒険者でもおいそれと手を出せないものばかりだ」
「そんなことはこの町の住人なら皆知っているよ。魔王討伐・魔伯爵討伐・魔男爵討伐だろ。誰もが眺めるだけだから、掲示板の一番上に貼られっぱなしで埃を被っているので有名だ。依頼票を取る者が現れても、すぐにまた戻されるんだとか。そしていつの間にか推奨ランクがダイヤモンドTierだろ。そもそも、そんなヤツいねぇよ」
「ところがだ、その一枚、魔男爵討伐を受注したヤツがいるらしい」
「マジか!」
(マジよ!)
内心で同意しながら、グラタンを食べていた木匙を思いっきり握った。
受注したのはもちろん、見た目だけは綺麗な、あのクソエルフ。
以前、グースがエルフを猿と呼んだが、今回ばかりは心の底から同意する。
たぶん、最初のスライム戦の難易度を一とするなら、ゴブリン砦の難易度は百、魔男爵の討伐は万を下らないだろう。
セレスが依頼を受注し、それを報告したとき、私は顎が外れる思いをした。
突撃派のガストは「少し早い気もするが、いずれ魔王を倒すから構わん」と素っ気なく同意した。
慎重派のグースも「そんな面倒なもの受注するな! クソ猿!」と一言目には文句を言ったが、長い文句を言った後、最後には「俺もそろそろ領主になりたいんだよな……ほら、女性って経済力のある男に惹かれるんだろ」と訳の分からないことを言って合意した。領主になる以前についこの前まで監獄にいたのを思い出すべきだ。前科者の領主なんて聞いたことがない。
反対は私だけ。その場合、パーティ解散を覚悟しなくてはならない。
だから、心情的には断固反対だったが、口から出た言葉は曖昧な反対でしかなかった。
新大陸随一のベテラン冒険者との関係もなくなる。
同時に、せっかく知り合った面々との繋がりがなくなるのは、寂しすぎた。
パーティは組むのも別れるのも簡単だ。家族とは違う。
でも、だからこそ、偶然の出会いを家族と同じように大切にしたい。
セレスも悪気があって受注してきたわけではない。私のためを思ってのことだ、たぶん。いや、アレのことだから、何も考えていないのかもしれない。
そんなこんなで、皆の意見に流され、出発を明日に控え、最期の晩餐を迎えた。
近くのテーブルのヤツらは、私たちを肴にさらに話を続ける。
「それに、受注したのはブロンズTierの四人パーティらしいぜ」
「アホだな。死に行くだけだって分かってないのか」
私が冒険者になりたてで、パーティを作ったばかりであるため、パーティランクはまだブロンズ、つまりは初級者丸出しのパーティだ。ただ、中身は詐欺レベルだ。何せ、四人中三人は、この子爵領を解放した勇者なのだから。それぞれブランクがあるとはいえ、私が束になっても勝てない。実際にブロンズ相当なのは私だけで、残り三人はプラチナ相当だろう。いや、パーティ登録前に経験値だけは無駄に稼いでいるので、私もブロンズ相当とは言いにくいが、それでも実力差がありすぎる。
その実力差ゆえに私からすれば分不相応の冒険をこなし、経験値を荒稼ぎした。
レベルがガンガン上がる私と違い、彼らはもう簡単にはレベルが上がらない域に達しているようで、誰一人レベルアップした気配がない。レベルアップが自分から縁遠くなるから、他人のレベルアップを祝いたくなるのだろうか。でも、歌われるのは言語道断だ。
ところで、パーティレベルも上がり、新たなパーティスキルを取ったのだが、セレスの強固な主張で《スタンプカード》のレベルを伸ばした。そのため、パーティスキルは戦力の底上げには全く寄与しない。
ふざけやがって、あのクソサルが!
……おっと、酔ったのか、口は悪くなるばかりだ。
「ギルドもよくそんなヤツらの受注を認めたよな」
「全くだ。人材を大切に育てるよりも無謀な挑戦に賭けて、あわよくばって期待しているのかもな」
「くわばらくわばら。初級者を死地に送り込むなんて、ギルドの質も落ちたもんだ」
(全くだ!)
そう思ったところで、飲み物がまだ来ていないことに気付く。
「お姉さん、お代わりまだ?」
大きな声で店員に声を掛けると、例の二人組が小声で話す。
「随分威勢の良い女だな」
「それに馬鹿みたいな量を食べるんだな。冒険者かな……近寄らないでおこう」
(全部聞こえてんだよ、この野郎。棍棒でぶん殴ってやりたい!)
イライラしつつも、微妙に会話に参加していた。
やっぱり、一人よりはみんなと一緒の方が向いていそうだ。




