↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時代遅れの勇者エイティーズ  作者: 田山 与
第四章 カラスのジェネレーション
PR
20/28

第4章 第2節

          2


 勇者とは、貴族階級の魔族(代表例は魔王)を倒し、その支配地域を魔族の手から取り戻したものをいう。そして、勇者はその地の新たな爵位・王位を名乗る資格を得る。

 領主オルドリッチは子爵なので、『運命のダイス』は少なくとも子爵級の魔族を討伐している。貴族階級の魔族を倒すことは人類の発展の上で偉大な貢献であり、その地域を統治する資格のある功績だ。

 当然、そんな人たちと冒険している私には疑問があり、ガストに問う。

「本当にパーティを抜けていいんですか? 思い入れがあるんじゃ……」

「もちろん。いい思い出も悪い思い出もたくさんある。俺の青春とも言える時間は、ほぼあそこで過ごした。だが、それは過去だ。中年真っ盛りで冒険者を再開するのだから、新しい気持ちで臨むべきだと思う。いつまでも過去にこだわるべきではない」

 そう断言するガストに対し、セレスは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。

 彼女は私の視線に気付くと、顔を少し逸らした。

 セレスのことはひとまず気にせず、再び尋ねる。

「それならせめてリーダーを代わってもらった方がよいのですが……私なんてヒヨッコが、皆さんとご一緒するのも恥ずかしいくらいです……」

「俺が冒険者を再開したのは、お前が冒険者になった後だ。つまりお前の方が先輩だ。それに、リーダーに年齢は関係ない。むしろ、俺はお前に声を掛けられなければ、まだ一人で冒険者をやっていたかもしれない。だから、何も問題ない」

 そう言って微笑んだ後、彼は職員に目を向け、作業を促す。

「では、お手続きを進めましょう。一応、簡単に説明させていただきます」

 相手が『運命のダイス』の一員と知ってか、職員が若干萎縮しつつも説明する。

「まず、パーティに加入すると、冒険で得た経験値の一割をパーティ経験値として捧げなくてはなりません」

「はぁ? 一割も? 何かの冗談かしら。昔はそんなことありませんでしたわ」

 セレスのキレ気味の返事に、職員は慌てずに答える。

「規則ですので、ご容赦ください。ただ、その経験値はパーティに累積され、パーティもレベルアップします」

 たぶん、同じように不満に思う者もいたのだろう。私も思った。職員が続ける。

「パーティがレベルアップすると、パーティスキルが使えるようになります。ちなみに、パーティ『アムリタ』は一レベルのパーティスキルをまだ取得していませんので、ひとつ選択できます。一レベルで取得できるものはこちらです」

 そう言って教えてくれたのは以下。

  《鉄壁》

   スキルレベルに応じ、物理防御の加護を得る。

  《省エネ》

   スキルレベルに応じ、魔法使用時の消費MPが下がる。

  《上客》

   ギルド・提携店での買い物が十%オフ。

  《スタンプカード》

   ギルド・提携店で買い物した際にスタンプが貰える。貯めるとガチャを引ける。

(うちは前衛が多めだから、《鉄壁》一択ね)

 私はそう思ったが、セレスはどこかそわそわとした感じで尋ねる。

「その……ガチャって何かしら?」

「いわゆる福引ですね。ランダムで景品を貰えます」

「景品にはどのようなものがあるの?」

 よりによって、そんなものに惹かれる?

 声に出すより先に職員が答える。

「えぇと、今だと、SSRがスペルキャッチ・スクロールです」

「何ですって!」

 セレスが声を上げるほどに驚いたので、思い切って聞いてみる。

「それってすごいものなんですか?」

「ええ。たかだか景品にしては破格です。相手の呪文を吸収するスクロールで、そもそもスペルキャッチ自体は普通の魔法使いが使える呪文ではありませんから、それが巻物になっているのはとても珍しいと言えるでしょう。私も噂でしか聞いたことがありません……それ偽物じゃないわよね?」

「もちろん正真正銘の本物ですよ。秩序神がパーティスキルについてアップデートし、我々冒険者ギルドに説明された際に、賜ったと聞いています」

 神様が巻物をくれたのも驚きだが、アップデートの説明をしたというのも驚きだ。

 私と違い、セレスの関心は神よりも巻物にあるようだ。

「出所が神となれば本物ね。そもそも手に入れようにも市場には出回らないから、まともに買えば金貨百万枚は下らないと思うわ」

「金貨百万枚! めちゃくちゃ高価じゃないですか!」

 興奮気味に答えると、それを聞いていたグースが冷静に漏らす。

「特賞なんて当たるわけがないだろ。目録だけの客寄せ商品だよ」

 私も彼と同じ考えだったが、セレスは意見が違うようだ。

「あなた馬鹿? ガチャは引いた者だけが勝利できるのよ。カリーナ、《スタンプカード》を取りなさい。他のスキル不許可よ」

 やや険悪な空気になったところで、職員が割り込む。

「ちょっと落ち着いてください、今決めなくても構いませんので。経験値の提供やパーティスキルについてご理解いただけたなら、先に進めさせていただきたいのですが?」

「ちょっと待ってくれ」とこれまで黙っていたガストが割り込んだ。「そもそも『運命のダイス』で活動していたときにはパーティスキルなんてなかった気がするんだが」

「あぁ、なるほど。少し確認します」

 職員が両手の指を器用に動かす。おそらく『運命のダイス』の情報を彼のシステムに呼び出しているのだろう。

「ふむふむ。分かりました。バージョンが古いですね」

「バージョン?」とガスト。

「はい。システムは、秩序神によってバージョンアップします。パーティスキルもバージョンアップを経て追加された仕組みになるのですが、その際、パーティ情報をバージョンアップしなかったのだと思います」

 それにはセレスが応じる。

「そうかもしれないわね。『運命のダイス』としてはずっと活動していなかったから」

 一方、ガストがさらに尋ねる。

「なら、せっかくだから『運命のダイス』をバージョンアップできないか」

「申し訳ありませんが、それは無理です。少し専門的な話になるのですが、皆さんが個々に管理しているシステムを『クライアント』と呼びます。一方、冒険者ギルドでは皆さんのシステムに記録されている情報を保持し、それを秩序神に報告しています。我々の持つシステムを『サーバー』と呼びます。大規模なバージョンアップ時には、『サーバー』だけではなく、『クライアント』側のシステムアップデートも必要になります。それを行うのには、冒険者ギルドの職員でも特別な技術者が必要なのです」

 私には何のことかさっぱり理解できなかった。

 三人の顔を見ると、概ね似たような状況に見える。正直、理解が及んでいない。

 ただ、少なくとも最後の一文だけは理解できた。

「つまり、今はその技術者がいらっしゃらないということですか」

「はい。申し訳ありませんが、少なくともこのあたりの職員では無理です」

「それでしたらいつ来たら、いいか分からないのではありませんか」

 不満げに言うセレスに対して職員が答える。

「それは仰る通りですが、ギルドからは極力連絡もしていますし、その技術員も一年はこの近辺にいたはずです。皆さんはギルドに来ること自体が久々だったりしませんか」

「……森の中とか海の上におりましたので、四十年ぶりになります」とセレス。

「……山の中にいたので、四十年ぶりだな」とガスト。

「……塀の中にいたので、四十年ぶりだよ」とグース。

「さすがに四十年来ていただけなければ、我々もフォローできません。おそらく皆さんのシステムは古いままで、最新版にアップデートされていないのです。ただ、今回の手続きで『アムリタ』所属になるので、少なくともパーティ関連の機能は最新版になり、パーティスキルや通知機能は使えるようになるはずです」

「通知機能って何かしら」とセレス。

「同じパーティのメンバーに即座にメッセージを飛ばせるようになります。メッセージ一通につき経験点一点を消費するのですが、低レベルでなければ問題ないでしょう。ちなみに、上限は百四十文字です。ただ、無条件に使えるわけではなく、ダンジョンの奥など魔力が不安定な場所だと使えないので、ご注意ください。平時の連絡手段と考えてください。それでは続けます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。