仮説の立証
又賀は天羽に電話をかけた。
「もしもし天羽さん。今お時間いただけますか?」
「お、いいよ?仮説できた?」
「はい、しかし…とても信じ難くて…。」
「いいよいいよ。聞かせて。」
又賀は少し不安ながらも天羽に考えたことや仮定を一通り説明した。
「なるほどね…。じゃ、まとめて教えてくれる?柊華ちゃんの仮説を。」
「わかりました。末岡さんはズレた腕時計を頼りに始業時間ぴったりに来た。決して時間に適当なわけではない。
ならなぜ時期の説明に『ほど』を多用するのか。
私は何かを濁してるのかなと考えました。
そして時期を濁すのは何か言及された時に言い訳ができやすいから、と考えます。
次に、失踪が10日前、警察に行ったのが恐らく3日前。この空白の7日に着目しました。
末岡さんは警察に探して欲しいと言い、相手にされなかったら探偵に頼むほど松山さんを心配している。しかし、警察に行くまでに何もしなかった7日間。そして彼氏の職場すらわからない。
これは心配とは対照的でどこか無関心なように見えます。
末岡さんは大切な時期を濁す、彼氏の職場もわからないし、1週間は探さない。
けど松山さんは探して欲しい。
これらを総合すると、ある仮説が浮かびました。」
末岡さんが時期を濁すのはいつか足をすくわれた時に言い訳できるように。
末岡さんは彼氏の職場を知り得なかったのではないか。
末岡さんは松山さんと3ヶ月前に付き合った。10日前に失踪した。3日前に警察に行った。
それが全て嘘だったのではないか。」
天羽は黙ったまま又賀の話を聞いた。
「今考えると3ヶ月前に付き合うのがおかしい気がします。高校の中で付き合うならわかります。しかし松山さんは去年卒業、そして就職。なぜ8月から9月の間に付き合えるのか。
不可能ではないでしょうが、とても確率が低いと感じます。
だから、私は末岡さんが付き合ったという話を嘘と仮定します。
もし、失踪が10日前というのが嘘なら謎の空白の7日間も存在しない。
3日前の警察の件も、末岡さんは行っていないから警察は動かない。
辻褄が合います。
そしてなぜ、こんなにも嘘を塗り固めて探偵事務所に来たのか。
私は1つのストーリーを思い浮かべました。
末岡さんは松山さんのことが好きだった。
松山さんをたくさん盗撮してしまうほどに。」
末岡の渡した写真に天羽が抱いた違和感。
彼氏との写真のはずなのになぜこんなに松山が末岡を認知していないようなのか。
加えて末岡が送った別角度の10枚の写真。
横顔、斜め、様々な角度があったが、全ての写真において松山は一度もカメラに目線を向けていなかった。
又賀は続けた。
「末岡さんは高校で出会った松山さんを好きになった。
しかし、末岡さんが2年生とき、松山さんは卒業。
末岡さんは松山さんの職場はわからずとも住所は知っていた。
恐らく下校中を尾行したのでしょう。
しかし、時期は不明ですが松山さんは引っ越した。
末岡さんは松山さんを探そうとしたが、付き合ってもいない赤の他人が警察に頼んでも無意味。
だから警察より融通が利くと思った探偵に頼んだ。」
「なんで末岡さんはそんなことしたと思う?」
又賀は天羽のメモ帳の切り目に書いてあった文を思い出した。
『末 は の可 性が い』
「末岡はストーカーの可能性が高い。」
その話を聞いて天羽はフッと笑った。
「さすが柊華ちゃん。私もそう思うよ。」
「…よかったです。すいません拙い説明で…。」
「いやぁ、助手の成長は微笑ましいね。最初は荷物持ちしかできなかったのに…。」
天羽は一息ついてまた口を開いた。
「けど、ひとつ忠告。」
「え?」
「真実は仮説通りとは限らない。囚われたらすぎたら駄目だよ。」
「え?それってどういう…。」
「まぁいつか長い探偵人生のうちにわかるさ。」
「はい…。」
又賀には天羽の言葉の真意が掴めなかった。
しかも、又賀は探偵ではない。
そんなことを考えてるうちに、天羽の電話の奥から車が通り過ぎる音が聞こえた。
「あれ、そういえば天羽さんはどこにいるんですか?」
「今は松山遥を探してる。警告も兼ねて、末岡さんのことを聞いてみるよ。」
「私もそっちに行っていいですか?」
「ごめん、今日は荷物が届くから待っててくれない?」
又賀は内心そんな理由で?と思ったが、仕方なく了承した。
「んじゃ、そろそろ切るね。」
「わかりました。また。」
天羽との電話が切れた。
又賀は自分の仮説を立てれて満足していたが、天羽は末岡の話を聞いてる間にこの考えを導き出した。
あの事細かなメモを書いた上でだ。
「天羽さんはすごいなぁ…。探偵じゃなかったらもっと稼げただろうに…。」
又賀は使い疲れた頭を休ませるためにソファに座り込んだ。
横目に扉と壁に埋め込まれたポストが見えた。
ポストにはもう1つ封筒が投函されていた。
「あれ、末岡さんのとは別…。」
又賀は腰を上げ、末岡のとは違う封筒を拾った。
「宛名、天羽探偵事務所 天羽日向様。
送り主…坂下桃花…知らない人だ…。」
又賀は封筒を無意識に開けそうになったが、思いとどまった。
「流石にダメだな。天羽さんの机に置いておこう。」
少し時間が経ち、配達物が届いたので受け取って、又賀は眠りについた。
「ただいまー。ってあれ、寝ちゃったのか。」
天羽は郵便物を開けて中身を取り出した。
「もう寒くなるからね…。」
ダンボールの中から2枚の毛布を取り出して、片方は又賀に掛けてあげた。
寝ている又賀を横目に天羽は自分の机に向かった。
「…坂下。桃花ちゃんか。」
静かな事務所に封筒を開ける紙の音が響いた。
中には手紙と写真が入っていた。
「…またか。全く、世界は殺伐としてるね…。」
入っていたものを目に入れた天羽は、引き出しの中に封筒をしまって、自身のガラケーを持ち、事務所を出た。




