扉の奥
とある休日。
又賀と天羽は学校を訪れた。
井原の通っている高校に。
「天羽さんと...又賀さんですね。お待ちしておりました。」
校門の前に井原の担任、江尻の姿があった。
「こんにちは、江尻さん。」
又賀と天羽は頭を下げた。
「…井原さんは?」
「まだ来ていません。それより...佐藤の事故...いや佐藤が誘拐された事件の真相は分かったんですか?」
「...少し手こずってましてね。井原さんの話と、佐藤さんの学校内の話を聞きたくてですね。」
江尻は高校の客室へと天羽達を招いた。
「あの死体が佐藤じゃないなんて…あの子は無事なんですか…?」
江尻は客室に着くまでの廊下で口を開いた。
廊下は生徒たちによってきれいに掃除されていたが、隅には黒いシミができていた。
「今は何とも言えませんね…。無事を祈ってはいますが。」
「そうですか…。」
3人は客室に着いた。
カーペットの敷かれた部屋の中は暖かい温度になっていて、木製の机にはお茶が置かれていた。
「…江尻さん、あの事件の日、学校内で佐藤さんと井原さんの姿は見られましたか?」
「え?あ、はい。真っ暗で雨の中、カッパだけで帰ろうとするから...気をつけろよ、とは声を掛けて見送ったんですが...。」
天羽は江尻に目線を合わせながら、メモを取った。
「二人の様子は?喧嘩みたいな…。」
「...特にですかね。」
「些細なことでもいいんです。学校内のことでもお願いします。」
「ないです…。…あの。」
江尻は様子を伺うような声色で天羽に話した。
「はい?」
「喧嘩してたか聞くって...まるで、井原のことを疑ってるかのような...。」
天羽は小さく頷きながら口を開いた。
「この情報はまだ出回っていないのですが...井原さんと警察の情報に矛盾が生じましてね。今、警察が一番怪しんでるのが…井原さんとのことなんですよ。」
「え…?」
江尻は驚きと困惑が混ざったような、難しい顔をしていた。
「そんな…井原が…?」
「私も信じられないですが...私も警察の情報を拝見させてもらったとこ、どうも井原さんが間違ってるようで…。」
天羽は置いてあったお茶を啜った。
「...どうして。」
江尻は顔を俯けた。
又賀はそんな江尻に話しかけた。
「江尻さん、空気読めなくてすいません。トイレに行っても?」
「あぁ...いいですよ。案内しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。」
又賀は客室を出た。
「井原さん、来ないですね。」
「...天羽さんは井原がやってると思ってますか?」
天羽は黙った。
江尻は天羽の目を睨むように見つめた
「今はどちらとも...。井原さんの勘違いか、嘘かによって話が変わってきます。だからこそ、本日そのことも伺おうかと。」
「...そうですか。」
突然、扉が開いた。
「戻りました。」
天羽たちが会話をしてる間に、又賀がトイレから帰ってきた。
「突然すいません、江尻さんは電子機械工学の先生と伺ったのですが…。」
「え?あ、はい。そうですが...。」
「停電中でも録画ができる監視カメラが存在するのですが...ご存じですか?」
「...?はい、無停電装置みたいなやつでしたっけ?」
天羽はガラケーしか持ってないので、又賀のスマホを借りて一枚の写真を江尻に見せた。
そこには一人だけで自転車を漕ぐ井原の姿があった。
「あの事件の日、警察が得た、井原さんのより信用できる情報はこの装置がついてるカメラから得られました。」
「そういうことだったんですね...これがなにか?」
「もう一枚、カメラで得られた情報があって...見ていただきたい写真が。」
天羽はスマホをスライドして、次の写真を見せた。
江尻は目を見開いた。
「近原駅で江尻さん、あなたの姿が映っていました。」
天羽の見せた写真では、真っ暗の中、駅の入り口付近で非常灯に照らされ、全体像が見える江尻の姿があった。
その時の江尻は雨によってとても濡れていて、腕時計で時間を見ながら、ハンカチで服を拭いていた。
「...え?何を言いたいんですか?」
「何をしていたんですか?」
天羽は江尻の様子を見落とさないように見つめていた。
「何って...家に帰ってたんですよ。...僕を疑っているのですか?」
天羽はお茶を飲みほした。
「はい、疑っております。」
「...は?なんで、私なんですか?」
「まだ教えれません。」
天羽は江尻から目を離さなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください…!無停電装置がついたカメラは学校にもあります。恐らく、犯行予想時刻の17時ほどにカメラで私が映ってるはずです。」
「…。」
「しかもこの写真…!18時じゃないですか?佐藤がいなくなったのは17時なんですよね?」
天羽は無言で江尻を見つめていた。
江尻が嘘をついてるようには見えなかった。
「江尻先生。井原です。」
話を遮るように扉の向こうから井原の声が聞こえた。
「井原か?すまん、ちょっと待っててくれ。…天羽さんどう言うことですか…?」
江尻は井原に聞こえないような声で聞いた。
「学校から駅まではどのように?」
「車です…近くの駐車場に停めてます。」
天羽は見定めるように江尻の目を見ていた。
「傘、持ってますね。なのに、なぜこんなにも濡れているのですか?」
「え…急いでて…。」
「この映像の時刻は18時26分。電車が来るのは上りなら18時42分、下りなら18時52分では?急がなくても良いでしょう。」
天羽の目つきはどんどん鋭くなっていった。
「…けど、傘を差してないからって私が犯人なんておかしいですよ!」
「何してたのかなって気になってまして。」
江尻は目に見えるほど焦っていた。
こんなに気が動転してるのに、何も知らないとは思えなかった。
「何って…ただの帰路ですよ!馬鹿馬鹿しい…。」
「あのー。」
扉の向こうから井原が呼びかけていた。
「今日は井原に聞きたいことがあるですよね?私のことはもういいでしょう…。井原、入っていいぞ!」
江尻が呼んでも扉は動かなかった。
「井原?」
江尻が扉に向かい、戸を開けてみた。
そこには誰もいなかった。
「…え?井原…?」




