街の陰 1
ちょっと前に宰様様から初城外のお出掛けのお許しが出た。といっても神殿経由で城下町をぐるりと回るだけ。神殿ですら下車は許されず、ただ回遊するだけの外出だった。
私が外出したいと煩いから、出るには出るのだからそれで我慢しろと言うおためごかしな外出だったのだけどね。
それでも車窓から見る初王都の大通りは賑やかな街で、おそらく貴族相手の店が多いのだろう。とても綺麗な街並みにヨーロッパ中世の海外映画のセットの様だった。
高さが揃えられた建物が綺麗な街並みや人の営みや香りだったり喧騒がある。まるで4D映画かVRで見ている画面の中に自分が入り込んだようで、いや実際入っているのだけど〜囲み(馬車)の中から見ているからイマイチ実感が無いのだが、ウキウキ感はあるの。知らない異世界の街だ〜!!ってね。
そんな気持ちで見ていたが、下町の庶民の生活圏に差し掛かると、其処彼処の路地奥は様子が違った。
たむろする栄養不良らしき子供が沢山居た。細い体に襤褸を纏いギラギラした目だけが目立って、街中の陰に屯して腹を空かしているのだろう、ヨダレをたらして獲物を狙う野良犬の如し。
所々に寝転がり動かない襤褸が重なり合うように路地の奥の方に放置されているのもちらっと見えた。
ハエらしき虫が飛び回っていたので、もうだめなのだろう。
街の人もその路地の事は見ないようにしているのか、無関心で忘れ去られたと言うよりは見なかった事にされたているのかな?
それでも放置は駄目だよ。
人道的にも衛生的にも‥ダメだよ。
「なんなんだよこの世界!」
ウキウキしていた私の様子の変化に気づいたアンナちゃんが、重い口を開けて説明をくれた。
一年程前にあった魔獣の大発生で街や村や森が壊滅し、国境近くの平民からかなりの死者が出た。その前の戦争もまだ傷跡を残していて、復興出来ていなかった所に天候不良も重なった。踏んだり蹴ったりだ。
それにより国境付近の田畑の被害と森はほぼ全滅。戦争と魔獣討伐で駆り出された男達の多くを失った領地の田畑は荒れ、飢饉の加速を促してしまったらしい。
で、魔獣‥?
居るんだ、居るんだね魔獣が…
召喚とかしちゃう魔法世界だもんねそうか‥いるんだ。
生活の中であまり魔法を見ないので実感が湧かないのだけど、そうかここは剣と魔法の世界だった。
あー本題に戻ろうか。
その戦や魔獣による森の消失により親を失った子や、職が無く子を育てられず捨てたり売ったりする親が増えた事。それにより自然と王都に子供が集まり屯するに至った。
ここはまだハイタウン寄りでマシな方という事。
ダウンタウンは‥と聞けばアンナちゃんは口を噤むんだ。ここより酷い所がある‥わけね。
農民達は畑が無くなり、家が無くなり地元では生きられなくなった。天候もかなり影響しているそうだ。森の民は魔獣の大量発生で家を奪われ他の領地へお預けになったそうだが、戦争孤児は王都に職探しで出てきた。
戦争孤児として神殿推奨の奉仕とかで下男下女として貴族や商家の奉公に上がれたのはごく一部で、殆どは職にあぶれた。
ある者は娼館に売られたり、密かに外国に売られたなどの自身売買の噂も絶えないそうだが、噂だけでは無さそうなのは襤褸を纏う子達を見ればわかるというものだろう。ここは無法地帯だ。
耕す人を失った土地は税を払えず、残った女子供は職を求めて地元を捨てたそして行き場のなくなった人達が後から後から王都にやって来る。だが王都も更に職がなく身持ちを崩すしか無かった?
負の連鎖だ。
戦争に、雨が降らないとかの天候不順と魔獣被害に苦しんでいる民から王はお構い無しに税を徴収しているのか‥?バカ過ぎて頭痛いわ。
復興まで税の免除は当たり前の措置だよね?あ〜自分の息子も御せない王だったわ、しかしあの宰相様がいてこの無能さは何だ?
身を売る子、人を襲い糧を得る子、それさえ出来ないで耐えるしかない子供達は街に多く居るらしい。弱い者にしわ寄せが‥国民が飢えているのにお偉いさんは知らん顔か!
第二王子の顔が浮かんで、思わずあのお綺麗な金髪をふんずかまえて地面に叩きつける幻想を頭の中で展開してしまった。トップが阿呆揃いだと民は苦労するの見本かよ!
時勢に飲み込まれ抗えなかった力無き民達か‥‥私と同じだ。
私がこちらに来た時、殺されるとおののき、形振り構わず胡散臭い宰相に必死で縋った、バカ騎士に何をされても耐えたのはここで死にたくない!そう思ったからだ。
あの子達も生きたいから身を窶しても街で必死に生きているんだよね?
急に怒鳴りあう声が聞こえ何処だと探すと、物陰で身なりの良い13・4才の男の子が数人集まっていた。喧嘩?
馬車が通り過ぎた瞬間見たものはニヤつく身形の良い少年が、何かを高々と持ち上げそれを必死に取ろうとするボサボサ頭でボロい服を着ているこれまた少年だ。とても痩せているのでフラフラしている。パンか…でもそれカビてないか?遠目でも緑っぽい物が見えたけど、それでもやっと見つけた食べ物なのかもしれない。
田舎者を虐める都会の少年たちか‥
浅ましい愚か者の顔してる。
弱者を虐めて何が楽しい?気分悪‥
《アクジバレテツカマッテシマエ》
食べ物がある事が、暖かいベットで眠れる事が、守られていることが普通ではなくて、幸運なのだと知らないのだろうかあのガキは…
「エリオット君、ごめんさっきの路地の子助けてあげて」
「‥あの、もう兵団が駆けつけている様ですので大丈夫かと」
「え?あ‥ほんとだ、なんか囲まれてるね良かった‥良かったよ」
ほんの氷山の一角であっても見たからには、辛いことになっていないでと祈ってしまう。後ろ髪を引かれる思いで街を後にした。




