ツーリング
天羽と又賀はレンタルした自転車を持って井原の高校にいた。
「お待たせしました。」
井原がヘルメットをつけ、高校に到着した。
「では、ここからいつもくらいの速度で橋まで先導してください。」
「わかりました…。」
自転車を進めようとした時、後ろから声をかけられた。
「井原!?今日学校休みだぞ?」
三人が振り返ると、30代くらいの細身の男性が近づいてきた。
眼鏡をかけていて、教師らしい雰囲気だった。
「江尻先生?」
井原は驚いた様子だった。
「井原さん、この方は?」
天羽が井原にしか聞こえない声で尋ねた。
「あぁ、私の担任の江尻先生です。」
江尻が天羽達の前に立った。
「こんにちは。」
「こんにちは。私はこういう者で…。」
天羽はいつもの名刺を取り出し、江尻に渡した。
「あぁ、ご丁寧にどうも…って探偵!?」
「よく驚かれます。」
「た、探偵さんが…井原になんのようなんですか?」
「江尻先生、実は…。」
天羽が口を開く前に、井原が状況を説明した。
佐藤環奈が橋を越えても井原の後ろにいたかもしれないこと。
佐藤環奈が大雨に乗じて連れ去られて、1ヶ月後に死体を遺棄されたのかもしれないということ。
「…そういうことなんですか。井原…調査が終わったら俺にも…そのことを聞かせてくれないか?」
「え?」
井原は少し驚いた様子だった。
江尻は、真剣な表情で続けた。
「井原、俺はお前の担任でもあり、佐藤の担任なんだ…。事故だったら悲しいし、もしこれが殺人だったら…俺は放っておけないんだ…頼む。」
江尻は井原に頭を下げた。
井原は、少し考えた後、頷いた。
「…わかりました。事が終わり次第、報告します。」
「ありがとう、井原。」
江尻は、安堵した表情を浮かべた。
「これからどこに向かうんですか?」
「ここから橋までの所要時間、橋から駅までの道のり、監視カメラの有無などを調べます。」
「そうなんですね。私はまだ仕事が残っているので、佐藤の件の真実がわかることを望んでいます。」
江尻は頭を下げて三人を見送った。
「江尻先生…ね。」
「天羽さん…。」
又賀は天羽に囁いた。
「ん?どうしたんだい?」
「行きは下り坂でしたが…ここから橋まで上り坂ですけど…天羽さんの体力で大丈夫ですか?」
又賀は心配そうに天羽を見た。
「あまり私を舐めないでよ。余裕さ。」
天羽は自信満々に言った。
「…本当ですか?」
「大丈夫大丈夫。じゃあ、行こうか。」
天羽、又賀、井原は自転車を漕ぎ始めた。
ーー10分後。
自転車を漕いで橋の入り口に到着した。
又賀はスマホで時間を確認した。
「ここまでで10分ですね。」
「あの…探偵さんは?」
「…すいません。あの人体力なくって…いま自転車を押して坂を登ってると思います…。」
又賀、井原は坂を見下ろした。
天羽は息切れしながら坂を登っていた。
「本当にすいません…。」
「いえいえ、大丈夫です…。」
ーー数分後。
「ハァ、ハァ、ハァ、何分だった…?」
「高校から橋まで10分、天羽さんは17分です。」
「すいません…。」
「いえいえ…。」
井原が宥めた後、自転車に跨った。
「では、井原さん、続きお願いできますか?」
「…へ?」
「わかりました。」
「…へ?」
「天羽さん何ボーッとしてるんですか?行きますよ。」
「ちょ、ちょっと休憩…。」
又賀と井原は先に自転車で橋を渡り始めた。
「あ、待って…。」
天羽はガクガクの足でペダルを一生懸命漕いだ。
橋の中央に到達した時、1メートルほどの高さのフェンスに花束が括りつけられていた。
恐らく、佐藤環奈に向けられたものだろう。
又賀と井原は先に橋の出口についた。
「橋を渡るのに必要な時間は…3分ですか。」
又賀は、スマホを見ながら言った。
「そうですね…この間に環奈…落っこちちゃったのかな…。」
井原は川の流れを見ながら寂しそうな声を漏らした。
「井原さんの言うことが本当なら、1ヶ月間拉致して下流に遺棄した人間がいると言うことです。」
「はい...。」
井原は俯いたまま、頷いた。
「真実を…確かめましょう。」
又賀は優しく言った。
「…はい!」
井原は顔を上げた。
少し沈黙が流れた後、井原が口を開いた。
「てか、又賀さんはいくつなんですか?」
「15歳です。井原さんも同期でしたっけ?」
「そうです。又賀さんすごく大人っぽいですよね。同学年に見えないと言うか…。」
「そうですか?ありがとうございます。」
又賀は少し困惑した様子だった。
二人が会話してる間、よろよろになった天羽がたどり着いた。
「ハァ…ハァ…ハァ…。」
天羽は自転車から降りて、フェンスにもたれかかった。
「遅いですよ。橋にかかる時間は3分で、天羽さんは5分でした。」
又賀は少し呆れた様子で言った。
「ごめん…普段から運動するようにするね…。」
「言いましたからね?」
「ひ...。」
流石に天羽が可哀想なので少し休憩して橋の出口から駅に向かって出発した。
橋から少し行ったところに監視カメラがあった。
「あそこの監視カメラで見えないんですかね?」
「停電しちゃってたからね。余程、性能がいいのじゃない限り録画できてないよ。」
「そうですか…。」
ーー3分後。
「あ、ここで私がギアを変えて、その後、後ろからギアを変える音がしたんです。」
「こっからは…上り坂か。」
「はい、私は立ち漕ぎするのでギアを上げたのですが…。」
「環奈さんもギアを変えたと...。」
又賀と井原が上り坂を登り切った時には天羽はいなかった。
「天羽さん...またいなくなっちゃいましたね...。」
「きつく言っときます...。」
天羽を待つと時間がズレるので坂に置いていった。
「この坂を越えた先に、国道があります。そこでいなくなっちゃったのかなって…。」
「けど…もし、連れ去ったとしたら目立ちますよね。停電と雨雲で見えなくなる物なのでしょうか。」
「わからないですね…。」
又賀と井原は喋りながら自転車を漕いだ。
コンビニや民家、マンション、銀行を通り過ぎ、近原駅に到着した。
又賀は、スマホで時間を確認した。
「橋からここまでは…8分。高校から橋まで10分、橋を出るまで3分、合計で21分ですね。」
「いつも大体そのくらいです。あの日は雨と風が酷かったのでもう少し遅いかもしれませんが。」
「ご協力ありがとうございました。あの人は遅れてくると思うので、先に帰っても大丈夫ですよ。」
井原は苦笑いをした。
「そ、そうですか…。なら、先に失礼します。ありがとうございました。」
「はい、ありがとうございました。」
お互いに頭を下げて別れた。
井原は自転車を駐輪場に停め、駅に入っていった。
又賀は井原の背中を見送った。
そして、天羽が来るのを待った。
ーーまたしても数分後。
天羽がようやく駅に到着した。
「ハァ、ハァ、ハァ...こんなに運動したのは久々だよ…。」
天羽は自転車をスタンドで立たせ、自分は手を膝に支えて深く呼吸をしていた。
「橋から近原駅まで8分…天羽さんは12分。」
「膝が痛い…足攣りそう…。」
天羽の足はガクガクになっていた。
「事務作業ばっかして運動しないからですよ。昔からこんな体力なかったんですか?」
天羽は遠い目をしていた。
「昔は運動できたのに…もう年かな…。」
「天羽さんまだアラサーでしょ。」
又賀はため息をついた。
「とりあえず、休憩しましょう。」
「座りたい...。」
天羽と又賀は休憩がてらカフェに入った。




