第3章 第4節 その2
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「ガストさん! 大丈夫ですか! ガストさん!」
彼は血まみれで倒れ、すでに呼吸を止めていた。涙がボロボロとこぼれる。
私は回復役として役に立てなかったのだ。
そもそも作戦はこうだった。
中にいるのはヴァンパイアと見当を付けたが、他にも人間がいる可能性もあり、放火は避けた。そこで、屋根を《火炎爆裂》で吹き飛ばし、壁を壊して建物の内部に陽光が入り込みやすい状態にした。ヴァンパイアは陽光を浴びると火傷するらしい。陽光を中に入れることでヤツらが隠れる場所を減らし、こちらは安全地帯を広げる。
グースの立てた作戦は堅実で、貴族階級ではなく、領土持ちではない野良ヴァンパイア三体を圧倒した。何しろ、陽光が差し込む関係で、彼らは自由に動け回れないのだから。
ところが、ほんの一瞬だけ太陽が雲に隠れ、陽光が遮られた。その際、ヴァンパイアたちが反撃に出た。戦況的には悪あがきだったが、窮鼠猫を嚙むというのか、ガストはヴァンパイアどもに囲まれ、鋭い一撃を立て続けに受けて倒れた。
セレスが膝を付き、ガストの顔の様子を確認する。
「私たち冒険者の命は安い。たぶん彼が受けた攻撃は三発ともクリティカルヒットだったのではないかと思われます、彼は昔から運が極端でしたから。《吸血》じゃないだけだいぶマシと思いましょう。グース!」
「おう。いつでもいいぜ。お嬢ちゃん、悪いけど、反対側を持ってくれ」
床に下ろした背嚢の口を大きく広げ、ガストの方に向けていた。
言われたままに反対側を持つが、何をしたいのか分からない。
「何でこんなことをするんですか? こんなところにガストさんの死体が入るわけないじゃないでしょ!」
「いや、入る。これはマジックアイテムだから、ガスト一人分ぐらい余裕で入る。それに、この中では時間経過の概念がなく、死体が腐ることもない。伝説の勇者は遺体を棺桶に入れて引いたらしいが、いくら何でもそれは可哀そうだ……いや、ひょっとしたら、《浮かぶ円盤》の応用かもしれないな」
「そう言えば、復活って教会で依頼するのかしら?」
ガストのつぶやきをスルーしたセレスの問いに私が答える。
「昔はそうだったらしいですが、今は冒険者ギルドに統合されています。本当にガストさんは大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫よ。この私も含め、冒険者はだいたい死亡経験があるわ。ただ、さすがに全滅するとどうにもならないわ。そうならないように回復役がいるのですから、あなたももっと精進なさい。でも、回復役がいくら頑張ってもどうしようもないときも多いから、結果はあまり気にしないことが良いかと思いますよ」
「……はい」
毒舌セレスもこのときは私を励ましているようだった。
セレスがガストの足を少し持ち上げ、グースと私は背嚢を持って移動する。収納口に足から入れると、確かにガストの身体を丸々収納できた。背嚢は見た目には何も変わっていない。結構高価なマジックアイテムなのだろうか。いつか私も欲しいものだ。
ふと、視界の端に表示される「ステータス」の文字が点滅しているのに気付いた。
ステータスを開くと、「通知」が点滅している。
今度は「通知」を開くと、新着が三件。表題だけで内容が分かった。
「あ……レベルアップしました。三レベル分です」
そう言うと、グースとセレスの目がこちらを向く。
「それならお祝いだな」
「し……仕方ないわね……久々に歌声を披露してもいいのよ……」
セレスが恥ずかしそう、でもどこかそわそわし言うのを聞いて気付いた。
レベルアップの歌だ。しかも、ふたりとも歌いたいオーラを出している。この世代の人たちはそんなに歌いたいのだろうか。聞かされる身にもなって欲しい。悶絶死させるつもりなのだろうか。
「禁止です。我がパーティではレベルアップの歌は禁止とします。その代わり、レベルアップした人がみんなに食事を奢ります……それでどうでしょう?」
「……残念だけどしょうがねぇな」
「……残念ね。不味いものならノーカンですよ」
「分かりました」
祝われる人が奢るのは理不尽だが、あのハラスメントに耐えるにはそれぐらいの出費は致し方なかった。ましてや今回は二番までだ。迂闊にガストが復活させたら三重奏を聞く羽目になる。
さて、その後、ここを調査したところ、もともと砦のものと思われる装飾品等は出てきたので、若干稼ぎの足しにはなったが、特別なものは見つからなかった。
また、倒したヴァンパイアは予想通り貴族級ではなかったので、この砦の領土を新たに解放した訳ではなかった。なお、この野良ヴァンパイアやグールたちは誰かからの指示で動いたように見えたが、それを示すものはなかった。
――――というわけで、
新しいパーティの初めての冒険は無事にクリアできました。
ところで、エルフの超絶美人のセレスさんですが、
どうやらパーティに参加する気満々でした。
話を聞いたところ、エルフの里での暮らしは穏やかな反面、
刺激がなさすぎるとのことでした。
代われるものなら、私がエルフの里で暮らしたいくらいです。
とはいえ、現実を知ってしまったので見るだけに留めたいです。
そのセレスさんは年齢不詳ですが、またしても平均年齢は上がった気がします。
超強い魔法戦士みたいなので、怒られないように頑張ります。
それではお元気で。
かしこ




