第3章 第3節 その1
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私たちはまだ森の中にいた。ここから数メートル先までは木が生えているが、そこから先は茂みが程度で、完全に視界が通る。そして、そこからさらに三十メートル先に石壁がそびえ立つ。
石壁の上部に鎧の頭部が見えた。その頭部の大きさから推測するに、壁自体は高さ三階建ての建物ぐらいの高さがあり、その三階の壁の向こうに歩哨が立っている。いわゆる砦だろう。
そして、壁の一部がくりぬかれるようにして、立派な門が付いていた。立派ではあるが、雨露に晒されて長い年月を経過しているためか、見るからに歪んでいる。
グースが目を細める。
「あれは……たぶんスケルトンだな」
歩哨は飾りではないかと思うほどにまったく動かない。おそらく侵入者が現れるまでは見張り続けるのだろう。
セレスの方は違うことを気にしている。
「こんなところに砦があるなんて……たぶん里を作ったときに調査した範囲から若干外れた場所で気付かなかったのでしょう。ずいぶん古い砦なのが分かるわ。あるいは、当時は誰もいなかったから無視したのかもしれない。それはあとで長に確認するとしても……」
壁は石で組まれた立派なものであるが、石と石の隙間から草が生え、ところどころ崩れていた。昔からある砦なのだろうが、経年劣化があちこちに見て取れる。その崩れたところを別の岩や木柱で不格好に補っていた。
――ガン! ガン!
そして、ときどき壁の向こうから低音が響いた。そこには甲高い音も混ざり、不快感をもたらす。おそらく、岩を砕いているのだろう。
「スケルトンやグールはここを新たなねぐらにしようと修理しているのでしょうか」
セレスの言い掛けたことを継いでみたつもりだったが、当のセレスに否定される。
「奴らには知性の欠片もありません。ですから、少なくともスケルトンやグール以外にも修理をできる者と、そいつらを指揮する者がいると考えるべきです。どうします、ガスト?」
三人の視線が、五十過ぎのおじさんに集まった。無精髭を生やした熊みたいな男だが、その逞しい腕力こそが我がパーティの最大戦力だ。
ガストは自分の髭を撫でながら、しばし沈黙する。
「……よし。突撃だ」
「そうね」とセレス。
「それしかないか」とグース。
「えっ……」と私。
「順番は俺、セレス、グース、カリーナの順だ。門は俺が破壊する」
「逆でしょ。ここはACの高い私が前に行くわ」
「そうか。すまんな」
「お嬢ちゃんは俺の後ろな。無茶しないで付いてこい」
三人の話が一気にまとまり掛けたところで、割って入る。
「ちょっと待ってください! 敵は壁の上で待ち構えているんですよ。スケルトン・アーチャーの可能性が高いです。それなのに突撃するんですか? 何かこう作戦とかないんですか。突撃なんて無謀じゃないですか!」
私の不満にセレスが面倒臭そうに答える。
「これが城塞なら水路を経由することはあるでしょう。ですがそんなものはありません。あるいは、準備時間やお金があれば、《飛行》ポーションを用意することはできるでしょう。ですから、まず考えうる選択肢は、この場で戦うか、撤退して準備するか。どちらがよいと思いますか? 言い損ねましたが、《飛行》ポーションは大変高価です。加えて、セントオルドタウンに行く必要があります」
「……答えを誘導してませんか。無い袖は振れません。答えは前者です」
「そうですね。すると、侵入経路は大きく二つ。少しでも崩れた壁を上るか、門を壊すか。もちろん、砦の外周を確認しても構わないけど、衛兵を配置するくらいだから、きっと侵入しやすいところは警備も強化されているでしょう。つまり、時間を掛けて調べたとしても、結局は突撃するのとさして変わりません。もちろん、これが例えば人間の砦なら夜間に忍び込むという選択肢はありますが、今回はアンデッド相手ですからむしろ昼間の方が有効と言えるでしょう」
珍しく、セレスの意見にグースが同調する。
「慎重さを軽んじるつもりはないが、ダンジョン攻略とは違って、襲撃は時間を掛けない方がいい。少なくとも、この壁の向こうで何が行われているのかを特定しなくちゃならない。俺たちが時間を掛ければ、それだけヤツらにも時間を与えることになる。時間を与えることでヤツらがより有利になる可能性だってあるんだ。それなら一気に片を付けるべきだ。それにあの壁を見ろ」
改めて壁を見ると、石壁で陸路からの侵入を防ぎつつも、壁の上の兵を守るように壁がある。こちらから見えるのは、スケルトン兵の頭部だ。守りに向いた作りをしている。
「門にまで辿り着けば、弓は怖くない。あの形状だと、衛兵は前に乗り出せず、真下に撃ち下ろすのは難しい。本来は門の上に石や熱湯を落とす兵士が必要だが、スケルトンごときにそんな器用な動きはできない。正面突破が一番手怖そうに見えて、実は一番安全に見える。もっとも、ガストがすぐに突撃するのは、HFOだからってのもあるけどな」
そう言ってグースが微かに笑った。つられてセレスも少し笑ったような気がした。
突撃することは納得できたが、またしても謎の単語がでてきた。
どうでもよいワードのような気がしたので、聞き返さずにスルーする。
それよりも「門にまで辿り着けば、弓は怖くない」という台詞が印象に残った。逆に言えば、門に辿り着くまでは一方的にやられてしまう。いかにガストのHPが高くとも、チマチマと削られればいつかは致死量に達する。今回は不要にせよ、何か対策をする方が良いのかもしれない。




