#03 ひび割れた日常
今回で第3話になります!
※今回は食事中とかに見ないほうがいいかも
みんなって暗殺教室の中でどのキャラが一番好き?コメントで教えて!
それではどうぞ!
放課後のチャイムが鳴り終わるか終わらないかのタイミングで、俺の肩を巨大な万力が掴んだ。
「瀬戸。ちょっとツラ貸せ」
見上げると、クラスで一番の巨漢である濱田剛が、俺を見下ろしていた。建設現場の作業員のように日に焼けた屈強な体躯。彼に逆らうクラスメイトは誰もいない。
教室中が息を潜める中、俺は小さく頷いた。
「わかった。どこに行けばいい?」
「……体育館の裏だ」
濱田の声は低く、そしてどこか、すり減った機械のようなくぐもった響きがあった。
連れてこられた体育館裏は、夕日の死角になり、ひんやりとした薄暗さに包まれていた。
そこにはすでに、男子のリーダー格である吉井くんをはじめとする数人の男子がたむろしていた。彼らは俺の姿を見ると、一斉に顔をしかめ、舌打ちをした。
「遅えよ、濱田」
「悪い。こいつの歩くのが遅くてな」
ドンッ、と背中を押され、俺はコンクリートの壁に背中を打ち付けた。
吉井がゆっくりと歩み寄ってくる。彼の目は血走り、制服のネクタイを苛立たしげに緩めていた。
「なあ、瀬戸。お前、いつまでここにいるつもりだ?」
「いつまでって……卒業するまでだけど?」
「ふざけんなッ!!」
ガンッ!! と、吉井の拳が俺の顔のすぐ横、コンクリートの壁に叩きつけられた。パラパラと崩れた砂が頬に当たる。
吉井の荒い息遣いが、鼻先で交差した。
「お前がヘラヘラ笑ってここにいるせいで、俺たちがどれだけ……っ! 毎日毎日、どれだけクソみたいな気分で過ごしてると思ってんだよ! 早く……っ、早く諦めろよ! ここはお前のいる場所じゃねえんだよ!!」
彼の怒鳴り声は、いじめっ子の理不尽なイチャモンには違いなかったが、その声帯は悲鳴のように震えていた。
「諦めるって、何を? 俺はみんなと一緒にいたいだけだよ」
俺が静かにそう答えた瞬間、吉井の表情がグシャリと歪んだ。
「……っ、この、バカ野郎が!!」
鈍い音が響いた。
吉井の右ストレートが、俺の頬を思い切り殴りつけたのだ。
視界が横に吹き飛び、口の中に鉄の味が広がる。膝から崩れ落ちた俺を、吉井はさらに胸倉を掴んで引きずり起こした。
「反抗しろよ! 殴り返してこいよ!! 俺を憎め!! お前、自分が何されてるか分かってんのか!? 怒れよ、クソッ!!」
「……吉井、もうやめとけ。お前が潰れるぞ」
背後から濱田が静止に入った。だが、その止め方もどこか奇妙だった。
「これ以上は負荷が強すぎる。……それに、お前の『シフト』、明日も早いだろ」
シフト? 高校生が部活や勉強よりも先にバイトの心配をしているのだろうか。いや、それにしては濱田の言い方は、もっと重い、大人の『仕事』のようなニュアンスを帯びていた。
「うるせえ! 俺がやんなきゃ……俺が嫌われなきゃダメなんだよ!!」
吉井は半狂乱で叫び、再び俺の腹に拳を叩き込んだ。
「ぐっ……!」
俺は息を詰まらせ、その場にうずくまる。
だが、その時だった。
「おえぇぇぇぇッ!!」
激しい嘔吐音が体育館裏に響いた。
顔を上げると、俺を殴ったはずの吉井が、少し離れた排水溝の前に四つん這いになり、胃液を激しく吐き出していたのだ。
「ゲホッ、オエッ……っ、はぁ、はぁ……っ」
彼は涙とよだれで顔をぐしゃぐしゃにしながら、地面を掻き毟るようにして震えている。
殴られた俺よりも、殴った彼の方が、まるで致命傷を負ったかのように苦しんでいた。他の男子たちも吉井を介抱するどころか、自分たちも吐き気を堪えるように口元を押さえ、蒼白な顔で目を逸らしている。
「……吉井くん」
俺は口元の血を手の甲で拭い、ゆっくりと立ち上がると、吉井の背中に近づいた。
「来るなッ!!」
「ごめんね。俺の顔、硬かったでしょ。手が痛かったよね」
俺が自分のハンカチを取り出し、吉井の震える右手にそっと巻きつけると、吉井はビクッと体を跳ねさせた。
彼の拳は、俺を殴った衝撃ですりむけ、血が滲んでいた。
「なんで……なんで、俺なんかに……っ」
「だって、吉井くん、泣いてるみたいだったから」
その瞬間、吉井の喉の奥から「ヒッ」というひきつけを起こしたような音が漏れた。彼は俺の手を振り払うと、逃げるように走り出した。
「クソッ! クソがあぁぁぁッ!!」
叫び声を上げながら遠ざかる吉井の背中を、濱田たちが慌てて追いかけていく。
嵐が去った後の体育館裏。
俺は一人立ち尽くし、ふと自分の足元を見た。
コンクリートの地面に落ちた俺の血の雫。それが、どういうわけか地面に染み込まず、まるで赤いガラス玉のように表面張力を保ったまま「静止」していた。
そして次の瞬間、その血の玉はノイズのようにチカッと点滅し、フッと空間から『消滅』したのだ。
「……気のせいか?」
頭を振る。殴られたせいで幻覚を見たのだろう。
俺は小さく息を吐き、鞄を取りに教室へと戻ることにした。
すっかり日が落ち、校舎は不気味なほど静まり返っていた。
2年A組の教室に近づいた時、俺はふと足をとめた。誰もいないはずの教室に、明かりが灯っていたからだ。
廊下の窓からそっと中を覗き込む。
そこにいたのは、如月さんだった。
彼女は俺の席に座り、机の上のスタンドライトだけをつけて、何かを必死に手作業で行っていた。
よく見ると、それは今日の昼休みに、彼女自身が「目障りだから」と言ってビリビリに破り捨てた、俺の数学のノートだった。
彼女は、粉々になったノートの切れ端を一枚一枚拾い集め、セロハンテープで丁寧に、それこそ祈るような手つきで繋ぎ合わせていた。
その横顔を照らす光に、キラキラと光るものが筋を作って落ちていく。
「……っ、ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
静かな教室に、彼女の嗚咽が響く。
「こんなこと、したくない……っ。でも、こうするしか……お願い、早く……早く起きて……っ」
彼女は修復したノートに顔を埋め、肩を震わせて泣き崩れた。
昼間の氷のように冷酷な彼女の姿はどこにもない。そこにあるのは、大切なものを傷つけてしまった罪悪感に押し潰されそうな、一人の脆い人間の姿だった。
俺はドアを開けることができなかった。
心臓が早鐘のように打っている。
「起きて」って、どういう意味だ? 俺は起きている。こうしてここに立っている。
彼らはなぜ俺をいじめるのか。なぜ俺を傷つけながら、自分たちの方が心を壊していくのか。
そして、なぜ俺は……彼らからどれだけ酷い仕打ちを受けても、憎しむどころか、彼らを抱きしめて「大丈夫だ」と言ってやりたいという、狂おしいほどの愛おしさを感じてしまうのか。
この世界には、俺の知らない『致命的なひび割れ』がある。
俺は廊下の冷たい壁に背中を預け、如月さんの泣き声が止むまで、じっと暗闇の中で立ち尽くしていた。
スクロールとご視聴ありがとうございました!
いやぁ〜結構シリアスな感じに行きましたね!
次回も投稿します!
お楽しみに!




