第4章 第4節 その1
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「私たちが魔王攻略に失敗したのは、アンタのせいなのよ!」
ビールで顔を真っ赤にしたセレスが、ガストを指さした。
冒険者ギルドで用を済ましたあと、向かった店はグースの想い人が営む食堂だった。もともとは別の村でやっていたが、売り上げ好調のため思い切って主都に移転したようだ。見たことのある女性が忙しく働いていて、店内は活気がある。
シチューは相変わらず絶品で、それ以外の食事も美味しく、みんなでアルコールとともに舌鼓を打った。
私以外の三人はパーティ『運命のダイス』出身のため、必然的に話題は当時のものになり、そして、酔っ払ったセレスの怒りが爆発したというわけだ。ちなにみ、セレスは私と同じぐらいしか飲んでいないので、大した量ではない。
丸テーブルの左側に座るグースに小声で尋ねる。
「セレスさんっていつも、あんな感じなんですか?」
「酒に弱いくせにすぐ酔っ払いやがる。だから、アイツを誘わなかったのによぉ……」
彼女に酒を飲ますのは控えようと心に控えている最中も、彼女の口は止まらない。
「アンタが抜けて戦力が明らかに戦力ダウンしたというのに、リーダーが『僕たちはこの地を平穏にするために戦っているんだ。その期待に応えたい』とか言って、魔王戦に挑んだのよ。そのせいで、アイツ自身が……」
この地域が、『運命のダイス』によって解放され、オルドリッチが爵位を継いだのは知っていた。逆に言うと知っているのはそれぐらいでしかなかった。子爵になったオルドリッチがリーダーだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
「グースさんは初期メンだったんですか?」
「四十年も前の話だからそう言っても過言じゃないが、厳密には違う。もともとは、リーダーとガストと俺の双子の兄貴のギースが作ったパーティだ。ところが、兄貴は復活の儀式に失敗してな……灰になっちまったよ。幸か不幸は、俺は兄貴と全く同じ能力・装備だったので、そのまますぐにパーティにスカウトされて今に至る」
「そうなんですね」
よく似た名前・双子・同じ能力・同じ装備というのもずいぶん偶然が重なりすぎている気がしたが、そういうものなのだろうと納得した。
その後、『運命のダイス』にはセレスらも加わり、パーティは唯一無二の高みに上る。
魔子爵を倒してから、ガストはパーティを離脱し、冒険者から足を洗う。
残ったメンバーで魔王に挑んだものの、敗北。リーダーを失い、活動を停止。
撤退した僧侶オルドリッチがすでに解放済みの子爵領を継承し、セレスは旧大陸からの移民受け入れに向け森を探索し、盗賊は女の尻を追った。
(子爵を倒して統治が始まったのかと思っていたし、きっとみんなそう思っている……まさか魔王にまで挑戦していたなんて。それに、この前、ガストが子爵様に会いに行ってパーティに誘ったのは、あながち的外れなことではなかったのね……)
以前のガストの行動に納得いったが、セレスの暴言は止まらない。
「お前が悪いんだ、ガスト! あのときお前がいてくれたら、不意打ちを受けてもリーダーがあそこに残って撤退を指示することはなかった! 前衛が二枚ちゃんとそろっていたら……」
セレスは頬を真っ赤に染め、ガストを指さした。
熱量を以って語るだけあって、きっと今までずっと腹に抱えていたことなのだろう。
一方で、ガストはすでに何杯もビールを飲んでいるにも関わらず涼やかだ。
「そもそも俺はその時点で冒険者から足を洗っていた。それ以降のことは責任を取れん」
「なら、今度はどうなんだ? いきなり抜けたりしないのか」
セレスの問いは、カリーナの不意を突いた。
せっかく同じパーティになったというのに、ガストが抜けてしまうなんてこと……
むしろ、この低レベルの私がリーダーでは、彼を引き留められる自信がない。
彼がもっと高みに上りたいなら、もっと適切なパーティが他にもあるだろう。
彼に高額のオファーを出すパーティもあるかもしれない。
冒険者として村を出たときからの付き合いがあるので、抜けられるのは寂しい。
自分がもっと強ければ、状況は違うのかもしれないが……
「それはまずない」とカリーナの不安を断ち切るように彼は断言する。「俺が冒険者から足を洗ったのは、妻の看病のためだ」
「奥様がいるんですね。初めて知りました」
私の漏らした言葉に彼は静かに首を横に振る。
「正しくは『いた』だ。彼女が亡くなってから、俺は冒険者に復帰した」
彼が言うところによると、彼の妻は若いころから病気がちで、特に呼吸器官が脆弱だった。医者の勧めで、空気が綺麗で、人混みから遠い山奥へ移住した。その甲斐あって彼女は医者の見立てよりは遥かに長生きしたものの、五十代で天寿を全うした。
「俺が冒険者を再開した理由は主に二つある。一つは、魔族を倒して欲しいというのが妻の遺言だから。もうひとつは古い友であった『運命のダイス』のリーダー・ロギを弔うことだ。アイツは魔王戦での不意打ち以来、消息不明だという。せめて遺品を回収して、故郷に帰らせてやりたい」
「ガスト……あんたってヤツは……」
さっきまで怒り心頭だったセレスは、大粒の涙をボロボロと零していた。




