第3章 第4節 その1
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ガストとグースが遊撃的に移動し、セレスと私が門付近でグールを相手にした。
麻痺は短い時間で済み、その後はパパ特製棍棒が炸裂した。
ひと通り敵を蹴散らした後、再び門付近に集合し、私が呪文で皆の傷を癒す。
無鎧のガストの受けたダメージが大きく、私のMPは枯渇寸前だ。
グースは、肩を回して身体の状態を確認する。
「さて、残すはあの大きな建物だけだな。どうするか……」
先ほどグースに確認してもらったところ、建物自体はボロボロだが、雑な補修はされている。だが、補修部分を壊せば壁から入れなくはない。
ガストは髭を指先で捻じる。
「……突撃だな」
「いいですね! 不意を突いて襲撃する作戦ですね!」
私が同意すると、グースがあんぐりと口を開いている。
「……おっと。呆れて物が言えなかった。お嬢ちゃん、さっきは突撃が正解だったが、突撃が常時正解ってわけじゃない。不意を突くのは大事だが、この状況だとむしろ待ち構えられている。だから不正解中の不正解だ」
「残念ですがグースの言う通りよ。あなた、見た目だけじゃなく、知能までグール並みですの?」
セレスの追い打ちに身が縮む思いだ。
「……すみません。安易に追随しました」
ガストの人間性は疑っていないが、作戦は疑った方が良さそうだ。
セレスが続ける。
「正解は燃やすことよ。見ての通り、乾いた木造の建物でしょ。ましてや中で待ち構えられたら焼くのが手っ取り早いわ。盛大に行きましょう」
「なるほど!」
セレスに同意すると、またしてもグースが顎を外さんばかりに口を開いている。
「……おいおい。揃いも揃って大丈夫か。ジジイや金庫番がいないと不安だな。もう少し考えてみろ。そもそもこの中にいるのが何者か予想できているのか」
私が首を横に振ると、他の二人も首を横に振っている。
グースが盛大に溜息を吐く。
「……はーっ。この砦の敵には幾つか特徴があった。お嬢ちゃん、言ってみろ」
私はこれまでのことを思い出す。
「えぇっと……主な敵はグールとスケルトン、それに人間もいました。人間にはアンデッド化したものとそうではない者もいました」
「そうだ。本来共闘しない人間とアンデッドが一緒にいた。つまり、人間は操られていた可能性が高い。なぜか? おそらくこの砦を修復したいと思うヤツがいるのだろう。普通のアンデッド如きに建物の修理なんてできないから、人間を操って修理をさせたと考えられる。アンデッドで、人間に対する支配能力がある魔物、おそらくこの中にいるのはヴァンパイアだ」
「ヴァ……ヴァンパイア……超強いじゃないですか……」
「ヴァンパイアは生前の能力に依存するため、個体の性能差が大きい。そして、能力の高い個体は貴族として自身の城を構える。だが、ここはそんな立派なものじゃなくて、せいぜい軍の駐留地でしかない。大方、誰かから修繕を命じられてきたのだろう。つまりはヴァンパイアでも下っ端と考えられる。ただ、《支配》の能力はありそうだから、まだ中に人間がいる可能性はある。だから、放火は勧められない。そいつまで焼き殺しかねない」
腕組みをしたセレスが、苛立たしげに尋ねる。
「では、一体どうすればよいのかしら?」
「そうだな――」
そう言って空を仰いだ。今は昼間で太陽は南の方で輝く。
「――屋根をぶっ壊そう。陽光が入りやすくする。セレスの出番だ」
「仕方ありませんね」
そう言って彼女は建物の方に向き、左手を掲げる。
「大気に眠る熱き息吹よ、その苛烈な姿を我が前で示せ。《火炎爆裂》!」
セレスには驚かされてばかりだ。私は二つのことに驚いた。
一つはセレスが《火炎爆裂》の呪文を平然と用いたこと。この呪文は火の玉を作り出し、広範囲に高ダメージを与える。メイジの代表格の呪文で、これを使えれば冒険者なら一流の証とも呼べる。初級の《眠り》とは訳が違う。彼女のレベルは想像以上だ。
もう一つは、極めてどうでもよいことなのだが、呪文の発音が極めて流暢なこと。私が知るのは「ファイアー」で、アクセントは「アー」にあり、「イ」をハッキリと言う。必然的に長音部分は長い。
彼女の発音は「ファィヤー」で、アクセントは「ファ」にあり、「ィ」はおまけみたいな発音で、長音は短い。鼻の高いエルフ固有のイントネーションかもしれない。
何かそれっぽい発音に聞こえるので、私も使う機会があれば真似したい。
まぁ、アコライトなので限りなく無理なのだが。
そうこう思ううちにも、彼女の掌に炎が渦巻き、大きな火の玉に膨れ上がる。
そして、彼女が腕を振り被り、投げるようにしてそれを放つ。
巨大な火球が向かうのは建物の屋根。
――ドーン!
轟音とともに屋根が爆ぜた。森にいた小鳥の群れが飛び立つ。
「ひぃ……」
呪文を唱えるのを見ていたにも関わらず、あまりの爆発ぶりにチビりそうだった。
万一、今の《火炎爆裂》を喰らっていたら、たぶん私のHPでは耐えられない。
ビビッて立ちすくむ私と違い、足を踏み出す者がいた。
「よし! ここからは俺の出番だ!」
ガストが大きな戦鎚で屋敷の壁を吹き飛ばした。




