第3章 第1節 その1
拝啓
パパ、ママ、お元気でしょうか。私は元気です。
新メンバーのグースさんは簡単に言うと軽戦士で、捜索とかを得意とする方です。
ガストさんの知り合いなのでオジサンですが、パパよりイケメンだと思います。
ところで、ついにアレと出会いました。
きっとママも羨ましがると思います。森に住んでいらっしゃるアレです。
そのイケメンぶりはグースさんでも足下にも及びませんでした。
――――
1
「その話、冗談だろ?」
森の地面を眺めながら、グースが尋ねた。冗談であることを期待した言い方だ。
私も地面を眺めながら答える。森の地面は草木や蔦が生え、朽ちた枝が落ちている。
「冗談じゃありませんよ。依頼主はエルフの里の長です」
先日、冒険者ギルドでパーティ用の装備を整えた。その際、冒険者への依頼が張り出されていたのでブロンズTier向けのものを眺めると、受けられそうなのは五つあった。
①巨大ネズミ退治
②隊商護衛
③ゴブリン集落襲撃
④アンデッド討伐
⑤神隠し調査
ネズミ退治は命を落とすリスクは低そうだが、場所はセントオルドタウンの下水道。髪にまで匂いが染み込みそうで、馬小屋で寝るのと同じぐらいに嫌だ。パス。
護衛は山賊対策で、襲撃されると報酬がかなり上がる。何しろ向こうは待ち構えているわけだから、ほぼ確実に先制される。向こうの攻撃をしのげるかがポイントだ。ただ、襲撃されない可能性もあり、その場合、報酬は最低限になる。安全だと報酬が最低限というのもどこか世知辛い感じもしつつ、キープだろう。
ゴブリンにも戦士や呪い士、あるいは将軍などのランクがあるらしい。そうしたヤツらが群れを率いているのだろう。ガストの攻撃力ならゴブリンぐらい大丈夫な気がした。ただ、集落というだけあって、ある程度の数が見込まれる。現状、アムリタに所属するのは三名。少数のため、数の多い敵とは相性が悪い。パス寄りのキープ。
アンデッドは、予想としてはグールとのこと。ただ、アンデッドはゴブリン以上に多種多様で、何を相手にするかで対応が異なる。事前情報では明示されていない。しかも、依頼主に会うまでに一週間程度掛かるようだ。パス。
神隠しは、森に作用場のある樵や石切たちが行方不明になったのだという。モンスターが出たという情報はなく、作業現場付近に争った跡もない。まずは調査から行うというもの。捜索能力の高そうなグース向きではあるが、私は無力だし、おそらくガストも無力だろう。一人だけに任せてしまう仕事は受けるべきではない。パス。
(どうやら隊商の護衛が妥当そうね……)
依頼票に手を伸ばしたとき、ふと④の依頼票が目に入った。
現場は森の中で、依頼主はエルフの里長。
(えっ? エルフなの!)
私は山育ちではあるが、エルフを見たことはない。おそらく故郷の村人もそうだろう。
エルフは、大きさや肉体構造は人間と似ている。しかし、その祖先は森の精霊と言われ、異種族との連携を好まず、エルフのみでひっそり暮らしているという。
そして、何より、男女揃って美しいらしい。
気付けば④の依頼表をひったくり、職員に受領する旨を伝えていた。
エルフに会えることに興奮し、鼻息が少し荒くなっていた。
その翌日、ガストとグースに依頼を受けた旨を伝えた。その時はアンデッド討伐であることを伝え、依頼主については伏せた。その時は言ってはならない気がしたからだ。
出発前にパーティのメンバー登録しようとしたら、ギルドはまたしても休みだった。
依頼を受けてしまったこともあり、今回はメンバー登録せずに出発した。どうせ今時点では、大したパーティスキルではないだろう。
そして、エルフたちが住む森まで来た。さすがにここまで来たら依頼主の話をしないわけにはいかず、グースから確認された次第だ。
彼らが住むのは森の中で、ここから一週間近く歩いた先だ。踏み分け道はあまりなく、ギルドから教えてもらった説明に従って慎重に進む必要がある。ちなみに、踏み分け道がないのは、エルフは基本的に森の中で生活を完結させるため、町に行く必要がないからだ。人間だとそうはいかない。
「おーい! あったぞ! こんな感じだろ」
ガストがグースに向かって叫んだ。その手には三メートル程の長い棒が握られている。
グースが近寄り、棒を受け取って右に左に軽く振った。
「軽くてバランスの取れた棒だ。お前、昔からこういう探し物とかさせると運が良いよな。羨ましいぜ」
「これも運だと言うなら、そうかもな。俺は運に恵まれている」
「で、グースさん。そんな長い棒をどうするんですか」
「何を言ってんだ。十フィート棒だぞ」
「グースさんこそ、何言ってるんですか。そもそもフィート? 特技のことですか?」
「違う違う。そのフィートじゃない。一フットが歩幅である三〇.四八センチを意味する。その十倍で約三メートルってことだ。ちなみに、フィートはフットの複数形な」
グースの意外な博識ぶりに少し驚きつつも、自分の中で要約する。
「つまり、三メートル棒ってことですね」
「そうは言わない。十フィート棒は十フィート棒だよな、ガスト」
「いや。俺たちが若い時は確かにそう呼んだが、今は馴染みがないかもしれん。それどころか、最近は持たないのかもしれない。町ですれ違った冒険者は持っていなかった」
ガストがどこか寂しそうに漏らしたので、グースが不安そうにこちらに向く。
「え……そうなの?」
私がうなずき返すと、グースが気持ちを立て直す。
「ま、まあ、呼び方は何にせよ、俺がこれを持って先頭を歩く。障害になるようなもの、例えば猟師が仕掛けた罠が発動したり、毒蛇に襲われた場合には、この棒が先に引っ掛かる。冒険者はこうやって生存率を上げるんだ。特にトラップの多いダンジョンは有効だ」
長さの言い方の件はともかく「なるほど……」と思わず漏らした。チュートリアルでも冒険者ギルドでも教えてくれなかったベテランのノウハウに感心する。
ただ、必ずしも障害を事前に排除できるわけではない気がした。
「でも、例えば敵が待ち構えているときは、敵に居場所を教えませんか。ガサガサと茂みを払うわけですよね」
「それは諦めている。例えば、俺一人なら忍び足の方がバレないかもしれないが、パーティだとどうしても忍び足が成立しない。誰かしら苦手なヤツがいるからだ。だから、回避性能の高い俺が少し先を先行する。もし、敵が待ち構えていたとしたら、一撃目は俺がしのぎ、無傷のガストと入れ替わる」
「なるほど。何かパーティっぽいですね」
するとガストが口を挟む。
「『ぽい』じゃない。俺たちはパーティだ。互いの長所と短所を補い、最善を目指そう。そして、いつかは魔王を討伐するんだ」
「はい!」
前向きに返事をすると、グースが後ろ向きに言う。
「でもよぉ、エルフの里だろ?」
「そうですよ。あの、エルフですよ!」
美男美女揃いのエルフですよ! とはさすがに言わなかった。
「エルフか……まったく復帰早々嫌な仕事だな。とりあえずさっさと行くか」
グースが会話を切り上げ、先頭を歩き始めた。
一体何が嫌だというのだろう。




