新天地
「君、一人かい?」
「...ん、えっ!?」
又賀が目を開けると向かいの席に眼鏡をかけた女性が座っていた。
突然知らない女性が話しかけてきたので、目が覚めたばかりの又賀は驚き、困惑した。
「こんな早朝から通学かな?にしては、通学らしくない服装だね。」
「あ…あなたは…?」
又賀は家出のことがバレて、親や警察に通報されてしまうのではないかと心配で声を震わせながら問い返した。
「あぁ、申し遅れたね。私はこういうものでね。」
眼鏡の女性は胸ポケットから紙を取り出して又賀に渡した。
「え…ありがとうございます…って、え!?探偵なんですか!?」
「まあね。」
女性から受け取った名刺には『天羽探偵事務所』、『天羽日向』と書かれていた。
「職業病でね、気になる人がいたら一度喋ってみたくなるんだよね。君の名前は?」
「又賀柊華です…。」
家出した身なので、あまり名乗りたくなかったが、又賀が先に名前を聞いたため断るに断れなかった。
「柊華ちゃんか…聞き直すけど、こんな早朝に何してるのかな?登校中かな?」
「えっと…。」
又賀は家出を怪しまれない回答をしようと焦り、間が空いてしまった。
天羽は、俯いた又賀の顔を覗き込むように、首を傾げた。
「考えているということは何か言えない理由があったりするのかな?」
又賀は鳥肌が立ち、心臓の鼓動が家出した時のように速くなっていくのを感じた。
「いや…えっと…あ、友達の家に遊びに…。」
「へ~、最近の子は平日のこんな朝早くから遊ぶんだね。」
又賀は苦しい言い訳だったが、なんとかやり過ごせたかと思った。
だが、天羽の目は鋭いままだった。
「柊華ちゃんって真面目な人でしょ。日頃から嘘つかないような。」
又賀の心臓が大きく跳ねた感覚がした。
「......私は一応探偵なんだ。バレバレの嘘を見抜くなんて容易いことなんだよ。」
「う…嘘なんかじゃ…。」
「視線が泳ぐのは、一から嘘の話を作るときによく見られる反応の一つ。そして同時に、嘘をつくのが苦手な人によく見られるものでもある。」
又賀は完全に図星を突かれ黙り込んでしまった。
「......まぁ、理由がどうしても言えないんじゃ仕方ない。いたいけな少女をいじめる趣味はないからね。」
天羽が何気なく言った『いじめ』という言葉が又賀の耳に深く残った。
「次は〜近原〜。近原〜。お出口は…」
又賀が降りる予定の一駅前の駅に到着した。
そして又賀は逃げるように席を立った。
「私...もう降ります...。」
「ごめんね、私の相手してくれてありがと。それじゃまた会う日まで。」
天羽は笑顔で手を振って又賀を見送った。
又賀は、本当にまた会うことがあるのだろうかと思いながら、手を振り返して天羽のもとを去った。
又賀は電車から降りて街に出た。
駅から離れても心臓の鼓動は未だにうるさかった。
天羽日向との会話は、又賀にとって家出した時と同じくらい怖い出来事だった。
「ふぅ…。これからどうしようかな。」
又賀は心を静ませ、今後のことを考え始めた。
家出をして逃げることしか考えておらず、今日泊まる場所すら何も決まってなかった。
とりあえず近くのカフェに入って座り、泊まれそうなホテルを探すことにした。
「…はい、あ~はい、そうですか…。ありがとうございました…。」
又賀は耳に当てていたスマホを下ろして、ため息をついた。
「全く泊まるホテルが見つかんない…。」
周辺のホテルを手あたり次第に当たってみたが、高校生だけでは保護者の許可が必要なホテルや、そもそも未成年一人では泊まれないホテルしかなく、家出の身の又賀には難しい条件だった。
カフェにいつまでも居座るわけにはいかないので又賀は外に出てみた。
その地域の学生達が下校しているのを横目に又賀は街を彷徨った。
辺りをうろついている間に街はどんどん暗闇に呑まれていった。
空が暗くなっていくのに比例して街灯が眩しくなっていった。
「今日は野宿かな…。けどパトロールしてる警察には気を付けないとな…。」
未成年は23時を過ぎると補導されるかもしれないので、どこか隠れられる場所を考えた。
「なんかおなか減っちゃったな…。」
又賀は駅の近くにあるコンビニに向かった。
コンビニで買ったパンを食べながら周りを見渡した。
駅には誰かを待ちながらスマホをいじる人間、地べたに座り込んでまぁまぁの腕前でギターを披露する人間、複数人だからって調子に乗って夜中に大声で騒ぐ人間、仕事終わりでくたびれながら帰宅する人間などいろんな種類の人間がいた。
又賀は自分を自由に表現する人たちに惹かれて駅に近寄ってみた。
「これからどうしようかな~。」
又賀は真っ暗な空を見上げてこの先のことを改めて考え始めた。
「ねぇ、君、一人?」
又賀の後ろから男に声をかけられた。




