第十二話 追憶令嬢8歳
ごきげんよう。
座右の銘は目指せ!!平穏、穏やか、気楽な生活を!!を掲げる公爵令嬢です。
8歳になりました。
今日はチョコレートケーキを焼きました。
刃物と火の扱いは禁止されているのでオーブンはケイト担当です。
最近はシエルの信用も勝ち取り、シエルがいなくても厨房への出入りを許されました。
淑女教育のため、自由な時間が減りましたが…。
そういえばリオの手紙を渡してから、ケイト達に頼むお使いの本の勝率上がりました。
今は八割くらいマトモな本が手に入ります。
今日はマール公爵邸の訪問日です。
あと一年でリオは全寮制のステイ学園に入学なので、一緒に過ごせるのもあと少しですわ。
最近は勝手に部屋に入って待ってていいと言うので甘えてます。
リオの部屋のお気に入りのクッションを抱えてぼんやりしていると扉が開き帰ってきました。
最近はリオは忙しそうです。
「来てたのか」
「ごきげんよう。リオ兄様。お疲れ様です。あげますわ」
リオに午前中に焼いたチョコケーキを渡すと嬉しそうに笑いました。
「ありがと。今日はチョコケーキか」
「オーブンの担当はケイトですけど」
「エディが悔しがる顔が目に浮かぶな」
「エディがどうしてですか?」
「シアの手作りが貰えることへの優越感?まぁ気にするな」
上機嫌でチョコケーキを食べるリオは時々意味のわからないことをいいます。まぁ気にするのはやめましょう。そういえば、もう一つありましたわ。
「忘れてました。セリアからサービスですって預かりました。」
セリアからの贈り物を渡します。
「おぉ!!さすがセリアだな」
リオが喜んでますね。こんなにテンションの高いリオは珍しいですわ。やっぱりセリアが好き?
実はリオは恋愛においてはポンコツかもしれませんわ。それにまだ子供ですしね。リオ兄様にも恋は難しいですよね。マール公爵家の三男のリオならきっとセリアをお嫁にもらえますよ。私はリオならセリアをお嫁さんにしても許してあげますわ。
箱の中身を嬉しそうに見てるんですが、
「どうしてこっそり中を見ますの?」
「武器の一つかな。戦いのための下準備」
「戦い?」
まさか中身は物騒な物なんでしょうか?
「いずれわかるよ」
企んでる顔をしていますが、物騒なことしませんよね?まぁいいですわ。私より優秀なリオには敵いませんもの。気にするのはやめましょう。
「フウタ、防音の結界を頼む」
「任せて!」
結界で覆われましたわ。フウタ様ですかね。
「魔力測定の日は決まったか?」
リオの結界の理由がわかりました。箱を置いて真剣な顔で見られてますわ。
「来月にルーン公爵邸でします。フウタ様を貸してくださいね」
「ああ。俺も立ち会えるように、母上と父上に頼んでくれないか?」
「はい?どうしてですか?」
「万全を期したいからな。シアがうちの両親に頼んで、うちの両親が叔父上達を説得すればいけるはず」
魔力測定に付き添うのは両親だけですわ。兄弟の同席も許されていますがエディは幼いので参加しません。
リオが同席するのは何か意図があるんでしょうか。フウタ様も主と一緒の方がいいですよね。儀式は付き添いについての規約はないですが問題なのは、
「構いませんが、どうすれば説得できますかね。本当の理由は絶対に話せませんし」
「俺が話すから傍で不安そうに話を合わせてくれればいい。セリアとか弱い令嬢に見える研究してるんだろう?」
「まだ研究中ですから上手くできるかどうか」
「演技力を身に付ければ、役者も夢じゃない」
なんと!!お金を稼ぐ方法はいくらあっても構いませんわ。これは演技のお勉強に気合を入れましょう。
「頑張りますわ!!フウタ様の方法でうまくいきますかね?」
「フウタに下準備させる。それにうまくいくから安心しろ」
自信満々な笑みを浮かべるリオに首を傾げます。
「試した。神官にも見つからなかった」
どういうことですか?
「去年、二度目の魔力測定を希望して試したんだよ」
「リオも魔力適性無しですか?」
「バカ。1回はフウタの方法で試して、二回目は普通にした。風属性をもらったよ」
「初耳ですわ」
「聞かれてないからな」
敵いませんわね。
8歳で儀式を終えた無属性の者が10歳の時に二度目の儀式を希望することはありますが、風属性を8歳で受けたリオがもう一度受けたいなんて中々非常識ですわ。それでも私のためにここまで準備してくれるなんて。
リオは優しくて面倒見がいいですわ。エディの面倒もよく見てくれますものね。隣に座っているリオに抱きつくと優しく抱きしめてくれます。もうすぐこんなに甘えられなくなりますのね。
リオ巻き込んでごめんなさい。でも今だけ許してください。悲しい顔を隠すように胸に顔を埋めると優しく頭を撫でられる。
「ありがとうございます」
「本当に後悔しないんだな?」
これから大きな嘘をつきます。もしも見つかれば大変なことになります。その時は潔く首を差し出しましょう。リオを巻き込んだりしませんわ。
裁判の前に死亡または行方不明になればルーン公爵家は裁かれませんし、きっと大丈夫ですわ。
気がかりなのは二つだけ。リオを巻き込んだこととマール公爵家やルーン公爵家に迷惑をかけること。
それでも王家と関わりたくありません。レオ殿下のブラコンに巻き込まれて死ぬなんて嫌ですもの・・。
落ち込む気持ちは隠して明るい声で言葉を紡ぐ。
「もちろんですわ。でもエディに嫌われるかもしれませんね。あの可愛い笑顔を見られなくなるんですね」
「あいつは重度のシスコンだから心配ない」
「優しくて良い子ですよ。シスコンではありません」
「エディは幼いわりに優秀だ。魔力がなくても姉様は姉様ですとかいうんじゃないか?」
「それなら、良いんだけど・・・」
「母上達に付き添いたいって今日話していいか?」
「お任せしますわ」
不安ですがリオに任せれば大丈夫ですわ。
リオが面会依頼を出すとすぐに時間を作ってくださいました。
伯父様はもう帰宅されたんですね。お暇でしたらまた旅のお話を聞かせてもらいたいですわ。伯父様のお話はとても楽しく流暢な異国の言語を聞くのもお勉強になりますわ。
現実逃避している場合ではありませんでしたわ。
「父上、母上、お時間を作ってくださりありがとうございます」
「構わない。大事な話しなんだろう?」
「人払いをお願いできますか」
伯父様が人払いをして四人だけになりました。
「どうしたんだ?レティと二人で来るなんて珍しいじゃないか」
リオと伯父様が話してますがお願いするのは私の役目ですわ。
「伯父様、伯母様、貴重なお時間をありがとうございます。大変恐縮ですが、あの、お、お願いがありますの」
「なんでも言ってごらん?」
優しく笑う伯父様。いつもどんなお願いも叶えてくださいます。
「旦那様」
でもこれから口にすることは、マール公爵邸にとっては利のないこと。
そして子供は特別大事と言っていた伯母様。伯母様達の大事なリオを巻き込むことになる。
自分だけなら怖くないのに、私は優しいリオを利用しようとしている。
やっぱり怖い。でも監禁も怖い。肩に手が置かれて下を向いた顔をリオに覗き込まれ
「シア、言えるか?」
リオは首を横に振って、気にするなって言う時の顔で見ています。
もし見つかれば私の独断で押し切りましょう。
それにリオが傍にいてくれるのは心強い。今だけは
深呼吸してコクンと頷くとリオの手が離れる。
弱々しく、不安そうに見えるように、小さな声でゆっくりと口を開く。
「ひじょうしき、なことだと、わかってるんです。私の魔力測定にリオ兄様を一緒に、」
「シア、無理するな。父上、母上、俺から説明させてください」
肩に手が置かれ言葉を遮られました。私の演技は駄目と言うことですか?怖くて伯父様達のお顔が見れずに下を向きます。
「リオ、お前が話しなさい」
「来月、レティシアの魔力測定が決まりました。レティシアに魔力の適性があれば、きっと王子殿下の婚約者候補になります。王家や社交界をレティシアは怖がっています。俺はレティシアへの嫌がらせに気付かなかった。一人で抱え込ませました。だから今度こそ、不安で押しつぶされそうなレティシアの傍で見守りたいんです。魔力の有無に関わらず、測定後は不安定になります。非常識とはわかっていますがお力添えをいただけませんか」
リオは作家になれそうですわ。不安で押しつぶされそうになってませんのに。
「旦那様、協力してあげましょう。優秀なうちの息子のお願いです。大事な子の心を守るために側にいたいなんて立派です。杞憂ならそれでいいじゃありませんか」
「大事なうちの子達のためだからな。神官は買収できるし、ルーン公爵夫妻も説得できるだろう。うちとは親交も深い。何よりレティは姪だからな。レティ、その場にリオだけでなく私達も立ち合ってもいいかい?」
「可愛い姪の晴れ舞台ですものね」
想像より、説得簡単すぎません?
もう少し疑いませんか?伯父様達が優秀なのは知ってるけど、大丈夫ですの?
伯父様達まで同席しますの!?穏便にお断りをしましょう。
「伯父様達にまでご迷惑をおかけするなんて」
「私達が立ち合いたいだけよ。レティのおめかし見たいもの。儀式の衣装を着るのは一度だけでしょう?」
リオ、どうしましょう?見物が増えて大丈夫ですの?
「シア、大丈夫だよ」
この流れでいいんですね。それなら笑みを浮かべて受け入れましょう。
「ありがとうございます。伯父様、伯母様」
「どんな結果でも私達はレティの味方だ。リオ、覚悟は決まってるのか?」
「勿論です。父上」
「あとで稽古をつけるから、用意しておきなさい」
伯父様がリオを静かなお顔で見つめています。
稽古!?もしかして怒られますの?
「大丈夫よ。リオは怒られないわ。いつもの稽古よ。ルーン公爵夫妻の説得は私達に任せて」
朗らかに笑う伯母様。もしかしたら伯父様もリオには厳しいんでしょうか。
隣で笑っているリオは全然動じていませんわ。
想像よりも、あっさりでしたわ。
さすがリオの作戦ですわ。視野が広くて羨ましいですわ。
私は自分の両親を手のひらで転がすなんてできませんわ。
監禁まで、タイムリミットはあと七年。
強くならないといけないのに、私の武術の訓練は一向に始まりません。




