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その時


ひらりと馬から降りてお共に手綱を渡しちゃったね?何するつもりかな?

こっち来るよ。片口上がってる上がってる。怖っ、眼怖っ

さっとエリオット君が前に立ちはだかりバカを睨んでくれたので心強いよ。


さて肝心な人はまだかな?


「呑気に朝から散歩か?何もする事が無いのならせめて聖女様の爪の垢でも飲ませてもらえ、はしたない格好をして無駄な毎日しか送れないことの恥を知れ。ただ飯食いめ」


階段の無駄に広い踊り場で、エリオット君の影に隠れながらも平静を装い腕のストレッチしながら、バカには興味ありませんと目的の方を探していたら流石にその態度に怒ってかバカ騎士からとんでも発言発射!


「顔や頭だけで無く耳も悪いのか」


なので、つい積っていたモノが噴き出した。エリオット君がいるから強気になっちゃったよ。テヘ


「へー聖女様は民のために何か仕事してますの⤴︎」(関西弁風になったわ)

「はぁ?」

「第二王子様や取り巻き達と贅沢三昧、夜会三昧遊んでいるってきいてますけど⤵︎神殿からの要請の地方への巡礼はいつ行きますの⤴︎」

「‥くっ」


反論できまい、痛い所を突けたかな?私に嫌味を言ってくるのは最早定番もう慣れたし。私の小さな反撃に反論出来ずに口篭るとは情けない。

勿論心の中ではもっと凄いのバンバン罵っているが、後に不敬と言われたら面倒なので言葉にはしないよ。私ってば大人だから!ただ私は無言で頭の中では罵詈雑言を絶叫中。


〈豪華ドレスとか宝石とか沢山王子に買わせているしクイーンこそ無駄遣いしてるじゃん。な〜んも仕事しないで遊んでばかりのはそっちだろか!民の血税無駄遣い〜

王子だって何も仕事してないって噂だけど?少なくとも私はこの国の何かしらの役には立っていると思ってます〜宰相様は私の進言を嬉しそうに聴いてくれてるもん!ボルゾイ君やお馬さん達も下男下女さん達も元気になったって感謝されて、きもーち少しは人の為になってるもーん〉


なんて声にして言ってやらない。


バカの言葉など真実じゃないから

なーんも心に響きませんね。

言い返して来ないので、ストレッチを続けながらバカの様子を伺うと、初手の一言で既に反論できずに顔色が悪くなったのね。草だわ。


フンッって鼻で笑っちゃった。言い返せないでやんの!

あれ?バカでもわかっていたんだ聖女様の真実を‥それは新発見だね。全く見ようとていなかったかと思ったけど


感心していたらバカが急にギュッと眉を寄せカチリと柄に手を置き構えた。鼻で笑ったのが気に障ったか?何も仕事をしていないと分かっていても聖女信仰は辞めないのねぇ?

ハァァ〜頭悪っ。

思ったのと違うなんてよくある事で、考えを変えることは逃げてでは無いのに、方向転換は苦手ですか?頭硬いね。


剣を出す格好をして脅して来たバカ騎士め。相変わらず力でどうこう出来ると思ってる?あーあ凄い顔だ。

武器を持たない女にそれ程の殺気向けるなんて、ホント小っさいな。


あーあ、周辺も息を呑み動けないって感じになっちゃった。今日は目撃者が多いよ。人の居ない城の廊下じゃ無いんだけど?それ抜いたら大変な事になるよ。


アレ?エリオット君も剣に手を掛けている。あっと、君は手を出さないで大丈夫だからね。

バカ騎士を睨みながら、エリオット君の方に手を伸ばし大丈夫だよと留めさせる。


以前抜刀してスカートを切られているので、コイツがマジでやるサイコなヤツだと言うのは嫌でもわかっている。

身を切られかけた恐怖は未だ消えてない、だが視線を逸らすものか!逸らしたら最後だ!だから震える脚に心で叱咤をかまし、引き攣る口元を無理やり動かしてニコリと笑う。


「何故笑う?文句があるなら殿下に申しあげろ!言えるものならな」


と偉そうに顎上がってるよ。マウント取ったつもりかもだけど全然怖くないよーだ。

殿下に申しあげろ?

伝家の宝刀出したよ殿下だけにププ。虎の威を借りるバカらしいね。


え〜と文句…ね


こちとら文句だらけだ馬鹿野郎!

自分を狙う変態を至近距離で見なければならない苦痛なんてアンタにはわからんだろうが!


誰がお前のフィールドで戦うか!

まだよ、まだ。


何時もは姿を見たら即逃げるか、会っちゃったらその場から逃げる(そうして欲しいと宰相様からバカ騎士への対応の指示あり)デキル護衛エリオット君なので、接触しないようにしてくれていたのだろう。だが今日はあっちから来ちゃったのだからガン無視で笑ってやったわ。バカ騎士なんか怖くない!と自分に言い聞かせるために。


アンナちゃんはアタフタしているけど、私は右手の時計をチラ見して二人に大丈夫と合図する。テンションの上がったバカの暴言に、はぁーぁと呆れ顔でため息を漏らして肩を竦める。


今までに無い私の態度に馬鹿にされたのだと分かったのだろう、赤い顔で興奮したバカ騎士の声が更にデカくなる。


周辺に居る侍女さんや下男さん達もザワザワしてきたぞ。良いぞもっと踊れ


よし、時間通り彼の方が来た!


それを確認してから、ヤツの目の前へとひらりと出て、剣が出せない位置にずいと進む。ついでにバカの足も踏んづけた。そしてバカ騎士にだけ聴こえる様に一言をぶちかます。


「側近が、第二王子の大好きな聖女様に手を出す事なんたあってはならないですものね?こんな所で私なんかに、嫌味を言うしかその苦しい気持ちを発散できない小者っぷり晒してお可哀想すぎですよ。心底ご同情申し上げます。」


“ご同情”に力を込めて強調した。

更に ニッコリ と会心の笑みを浮かべるのも忘れないようにね。


彼の方にはまだ聞こえない距離だが、バカの耳にはちゃんと届いた様だ。剣が抜けないと分かった途端、凄い形相で手が伸び素早く私の胸ぐらを掴んだ馬鹿騎士。


剣を抜けない距離にワザと近寄り立ったのはこの為でもある。身を引いて構えさせない為に身体を引きそうになった時に残ってしまった片足に全体重かけてバカの靴に乗り、踏んづけていたのはこれをさせる為。勿論きき足では無い背後に引く脚がどちらかなんて研究済っすよ!


ヤツは早々に剣を諦め私の胸倉を掴み拘束を図るも、毛嫌いする私がヤツのパーソナルスペースに既に侵入していた事により、更に自身の手で威嚇の為とはいえより自身に引き寄せた様な結果になったら?

それも、バカにした半笑いで


「女々しいよね…」


とか小声で追い討ち嫌味を言われたら?

心底嫌そうな顔で、拘束から排除行動である掴んだ胸倉を押し離すという行動に移した。


奴は見えていなかった、いや覚えていなかったのだろう。

押された私の背後には緩い段差の階段がある事を。押された勢いのまま私の体は軽々と階段下へとつき飛ばされた。


騎士連中との平素の訓練の組手ではこれくらいの力加減で人がすっ飛ぶ事は無いのだろうが、私は女子!

体格差、筋力差、体重差有りで、踏ん張る程の脚の筋力無し。ついでに言えば襟元を掴まれて若干体は浮いていたので踏み止まれる訳がない。


まずいかな‥思った以上の力だ。


このままだと最悪頭から落ちるかも。

悪くて背中の強打、よくて尻から落ちれれば御の字だが。


咄嗟に頭を守る体勢を取り少し体をひねった。

多少の怪我はありがたい事にすぐ治るチートな体みたいなので、なんとかなる‥筈。


きゃーと何処からか女性の悲鳴がつんざくのが聞こえた。周辺にいた侍女さん達か?叫ぶ位なら止めに来る格好でもしてよ。

エリオット君?が私の名を多分呼んだが答える余裕は無い。伸ばされた手が虚しい程に遠い。見える景色がスローモーションの様にゆっくりと流れて遠のいた。


***  ***


空中から叩き落とされ当たったのは背中か?バウンドし、勢いのまま次の踊り場まで派手に転がり落ちぐったり倒れこむ。

当たりが尻よりちょい背中寄りかな、アレが丁度当たったけれどかなりの衝撃は背骨や尾骶骨にと響いているから痛いものは痛い。

転がった事で肩に腕に脚にと石の階段が擦れ当たり‥これは痛いね。でも下手に止めると重力が一点にかかり余計な怪我をしそうなので流されるまま転がる転がる、そして転がる。


つぅ、背に階段角が当たったか?

瞬間肺に空気が入ってこないっ


実は尻と背中には保護パット替わりに携帯座布団(100均で購入の空気入れる折りたたみのおざぶ)を二枚つけてるが、段差の緩い階段であるのに予想外に飛ばされたから、着地後の転がりがゴッツ痛かった。

想定外ではあるけど頭は守れたから範疇であると言えるか‥一応ネックピローを(同じく空気入れるやつは首に巻いている)ショールで見えない様にしているが気は失っていない、でも痛い。


木の葉の様に落ちる私を、やっちまったってバカのあの瞬間の顔。

なんとも言えない驚愕の顔で今まで見たことの無い表情が見れたのは愉快だね。

自身の背中の痛みよりもそっちが上回ったのは自分でも恐って思った。

人の怨念って黒いよね。己が身を犠牲に出来るほどの怨嗟って原動力でもあるが、ほんと怖いもんだ。


普通さ、目の前の人が落下する時って思わず反射で助ける為に掴もうと手が出ない?エリオット君の様にね…

奴は驚愕のため微動だにせず、救助行動なんて何もしなかった。奴の顔が怒りで真っ赤になっていたのが、次の回転後見たときは漸く蒼白になりながらも自分の事では無い様に立ち尽くしていた。

私はまるでドラマのワンシーンをみている様に冷静に観察して、そして何故かがっかりした。

やっぱりねと、そして何故そこまで私を投げ飛ばしても構わないと思うほど私を憎んでいるのか不思議でしょうがなかった。出会ってすぐ怒りをぶつけられた私は、バカに対して何もしていないのにだ。クイーンが何か言ったかな?


何処か遠くでエリオット君の緊迫した私を呼ぶ声と伸ばされた手、アンナちゃんの悲鳴、ギャラリーの悲鳴も聞こえた。

皆んなに心配させちゃった?

やっぱ言っておけばよかったかな…いやいや言ったら阻止されたよねでも、驚かせちゃったね。

なんか、ゴメン。バカをやり込めることしか頭になかった‥今更だけど。


***  ***


何時もの様に登城して来た上司様は、突然に目の前で部下である騎士が自分の見知った女性を階段下へ突き飛ばした事象を見て、怒りの形相に変わり馬を素早く操り駆けつけてくれた。


「誰か医師を呼べ至急だ!大丈夫かお嬢さん、意識は‥虚ろだな、頭は打っていないか?外傷はなさそうだが息は‥息は出来るか?骨は見た目折れていないが、医師はまだか?運ぶ物を用意しろ!お嬢さん私がわかるか?何処が痛い?」


(うん、背中痛くて息‥しづらい)

1番に私に駆け寄ったエリオット君を押しのけるように上司様が私の現状を確認してくれている。慣れてるな‥


そうか騎士だから‥落馬とかしょっ中あるんだろうな。こう言う落下系の怪我は慣れっこかもしれない。

冷静な対処が有難い。

クッションはしているが、流石に地面設置時の衝撃は大きくて(予想外に飛んだ為に)ちょっと息ができなかったくらいで意識はちゃんとしている…と思う。声が聞こえているし、何を言われているかは理解しているよ。


担架が来たのかテキパキと処置されエリオット君と友人のボルゾイ君達(君らもいたの?)によって担架で騎士棟の診察室へとあっという間に運ばれた。


はじめはエリオット君に抱き上げられて運ばれそうになったのだけど、頭を揺らすな、背を曲げるな、との総団長様の鶴の一声で担架運びになりました。抱っこも恥ずかしいが担架で運ばれるのも結構くるわね。

そっとアンナちゃんがショールを顔にかけてくれたのが嬉しかった。


運ばれた診療室で、さあ治療だとなった時に、フラフラと部屋の中まで付いて来たバカに気付き上司様が取り敢えずのジャッジをぶっ放す。

犯行現場を見ているので話が早い。


「貴様は馬鹿か?か弱き女性に手をかけるなど騎士の名折れだ。何をしたのかわかっているのか?まず所属と名を‥ん?

お前、その服その襟章は第2王子の近衛‥そうかお前か‥話にならんな。だからこうなる前にと言ったのにまったく。はぁ、お前は騎士寮で聴取を行うまで留置だ。例え殿下であっでも、親族も外部接触などしたら騎士を即辞めてもらうからな。聴取は直ぐ行うがまずはお嬢さんの怪我の確認と治療が先だ、誰かコイツを捕まて留置場に閉じ込めておけ」

「はっ」



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