夜の過ごし方
又賀は後ろから男に声をかけられた。
恐る恐る振り返ると、ちょっと小太りのおじさんがいた。
「な、何ですか…?」
「ねぇ、今夜、暇?僕と一緒に、遊ばない?3万でどうかな?」
又賀はとても驚いたが、同時にチャンスだと思った。
補導を恐れずに今夜をやり過ごせるうえに、金まで手に入る。
又賀は迷った。
「えっと…じゃ、じゃあ…。」
「よし、じゃあ、ホテル、行こうか。」
又賀は小太りの男に手を掴まれて少し寒気がした。
これからもっと嫌なことをされるのに、と思うと、又賀は幸先が不安になった。
又賀はされるがままに、小太りの男に連れられていこうとした。
「流石に未成年はダメでしょ。」
男の肩に、何者かの手が乗せられていた。
「むっ…。」
「明らかに未成年じゃん。最近ここら辺で問題になってるよ、甘い言葉で子どもを引っかけて行為に及ぶおっさんがいるって。」
又賀はどこかで聞いたことのある女性の声に震えながら俯いた。
「ほら、今なら見逃すよ。このままこの少女をどこかに連れていこうとするならそれなりの対応をするよ。」
「…ッ。」
小太りの男は又賀から手を離し、走って逃げだした。
又賀はおじさんがいなくなっても俯いたまま立ち尽くしていた。
「あーもしもし。前言われた近原駅の近くで未成年を狙って声かける男の顔写真が撮れたよ。後で送っとくね。んー、あー、お礼?何回も言ってるでしょ友達なんだからいらないよ。ごめんまだやることあるから、切るね。じゃ。」
背後の女性は、ガラケーなのか携帯を閉じる時にぱちんと音を立て、そのままポケットにしまった。
「んで、柊華ちゃん、こんなとこで何してるの?」
「え?」
突然名前を呼ばれたので驚いて振り返った。
そこには電車で会った探偵、天羽日向の姿があった。
「あ、天羽さん!?なんで!?」
「なんでって近原に私の事務所があるからだけど…。」
「えっ!?」
又賀は天羽に貰った名刺を取り出して目を向けると、近原市〇丁目と記されていた。
「それで、柊華ちゃんこそ、こんな夜遅くに何してるの?」
「えーっと…。とある事情で家に帰れなくて…。」
咄嗟に出した説明にしてはうまく濁せたな、と又賀は心の中で思った。
「ふーん、金銭面?なら助けられるけど。」
「いや…そうじゃなくて…。」
「あ、そう、今日どこかで泊まるの?というか泊まれるの?」
「いや…。」
「やっぱり、子供だけじゃ難しいだろうね。法律が許すなら、私の事務所にでも泊めてあげるんだけどね...。」
天羽はなにか考える素振りをしていた。
「あ、うちで働く?事務所泊まれるよ、親の許可が必要だけど。親の許可を得るのは難しいの?」
「え?えっと…わかりません。けど、もしかしたら…。」
天羽のいきなりの発言にとても驚いた。
母親は又賀を心配するのか、それとも邪魔だと思って許可を出すのか、又賀にはわからなかった。
「親の許可があれば職も与えられるし、事務所で泊まれるけど…。まぁこれがダメなら私は何もできない。」
「いや、お願いしたいです…!親に連絡がつくかわからないけど電話してみます…。」
「うん、わかった。」
又賀は少し天羽から離れて電話を取り出した。
いつも母親に電話などしないから、連絡先を探すのにも時間がかかった。
「ふぅ…よし…。」
プルルルル
流れる呼び出し音の合間の無音のたびに、電話が繋がったのかと勘違いして、鼓動が速くなった。
「もしもし、なん?いきなり。」




