縁結び
「もしもし、なん?いきなり。」
母親の声はいつもみたいに興味のないような様子だった。
「えっと…あの…。」
「なんも用ないなら切るよ、はよして、忙しいんだから。あ、ちょっと待って~♡。」
母親は誰かに話しかけたのかいきなり声色を変えた。
又賀は母親の聞いたことない声に少し嫌な気分になった。
「…私、もう家出たんだけど遠くで働いて暮らしてもいい?」
「はぁ!?いきなり何言ってんの!?どういうこと!?あんた今どこおんの!?」
母親の声は驚きで声を荒げていた。
「…いつも私に何も気にかけないくせに…。」
「はぁ!?」
「いっつも私を置いて家出て!私がいてもいなくても何も変わんないくせに!しかもこの電話が来るまで私がいないことに気が付かなかったくせに!私が家を出るのの何がダメなの!?」
「ん…。」
又賀の声が夜の街に響き渡った。
駅の周りの人々はなにかの歯車が止まったように固まって又賀を見つめた。
「…好きにしなさい。」
「…ありがと。」
ツー、ツー
電話が切れて又賀はいろんな思いがこみ上げて座り込んだ。
少し落ち着いて天羽と合流した。
「どうだった?」
「許可…もらえました。」
「そっか、良かった?のかな。」
又賀はどこかやるせない気分になった。
分かりきっていたことだったが、親との関係はこんな短い電話で無くなってしまうのかと思った。
「ま、これからよろしく。」
天羽が又賀に手を伸ばした。
「はい…!」
又賀は天羽と固い握手を交わした。
「んじゃ、私の事務所行こうか。今日歩き続きだったから早く帰りたいんだ。仕事については明日に回そう。」
「わかりました。どこにあるんですか?」
「こっから少し歩かないとだけど…まぁ今日はタクシーでも使おっか。」
天羽と又賀は駅に止まっていたタクシーを拾って乗り込んだ。
「てか、ああいう性犯罪者はちゃんときっぱりと断らないとだよ。」
「すいません…あの時は泊まれるホテルがなくて…補導されるのも怖くて…。」
「そんな家に帰りたくなかったんだね。」
「まぁ…そうですね。」
天羽は母親と何があったのか聞きたそうだったが、流石に聞くのをやめたようだった。
駅からタクシーで数十分後。
「あ、ここで停めてください。」
又賀と天羽はタクシーから降りた。
降りた場所は先ほどまでの眩しい空間とは打って変わって、暗い道にぽつりと街灯があるだけだった。
又賀の目の前には名刺に書いてあった『天羽探偵事務所』が鎮座していた。
「ここだよ。けど先に行きたい場所があるんだよね。」
「どこなんですか?」
「事務所の隣。」
事務所の横に目を向けるとある店があった。
「やっぱ疲れを取るのに一番手っ取り早いのはここだよね。」
「銭湯…ですか。」
又賀は天羽に連れられ、『安粋銭湯』と言われる施設に入った。
「おばちゃん、二人。」
「おや、ひなちゃん。お連れかい?珍しいね。」
「私の新しい助手。柊華ちゃんっての。」
又賀は今初めて助手になることを聞いたので驚いた。
天羽はおばちゃんに料金を支払って又賀と女湯に入った。
「…あれ、初対面で銭湯連れてくのってセクハラなるのかな。」
天羽は服を脱ぐ手を止めて又賀を見つめた。
「私が嫌がってないから大丈夫なんじゃ…。」
「あ、ほんと?大丈夫?いつも無意識にやっちゃってんだろうな…気をつけよ…。」
又賀はかけ湯をしてお湯に浸かった。
(これから私どうなるんだろうな…。)
しばらくお湯に浸かった後、シャワーで体を洗い、風呂を上がった。
家から持ってきた数少ない服を着て、更衣室を出た。
「ふぅ…気持ちいいでしょ?ここの銭湯。ここが好きだから事務所を隣に置いたんだよね。」
「とても良かったです。」
「ひなちゃん今から5年前くらいから通ってくれてるのよ。」
「あ、おばちゃん、いつもの二つ。」
はいはい、とおばちゃんがバックヤードから何かを持ってきた。
「銭湯上がりといえばこれだよね。はい、柊華ちゃんも。」
「これ、牛乳ですか。」
又賀は天羽から手渡された牛乳を受け取った。
「んじゃ、これからよろしく、乾杯。」
「よろしくお願いします!」
又賀は牛乳ビンで乾杯をして一気に飲み干した。




