第4章 第3節
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登録作業には待ち時間があるらしく、職員は作業の手を動かしながらもいろいろと教えてくれた。
そもそも、今のシステムは第四世代と言われるもので、先日成人を迎えた私も第四世代のシステムを利用している。一方、ガストらは第一世代のシステムを利用している。そのため、無数の違いがある。
例えば、第一世代では、防御に関しては「アーマークラス」という値で制御していたが、今は「回避率」「防御点」という値が用いられている。当然、以前ガストが言った「THAC0」の考え方も第一世代のシステムに由来し、現在はその考えがない。
また、第一世代ではシステムを開いてからでないとHPの現在値を確認できないが、今は視界の上部にHP・MP・FP(ファティギュポイント:疲労点)がバーになって表示されている。
これに関連したことで、第一世代にはそもそもMPもFP存在しない。魔法の使用回数は攻撃できる回数は、別の概念を使っているようだ。
ガストの言っていたシステムの表示の不整合は、クライアントとサーバーのバージョン相違によるものらしい。
またクラス構成も若干違う。第四世代の「レンジャー」は、第一世代の「盗賊」に相当するが、モロに犯罪者が冒険者にいるのも問題があり、バージョンアップとともに変わったのだとか。また、第一世代の亜人には職業的なクラスはなく、エルフはエルフでしかない。今はエルフでも職業クラスを選べる。
さらに、第一世代には、スキルもない。
単純に言えば、スキルのある分、同レベルでも第四世代の方が強い。ただ、その代わり呪文や各種調整も入っているので、秩序神がバランスを取りながら全体をバージョンアップしているのだとか。
そういう点で比較的割を食っているのがガストで、戦士は「武器や防具を何でも扱える」という特性があるぐらいで、当時は戦闘スキルが限られている。そのため、現行バージョンの同レベル帯だとダメージが半分程度になってしまうらしい。なかなかつらい。
それを聞き、グースは前向きに言う。
「バージョンアップするだけで強くなるなら、久々に帰ってみるか?」
彼らは、この子爵領を解放した。当時はおそらくまだこちらに人の住む場所はない。
つまり、彼らは旧大陸出身なのだ。
新大陸の小さな山村で生まれ育った私には、想像の及ばない世界だ。
グースの提案に職員が難色を示す。
「確かに今後のことを考えるとバージョンアップする方がよいのですが、第一世代からのバージョンアップとなると、第一世代を扱える技術者が必要となります。その技術者も大半は引退しているでしょうし、今更第一世代を扱える技術者がすくに見つかるとは思えません。そうなると、費用や時間は莫大なものになるかと……第三世代からなら私もできなくはないのですが……」
慰めにもならない現実を聞き、グースは肩を落とす。
そして、そこにセレスが追い打ちを掛ける。
「ま、私は十分に強いので困ってはいません。弱いからそんな姑息なことを思いつくのよ。そもそもあなたは、その昔女の尻を追い掛けていたら、たまたま冒険が始まり、その女が超金持ちの後家さんで、莫大な報酬をもらって経験値を稼いだだではありませんか」
「クッ!」
悔しそうなグースを横目に、小声でガストに尋ねる。
「報酬って経験値になるんでしたっけ?」
「いや、今はならないな」
「今は?」
「そうだ。俺たち第一世代でも初期のころは経験値になった。その後、小さなバージョンアップがあって、そのときに報酬は経験値にならなくなったな。考えてみれば、同じ魔物を倒しても所持金の大小で経験値が異なるのには、違和感がある」
「なるほど……」
世代は大きな変化を伴い、同一世代内でも小さな変化もあるということだ。
ついでに、直接能力と関係ないところでは、冒険者名の長さも変わっていて、第一世代では上限三文字だったので、愛称を入れることが多かったのだとか。ちなみに、それぞれの本名はガストン、グース(変わらない)、セレスティアだ。
今は、二十文字まで入力できるので、よほど長い名前でない限り本名と同じになる。ただ、彼らは第一世代のままなので、冒険者名は三文字に縛られる。ガストンに至ってはこの辺で何店舗か見かける飲食店と同じ名前なので、可哀そうでもある。
また、移動速度を求める際、第一世代ではエンカンブランスという謎単位で求めていたが、第四世代では重量から算出される。
さらに、職員の話によると、第四世代だけの特色がある。それは「お布施」ができることだ。普通は神殿を経由して神に供え物をするのだが、直接神に納めることになる。「お布施」をすると金額に応じてちょっとだけよいことがあるらしい。一部の人からは「課金」とも呼ばれるという。何とも世知辛い世の中だ。とはいえ、これだけバージョンを変えれば、秩序神もさぞかし苦労したことだろう。今度、大きな報酬を得たら「お布施」をしてみよう。私も一応アコの端くれなので。
しばらくした後、職員が告げる。
「完了しました。みなさん、ステータスを確認してください」
職員がそう告げたので、早速試してみる。
視界下にうっすら浮かぶ文字に視線を向ける。
(ステータス・オープン! その他! パーティ情報!)
――ポーン! ポーン! ポーン!
『パーティ情報
パーティ名:アムリタ
リーダー :カリーナ
メンバー :カリーナ、ガスト、グース、セレス (4/6)
Pレベル :1
P経験値 :138
Pスキル :《スタンプカード》Lv1
P所持金 :ゼロ』
おそらくみんなも確認しているのだろう。それぞれにシステムを確認しているようだ。
セレスが漏らす。
「よしよし。ちゃんと《スタンプカード》があるわね。短命種にしては上出来です」
普段なら嬉しくない褒められ方だったが、今日は違った。
胸の内に熱いものが込み上げてくる。
(これがパーティなんだ!)
人数は何も変わらないが、よりひとつになった感じがした。
もちろん、それぞれに意見が異なる場面もあるだろうが、それでもひとつのパーティとして一緒にやっていくことにどこか誇らしい気分になる。
ちなみに、パーティスキルは、今回はセレスの意見を採用することでグースにも納得してもらった。セレスが《スタンプカード》のレベルを上げたいと言わなければよいのだが……
――ポーン!
不意に通知音がした。視界の端に
『メッセージを受信しました。受信ボックスを確認してください。』
と表示されたので、改めて「通知」を開く。
受信ボックスを開くと、一覧が出ている。
そこには、差出人が「システム」となったレベルアップの連絡などが並んでいるが、新着メッセージの差出人は「ガスト」になっていた。
(メッセージ・オープン!)
『これからよろしくな、リーダー。』
彼の方に目を向けると、五十代で髭男が恥ずかしそうに微笑んだ。
嬉しくなって私も即座に返信をしたためる。
『若輩者ですが、よろしくお願いします。』
そんなやり取りをしていると、グースがガストに声を掛ける。
「今日、帰りに飲んで帰ろうぜ」
「あぁ。構わん」
「例の店がこっちに移転するらしくてね。応援がてら行ってみようかと思うんだ。お嬢ちゃんも行くか。それなら地図を送るよ」
「あ……はい。お願いします」
例の店というのも気になったが、それより気になったのは、「地図」という単語だ。
どういうことだろうと思っていると、メッセージが早速届く。差出人はグース。
『
大通りに出て噴水方面に二つ目の十字路を右。
一つ目の細いT字路を右。一つ目の交差点手前左。
■←ギルド
──┼─────┼─噴水
│
┼──┤
店→■
』
「な、何ですか……これは……」
「下手で悪かったな」
「いや……上手いとか下手とかじゃなくて、こんな使い方、知らないんですけど……」
地図だ。確かに地図だ。
通知でこんなことができるなんて、考えもしなかった。
しかもこの短い時間でちゃんとしたものを書けるなんて……
まるで気付きもしなかった自分が打ちのめされた。
「俺はダンジョン攻略を任されることがあったから、ついこういう使い方をできないか試してみたくなったんだよ。ジジイほど記憶力もないしな」
そんな話をしていたところ、セレスがガストの横にすり寄ってくる。
「ねぇ。私からメッセージ欲しくないかしら」
「いらん」
「嘘おっしゃい。本当は欲しいくせに。欲しいんなら送ってあげてもよくてよ」
ガストは遠慮なく断ったが、それを理解しないのがセレスというエルフだ。
(送りたいなら送ればいいのに……面倒臭い人だな……)
通知機能ですっかり盛り上がってしまったためか、職員から声を掛けられる。
「要件はお済でしょうか」
「いやいや、待ってください! まだあります!」
私のレベルアップや装備の購入をした。他の面々も世代間の違いがあることを意識したため、それぞれにギルド職員に質問した。特に呪文を使うセレスは第一世代と第四世代の効果の違いなどを教えてもらったようだ。
「そういや、今はアイテムをギルドで買うんだな。ボルタックの店員は不愛想だったから、潰れちまったのかな……それはそれで寂しいな」
ギースはそう言いながら、アイテムを物色していた。
そうこうしているうちに、すっかり夜の帳が下りていた。




