第4章 第4節 その2
気付けば、セレスは酔い潰れてテーブルに伏せ、グースはカウンターの女将さんと話し込んでいた。つまり、実質ガストと二人きりになった。
話すことはたくさんあるような気がしつつも、迷っているうちに沈黙してしまう。
気を使ってくれたのか、ガストから問われる。
「暗い顔をしてどうしたんだ。何か心配事か? ゲプッ」
まともな問いをしつつも、平然とゲップするとかいかにもおじさんだ。
私はそのおじさんたちに依存している。
「こんなこと、本当にいいんでしょうか。私は駆け出しでしかないのに、ガストさんたちは超一流。リーダーの私が皆さんの足を引っ張っているような気がして……」
正直に言えば、不安だった。
私も彼も目標は魔王討伐でも、実現の可能性がまったく違う。私の目標はただの夢物語でしかないが、彼らにとっては本当に挑戦可能な目標なのだ。同じステージには立つべきではない。私のようなビギナーには、強敵である魔族を相手にするよりも、まだスライムやゴブリンを相手にする方が現実的というものだ。
レベルの違う私が、ここにはいてはならない気がした。
ガストにとっては私の悩みは些事らしく、厳めしい表情を崩す。
「はっはっは。何だそんな話か。俺たちは超一流なんてことはない。さっきギルドの職員も言ってただろ、俺たち第一世代はただのカラスだよ」
さきほど冒険者ギルドの職員から聞いた話によると……
そもそも、人類は海や森など自然の要害に挟まれて生きてきた。人口が少しずつ増え、生存圏が広がる中、周囲を探索し、魔物などの危険を排してきたのが冒険者だ。冒険者システムの世代としては第一世代の時代で、その貪欲さから『カラスの世代』と評された。
版図を広げる人類は、主に遺跡に住む魔族と接点を持つようになり、争いが始まる。
魔族の中には爵位を持つ者もいて、爵位持ちを倒した場合には人類がその地を継承した。ただ、魔族たちとの抗争は、勝敗の数だけで言うなら魔族の方が圧勝らしい。
幾人もの犠牲者を出してきた。
その犠牲者の上に成り立っているのが、システムのバージョンアップである。
職員の推測では、秩序神は両者のバランスを保とうとしていた。神は、人類と魔族に適切な難度の試練を与えているのだとか。
「でも、第一世代がカラスの世代と呼ばれるのは全体の話であって、今のガストさんたちの実力はカラスどころか獅子や像に匹敵するんだと思います」
「まぁ、しぶとく生き残っているからそういう言い方もできるかもしれんな……ゲプッ」
「アンタの言うことは、要するに自分に自信がないってことでしょ?」
身体はテーブルに伏せたまま、いつの間にかセレスは顔を上げていた。
彼女は赤ら顔でどこか据わった目で、こちらを見つめる。
「私たちは四十年のブランクはあるし、カラスの世代なんて呼ばれていたけど、それでも子爵級魔族を倒し、魔王に挑んだこともある。いわば超一流。それに対してアンタはペーペー。つまるところ、ビビってんのよ」
「そんなこと……いえ、そうです」
冒険者は強大な敵に挑む。ときには命懸けで、戦うときがある。
それは分かっているが、分かっていても、彼らとは実力に差がありすぎる。
野良ヴァンパイア戦で幾つもレベルが上がったものの、例え、レベルの高い呪文が使えるようになったとしても、私自身のメンタルが成長できていない気がした。
真面目に答えた私に対し、セレスは身体を起こし、後頭部をボリボリ掻く。
「あー、メンゴメンゴ。からかうつもりはなかったけど――いえ、からかったわ。ごめんなさい」といつになく神妙に謝罪したあと続ける。「それは踏んだ場数の違いだと思う」
「場数……ですか」
「そう。要するに経験ね。それはもちろん、経験値であり、レベルではあるのだけれど、危機に対する慣れは確実にあると思うの。目の前の困難に対して、慣れていない人はすぐに諦めるけど、慣れている人はその困難にどう打ち勝つかを分析できる冷静さを養っている。ただ、それは場数だけというわけではないでしょう」
今はいつになくまともで先輩らしいことを言っていると彼女のことを見直していると、彼女はハタと掌を拳で叩く。
「私に任せなさい。カリーナが自信を持てるような冒険をギルドで見繕っておくから」
「セレスさん……」
おそらくゴブリン砦とか、森の街道に出る魔獣退治とか、そういう冒険者らしいミッションで、鍛えてくれるということだろう。
確かに、わずか数回の冒険で明らかに自分のレベル以上の敵を相手にしていたこともあり、まだ精神的に成長できていないのだろう。周りや状況に流されてはダメだ。
悲しいけれど、私は変われていない。見せかけの強さならいらない。
私はもっと強くなるんだ。
(よし! 今夜は寝る前に棍棒の素振りをしよう!)
急にやる気がでてきた。飲んでいる場合じゃない。
「それじゃあ、帰りましょうか! 店員さん!」
気のせいか声に力が溢れていた。我ながら単純だとも思うが、悪いことではない。
近くでオーダーを取っていた若い男性がこちらに来る。
「はい。追加ですか?」
問い掛けられ、私は自身を以って両手の人差し指で×を作る。お会計の合図だ。
今日は気分がいいから、みんなにおごっちゃおう。リーダーだし。
「?」
店員が明確に首を傾げた。
もう一度×を作るが、伝わらない。仕方なく、「お会計を……」と小声で頼んだ。
大人ぶってみたものの、どうやら×マークは通じないことがあることを学んだ。
何事も経験だ。
――――というわけで、
偶然出会ったガストさんたちは勇者であり、領主さまのお知り合いでした。
みんなが超強いのも納得です。
次は、身の丈に合った冒険になりそうです。
先輩に冒険者の流儀をしっかり教わり、一人前になれるように頑張ります。
それではお元気で。
かしこ




