探偵のしごと
~♪
いつものアラームのサウンドで目が覚めた。
前までは自室のベッド、家出の時は最寄り駅のベンチ、最近は探偵事務所内のソファの上。
重い体を起こすと天羽が自身の机の上で伏せて寝ていた。
又賀が天羽の助手になってから数週間、簡単な依頼をこなす生活。
学校や家族のことを忘れて職務に専念できていた。
「天羽さん、時間です。起きてください。」
又賀は天羽の下でしばらく働いて結構慣れてきたが、探偵の仕事は思っていたものと似ても似つかなかった。
アニメやドラマで見た探偵は、眼鏡を光らせ、刑事事件を華やかに解決し、優雅に現場を後にする。
しかし現実は、事務所に訪れた依頼人の要求を聞き、人探しや、浮気調査、ストーカーの調査などを行う。
空想とかけ離れた地道な調査、長時間張り込んで、あてもなく人を探す。
泊まった場所で殺人事件なんて起きないし、天羽の眼鏡は光らないし、そもそもレンズが入ってない。
又賀は慣れた手つきでコーヒーを沸かして天羽を起こした。
事務所に来る依頼人の人数を鑑みて探偵業は儲かってるとは思えないが、コーヒー豆やドリッパーはなかなか高そうなものが揃っていた。
「いつもありがとね。」
又賀は寝起きの天羽にコーヒーを渡した。
いつもの眼鏡を付けず、髪も崩れている天羽をもう見慣れてしまった。
事務所は10:30から開くので又賀と天羽は朝食を終えて、さっさと身支度を整えた。
「よし、昨日の依頼片付けようか。」
前日、ある人物が探偵事務所のドアを叩いた。
「こんにちは…。」
髪の長く華奢な女性が扉を開けて事務所の席に着いた。
「いらっしゃい。どんな用件で?」
天羽は対面の席に座り、又賀にお茶を出すように指示をした。
「私は『末岡綾』と申します。私には学校の先輩にあたる彼氏がいるのですが…最近彼氏の行方がわからなくなって...。」
「...失踪...ですか?」
末岡は泣きそうな声になりながら事情を話し始めた。
「付き合ったのは3か月前、相手は学校の先輩で去年高校を卒業して就職しました。しかし、10日ほど前から突然いなくなってしまって...。」
「名前は?」
天羽は末岡の言ったことを逐一メモに取りながら質問をした。
又賀も天羽に言われ一応メモを取っているが、必要なのかはわからない。
「彼氏は『松山遥』といいます。職場は詳しくはわからないんですけど近原のどこかにある会社と聞きました。」
「会社まではわからない...と顔写真などはお持ちですか?」
末岡はありますと言いながらカバンをあさり始めた。
「これです。」
「ありがとうございます。」
末岡が取り出した写真には松山と思われる男だけが写っていた。
「...別角度の写真などありますか?」
末岡が渡した写真は完ぺきではないがほぼ正面の写真だったのでこれだけでいいのではないかと又賀は疑問を持った。
「ありますが...今はないので、後ほど送りはできます。」
「よろしくお願いします。」
末岡は又賀が出したお茶を飲んだ。
(こんな可愛い子を残して行方不明か…。)
又賀はメモを書く横目に末岡の様子を伺った。
天羽はメモを見ながら末岡に問いかけた。
「10日前...と言ってましたが、本日まで何もされなかったのですか?」
「3日前ほどに警察にはいきましたが...相手にしてくれなくて...。」
「事件性がないと判断したのでしょう。よくある話です。」
「探して...いただけますか?」
天羽は飲んでいたコーヒーを机に置いた。
「わかりました。引き受けましょう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
そして現在に至る。
又賀と天羽は事務所の椅子に座った。
「探すって言っても...情報が少ないですよね。ある情報は顔と近原の会社勤めってことだけしか...。あと松山さんの住所もありますが誰も出入りしてないらしいですし…。」
「探偵とかそんなもんだよ。あとそれ以外にも情報はある。柊華ちゃんが取ったメモ見して。」
疑問に思いながらも、末岡の話を記述したメモ帳を渡した。
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・末岡あやの彼氏、松山はるかの行方が不明。
・3ヶ月前からの付き合い。
・松山は高校を卒業し、今は就職。雇い先は不明。ただ、近原に会社がある。
・いなくなったのは10日前。警察には相手にされない。←なぜ?
ーーーーーーーーーー
天羽は頷きながらメモを読んだ。
「よく書けてる。人の話をミスなくメモするのはまあまあ難しいことだからね。けど…。」
「…何か違いましたか?」
「末岡さんの話を聞いてる時、ずっとメモと睨めっこしてたんだろうね。」
又賀は天羽の言ったことが少し理解できなかった。
天羽はコーヒーをひと含みし、話を続けた。
「いい?過去は戻らない。前に聞いた末岡さんの話をそっくりそのまま聞き直すことは不可能。だから一つでも多くの情報をメモに書き込まないといけない。柊華ちゃんは彼氏の話をしている末岡さんの背丈、声色、表情、思考を覚えてる?」
「いえ…。」
「ただでさえ少ない情報だ。けど私達はその少ない情報で依頼をこなさないといけない。だからこそ、どんな情報でも見落とすわけにはいかないんだ。」
又賀は天羽の言ったことに納得して頷いた。
「そして…警察が相手にしないことを疑問に思ってるのか…。」
「はい、行方のわからない人のことを警察は見捨てるのかな…って。」
「…いい着目点だけど、残念。警察が動かないのは本当だと思うよ。」
又賀は驚きながらも顔を顰めた。
行方の分からない人がいて、その人を心配する人もいるのに、警察は何もしないのか。
「なんでですか?人がいなくなってるのに…。」
「これが未成年や女性なら変わったかもね。けど松山さんは成人の男性…よほどの事件性がない限り警察は動かない。松山さんが自殺願望を持ってたり様子がおかしかったりしたら動いたかもだけど…。」
「末岡さんは松山さんの様子に言及してませんでしたね。」
「失踪の直前まで何もおかしいところがなかったんだろうね。ほら、これでまた新しい情報が増えた。」
又賀はこの仮定をメモに取った。
「天羽さんのメモ、見してくれませんか?参考にしたいので…。」
「うーん、いいけど、私のメモには私の仮説が書いてある。これを見る前に柊華ちゃんの仮説を聞きたいな?」
「仮説…ですか?」




