第1章 第1節
拝啓
パパ、ママ、お元気でしょうか。私は元気です。
家を出てまだ一週間も経っていないのに、
二人に会ったのがずいぶん遠くに感じます。
冒険者は想像以上に大変でした。
まさか都に行くだけで死に掛けるとは思いもしませんでした。
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1
私は今、人生最大のピンチを迎えていた。
凶悪な魔物どもに取り囲まれ、齢十五の儚い命が今まさに散ろうとしている。
その魔物の名はブル―スライム。ギョロリとした大きな目を持つアレである。
熟練の冒険者にとってはただのザコ。大した経験値にもならず、倒すのが手間なだけの存在と一般的に評されている。冒険者ではないパパも「スライムならたぶん倒せるよ」と言っていた。たぶん、みんなが知っている魔物だ。
しかし、私は今日が冒険者としての初日。経験は不十分、クラスは戦闘能力の低いアコ(アコライト。侍僧)、しかもパーティを組む前のソロ状態とあっては、ヤツを倒すのは必ずしも容易なことではない。
ましてや、ブル―スライムは二十匹以上集まり、私の逃げ場は完全に塞がれている。
ヒトを小馬鹿にするような表情を向けられ、少しムカつく。
もちろん実際に馬鹿にしているわけではないだろうが、圧倒的にヤツらの方が有利で、挑発されているように感じても仕方ないというものだ。
(どうして……どうしてこんなことになったの~ッ!)
私の脳裏に、ここ最近の出来事が走馬灯のように駆け巡った――あれ? 私、死んじゃうの?
人は十五歳になると、成人を迎える。
成人と成人未満とでは大きな差が一点あった。酒を飲めること、ではない。
成人になると、「システム」を利用して生きるようになる。
現に、十五年目の人生初日に、視界の端に小さな文字列が浮かんで見えた。
半透明青色の文字で「ステータス」と記されている。
もし何も知らなければ幻影でも見ているのかと驚くだろうが、幸い、私は両親から聞いていたので驚くことはなかった。
両親に言われたことを思い出しつつ、その文字列に意識を向けて頭の中で念じる。
(……ステータス・オープン!)
すると、その瞬間、ファンファーレが鳴り響く。
そして、声が響くとともに文字が浮かんで見えた。
『はじめましてカリーナさん。
十五歳の誕生日、おめでとうございます!
これからは一人前の大人です。自分自身の行動に責任を持って生きましょう。
そのためにもこのシステムを利用して、自身の能力をデザインしてください。
なお、このステータスはあなた専用で、他の人からは認識されません。
それでは初期設定を行います。
はい/いいえ』
人間は大人になると「システム」とともに生きていく。
これは秩序神から施された仕組みで、自分自身をカテゴライズし、数値化することで相対的で客観的な視点を取り入れるためのものだ。また、システムを用いることで、専門分野で高い能力を発揮できるようになる。
ママはそう説明してくれたが、実際に自分で経験するとさすがに少し緊張した。
私にはまだピンと来ないものがあるものの、「システム」は大昔から存在して、パパもママもおじいちゃんもおばあちゃんもこのシステムの世話になっていると聞いているので、きっと大人には必要なものなのだろう。
ママが朝いつも決まった時間にちゃんと起き、美味しい朝食を用意できるのも、ひょっとしたらシステムの恩恵なのかもしれない。
視界に浮かんだ半透明の文字を眺めながら、心の中で「はい」と答える。
――ポーン!
軽やかな音とともに文字が消え、次の文字が浮かび上がる。
『STEP1:職業クラスを選択しよう
職業クラスを選択しましょう。
職業クラスは、今後の人生をどういった業種で生きていくかを定めたものです。
職業クラスに関連した経験をすることで、自身の能力を伸ばしていけます。
職業クラスはシステムがサポートするためのもので、実際の職業とは無関係です。
また、万一、人生をやり直したい場合は、リビルドすることも可能です。
(リビルドについては、各ギルドのサポートを受けて実施してください。)
以下の職業クラスの中から、選択してください。』
概ね、お母さんの言っていた通りだ。
職業クラスは私自身の生き方の方向性を定めるものになる。
アナウンスのあった職業クラスを眺める。
農業・商業・林業・学問・家事などが並ぶ中、目を惹くのは『冒険者』の三文字。
冒険者とは、悪く言えばならず者、良く言えば世界を開拓する者を指す。
世界には未知の場所が多く、また魔族や魔獣のいる地域に人は住めない。
未開の地域を探索し、安全を確保するのが冒険者の役割だ。
私は山深くにある小さな山村で生まれ育った。村人たちは他の大陸から来た移民あるいはその子供たちで、村自体は新しいものの、決して豊かとは言えない。
耕せる土地が狭いため農作物を育てるには不向きで、その上、森の深くには魔獣がいて決して安全ではない。きこりであり、狩人でもあるパパは、森で魔獣に遭遇することがあるという。
両親や村人がもっと安全で豊かに暮らすためには、新しい土地が必要だ。
そのためには、冒険者として新しい土地を見つけ、領土を得るのがてっとり早い。
特に、階級持ちの魔族を倒してその領地を回復した者は、勇者と呼ばれる。冒険者の最高峰を示す称号だ。そして、勇者ともなれば、その土地の領地になることができる。
私の住む村のある地方も過去「運命のダイス」というパーティによって解放された土地で、今の領主さまはそのときのリーダーだったのだとか。見たことも会ったことはないけど、少し憧れる存在ではある。
ひとつ深呼吸を挟み、心の中で「冒険者」と答える。
――ポーン!
『職業クラスは「冒険者」でよろしいですか。
はい/いいえ』
答えはもちろん決まっている。「はい」
――ポーン!
『STEP2:クラスを選択しよう
あなたは、冒険者というカテゴリーの中でどのような役割を担いますか。
自身の使える能力の多くはこのクラスに依存します。
以下の初期クラスの中から、選択してください。
あなたにお勧めの順で表示します。』
アコライト・レンジャー・メイジ・ウォーリアの四つが、順番に表示された。
これら四つのクラスは、冒険者クラスの中でも初期クラスと呼ばれるものだ。
冒険者を選んだ者が最初に通る道で、ある程度の汎用性があるという。この初期クラスで十分な経験を積むと、より専門性の高い上級クラスにクラスチェンジできるらしい。
遠い先のクラスチェンジのことはさておき、残念ながら、私には体力もなければ俊敏さもなく、学もない。
神様には申し訳ないけど、消去法的にアコライト、通称アコを選ぶことにする。
大丈夫。神様はちゃんと信じているので、きっと問題ない。
アコは神に仕える冒険者で、信仰魔法と呼ばれる魔法を使うことができる。
主には、味方の傷を癒すことや状態異常の回復に務める。状況によっては味方を支援することもある。近接戦闘もできはするが、一般的には回復役と呼ばれ、後方支援に回ることが多い。
パーティ内でどのような役割をこなすかは、仲間との関係や私自身の能力も影響する。
そうしたことを見極める賢明さもアコには求められる。
決意とともに「アコライト」と念じる。
ポーンと軽やかなととともに、STEP3が表示された。
どうやら次は能力値を振り分けるようだ。
そのまま、システムの指示に従って、詳細を決めていく。
かくして、私カリーナは、冒険者としての第一歩を踏み出した。




