第4章 第1節
拝啓
パパ、ママ、お元気でしょうか。私は元気です。
さて、一緒に冒険をしているガストさんたちは、
ヴァンパイアを平然と倒してしまいました。
貴族級ではないとはいえ、名の知れた超強い魔物です。
とてもすごいことなのですが、それはある意味当然のことでした。
なぜなら、彼らは――――
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「どうしたんですか、その方は! 大丈夫ですか!」
ギルド組合職員の神官が叫んだ。
私たちは野良ヴァンパイアを討伐し、その居住区域を調査してから、セントオルドタウンに帰還した。
さて、私たちの目的地は冒険者ギルドで、幸い、今日は扉が開いていた。
盗賊グースが背嚢を下ろし、カウンターの上に引っ張り出したのは戦士ガストの死体。
顔は青ざめ、全身血だらけで、腕に至ってはもげかけている。
いきなり死体を見せられれば、さすがの神官でも驚くというものだ。
彼が亡くなってからすでに一か月近く経過している。
にもかかわらず、彼が死んだときと状態はまるで変っていない。
背嚢は見た目には使い込まれてボロいが、魔法の掛かった逸品だ。
エルフのセレスがカウンターに身を乗り出す。さすがに今は重装鎧を付けていない。
「ヴァンパイアどもにやられてしまいました。彼の復活をお願いします。亡くなってから時間は経っていますが、死体の保存状態は完璧のはずです。灰にはなりませんよね?」
「はい? あぁ、灰ですか。大丈夫ですよ。以前は復活の儀式にも失敗リスクがありましたが、今はバージョンアップして、灰になる可能性はなくなりました。ですので、復活の依頼をためらう必要はありません」
「……ずいぶんヌルくなったものね」とセレスは目を細める。
「それだけ神のご威光が強まったのです。それに、その方が冒険者の皆さんもリスクを恐れずに困難に立ち向かえますから、悪いことではないでしょう。便利で何が悪いというのです? 全員がハイリスクの冒険を望んでいるわけではありません。それに、ただでさえ危険な仕事なのに、リスクだらけなら誰も冒険者になってくれませんよ」
「まぁ、確かにそうかもしれません」
「冒険者の皆様に余計なリスクを背負わせないように、我々ギルドは日々努めております。とはいえ、ご遺体の状態が悪いとそもそも復活できないこともあるのですが、この状態ならまず間違いなく問題ありません。それでは早速失礼します」
神官は、死体を部屋の片隅にある銅像の前に運んだ。
銅像は生命神をイメージして作られたもののようだ。
神官は両膝を付き、両手を深く組んで言祝ぐ。
「ささやき! 詠唱! 祈り! 念じろ!」
その瞬間、室内の雰囲気が変わった。
一瞬暗くなり、室内を稲光のようなものが切り裂いた。
すると、致命傷を負っていたはずのガストの傷は塞がり、彼は静かに瞼を開ける。
「ここは……俺は……」
「おぉ、ガストよ! 死んでしまうとは一体何事だ!」
復活したばかりでやや呆けているガストを相手に、神官は五分ほど説教をしだした。
簡単に言うと、命を粗末にするなという教えだった。
神官も心底怒っているわけではなく、復活に伴う説法のようだ。
ガスト心臓が止まってからというもの、私も仲間が死んだ状態というのはどうにも落ち着かなかったが、ようやく安堵の息を吐く。
神官は一気にまくしたてたあと、付け加える。
「はじめまして、ガストさん。今、MPはゼロ、HPは一点のはずです。今夜はゆっくりお休みください」
職員はガストと初対面のようだが、彼が目を覚ました後、その名を呼んでいた。
おそらく、神からその名を聞いたのだろう。さすがは神官。
ひと通り終わったようなので、私は小さく手を上げる。
「すみません。いくつかお願いしたいことがあるんですけど」
すると神官は穏やかな笑みを浮かべる。
「我々ギルド組合は会員の皆さんの問題解決に協力いたします。何でもご相談ください。幸い、今は他の冒険者の方はいらっしゃいませんので、時間はあります」
「例のアンデッド討伐の任務、無事に終了しました」
「おお! それはおめでとうございます」
「これは、依頼主からの証書です」
そう言って、職員に里長にしたためてもらった証書を手渡す。
職員は視線をそちらに走らせる。
「ふむふむ……グール二十二体、スケルトン十体、吸血鬼のしもべ一体、ヴァンパイア三体! ヴァンパイアまでいたんですね。これはブロンズTierへの依頼基準を大幅に超えている。むしろ、よく倒せましたね?」
「はい! それはパーティのみんなが頑張ってくれたので!」
私の後ろでセレスたちが胸を張るのを見て、職員が続ける。
「みなさんベテランのようで、心強い。見込みよりも難易度が高かったので、その分の報酬は基準に従って上乗せします。ところで、『人間四人』とは?」
「その人たちはヴァンパイアに《支配》され、連れてこられたようです」
彼らは疲労が激しく、ひとまずエルフの里で体力回復に努めてもらい、そこから郷里に帰ってもらう。里長は快く引き受けてくれたが、気力の弱った人々が強メンタルのエルフたちに打ちのめされないことを願うばかりだ。
「分かりました。そちらについては冒険者ギルドと神殿が連携して、フォローします。報奨金については査定の都合、少しお時間をください」
あと、これは後々に判明することだが、彼らは近くの森で作業をしており、ヴァンパイアどもにさらわれた。依頼票⑤にあった神隠の被害者で、結果としてこちらも解決していた。そのため、後日手にする報酬はかなりの額になった。
「分かりました。では、次に私以外の三人――ウォーリアのガスト・レンジャーのグース・魔法戦士のセレスの三人をパーティに登録してもらえないでしょうか」
「それではあちらへ」
私たちはテーブル席に案内された。八人掛けのテーブルで、私・戦士・エルフ・盗賊の順に並び、私の対面に職員が腰を下ろす。
「それでは始めましょう。確か、パーティ名は『アムリタ』でしたよね」
職員はテーブルの上で手を広げ、十本の指を動かした。
ギルド組合用のシステムを操作しているようだ。私は念じることでシステムを動かすが、熟練者は指の動きと文字を結び付けている。その方が楽に操作できるらしい。
「それで、ガストさん・セレスさん・グースさんの三名は、現在どこかのパーティに加入していますか。そちらからの除名手続きを行いますので、パーティ名を教えてください」
「俺が加入しているのは『運命のダイス』だ」とガスト。
「同じよ」とセレス。
「同じく」とグース。
「……あの……それ……冗談ですよね?」
職員が怪訝な顔をすると、三人はそれぞれ小さく首を横に振る。
職員が驚くのも無理はない。何しろ三人と一緒に冒険をしていた私も驚いている。
三人が知り合いなのは分かっていたが、よりにもよってこの地の領主と同じパーティ出身だとは思いもしなかったからだ。
つまり、彼らは勇者だった。




