垣間見える悪意
「つまり…亡くなった佐藤環奈さんと一緒に下校していた同級生…ということでしょうか?」
「その通りです。」
「…どのような依頼で?」
井原は話を続けた。
「どこから話せばいいのやら…。」
井原は少し考えてから話し始めた。
「あの日、私と環奈は部活帰りでした。16時55分頃、外は大雨でしたが、自転車で駅まで向かいました。駅までは20分ほどの距離です。」
井原は一息ついた。
「私が先導して、環奈が後ろについてくる形で、一列で帰っていました。
停電で街灯も消えていて、視界がほとんどなかったんです。後ろを振り向く余裕もなく、前だけを見て必死に自転車を漕いでいました。」
井原は嫌なことを思い出してからなのか俯いていた。
「そして、駅に着いた時…環奈がいないことに気づいたんです。」
井原の声は震えていた。
「うーん…。」
天羽は少し考えた。
「それは警察が捜査してるんじゃないのかな?私たちに依頼する理由が見えてこないんですけど…。」
天羽はコーヒーを一口飲んだ。
井原は俯いた。
「実は…自転車の音あるじゃないですか。ギアを変える音だったり、車輪から鳴る音だったり。
あの音が橋の上でも橋を越えた先でも真後ろから聞こえた気がしたんです。」
「ほう。」
「えっ?」
又賀は依頼内容を聞く時、基本的に口を開かない。
しかし驚きから無意識に声が出てしまった。
「つまり…環奈さんは橋を越えた時も後ろにいたと、おっしゃりたいのですか?」
「はい...。あんな大雨の中で自転車を漕ぐ人なんて限られてます。橋を渡って…3分ほどまでは聞こえてた気がするんです。」
「警察にはなんと?」
「伝えたんですが…事故で片付けたいのか、聞き入ってくれませんでした。」
天羽は少し考える仕草をした。
「つまり、環奈さんは橋から落ちたのではなく、橋を越えた先で、大雨に乗じて連れ去られたのかもしれない…と?」
「はい...。」
井原は天羽の言葉に頷いた。
「私がそう思ってるだけで…気のせいかもしれないし、馬鹿馬鹿しいかもしれませんが…。」
「いえいえ...。」
天羽は少し考える仕草をした。
「ふむ…わかりました。調べてみます。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
井原は断られると思っていたのか、驚いて感謝をした。
「ただ、一つ。」
「はい...?」
天羽は真剣な顔をして、人差し指を立てた。
「私たちに逮捕できる力はありません。ですので、私たちは『橋を渡った後も環奈さんが生きていた』ということを証明することに尽力します。その証拠を警察に提出して、再捜査を依頼してください。それでよろしいですか?」
「…わかりました。」
井原は頷いた。
「依頼に伴い…井原さんの高校から駅までの道のり、所用時間を測りたいのですが…明日、お願いできますか?」
「大丈夫です。」
「では明日の17時頃に、お願いします。」
井原はお礼を言いながら、深々と頭を下げて事務所から出た。
扉が閉まった後、又賀は天羽に尋ねた。
「…井原さんの言ってること…本当なんですかね。」
「わかんないね。環奈さんの自転車は橋の下で見つかってる。まぁ、環奈さんを攫って橋の上から投げ捨てた可能性もあるよね。あと…。」
「あと?」
「警察が佐藤環奈さんを見つけるのに時間がかかりすぎてる気がする。」
又賀は首を傾げた。
「あんなもんなんじゃないんですか?」
「川の下流なんて川に流された人がいたら、真っ先に探す場所じゃない?
上流から流された人がたどり着く場所だからね。
それを1ヶ月もかけるなんて…。」
天羽はついにコーヒーを飲みほした。
「つまりどういうことですか...?」
又賀は興味深々で聞いた。
「もしも、環奈さんは1ヶ月後、いきなり遺体が下流で発見されてるとしたら…。」
「誰かが遺棄した可能性があるということですか!?」
「ありえなくはないね。」
天羽は窓から外を眺めた。




