第十一話 追憶令嬢7歳
ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。
未来の平穏のために、謀略?を進めているルーン公爵家の令嬢ですわ。
今日はルーン公爵夫妻は留守です。
せっかくなので、弟のエドワードと食事をしています。
普段はエディは一人で食事をしています。
ルーン公爵家は食事のマナーが身につくまでは一人でお食事。
私は一人のほうが気楽ですが、幼いエディは寂しいかもしれないので時々一緒に食べますの。
エディはナイフとフォークを上手に使い溢さず音をさせずに食べられるので、そろそろ晩餐デビューですかね。
私はいつからだったのか覚えてませんが、お母様にたくさん怒られましたわ。
「上手に食べられるようになりましたね」
「ねえさまと一緒に食べたいからがんばりました」
「えらいですわ。でも姉様とのお食事は秘密ですよ。お母様とお父様に知られたら、一緒に食べられなくなりますからね」
「うん」
「えらいですわ。エディ、晩餐は楽しくないけどいいの?お食事中はお話しできませんし、お母様の厳しいチェックが入りますよ」
「ねえさまのお顔がみえるだけで、へいき。ねえさまと毎日会えるのうれしい」
「エディ!!」
ニコッと笑う私の弟は可愛いですわ。そして念願の姉様呼びも。
すましたお顔で姉上と呼ばれるよりも断然可愛い。
「ねえさま、晩餐がはじまっても、僕にあいにきてくれる?」
「もちろんですわ。エディが嫌になるまではずっと会いにきますわ!!」
「ねえさま、お嫁にいけないよ。僕が、ねえさまを嫌になることないから」
まさかもうお嫁さんがわかるとは。さすがエドワード。
こんなに小さい頃から頭が良かったんですわね。
舌たらずな口調も可愛い。いつもニコニコしている可愛い弟はお姉様がきちんと守ってあげますわ。エドワードに庇護欲?を持ったのは初めてですわ。
「嬉しいですわ。先のことはわかりませんが、一緒にいられる間は一緒にいましょう」
「ぼくがねえさまを守る」
「まぁ!!将来モテモテですね」
「ねえさまが一番」
「ありがとうございます」
可愛いです。
食事中でなければ、抱きしめていましたわ。
うちの弟は天使ですわ!!
こんなにかわいい弟が、将来は生意気になるなんて。リオとクロード殿下がよく構っていた所為かお二人に似てしまったんでしょうか?いつも落ち着いて爽やかな笑みを浮かべ跡取りとして申し分なく、優秀さは言うまでもなく物凄く頼りになる弟でしたわ。
先のことは考えないで今はエディを存分に可愛がりますわ。
お母様の怖いお説教から、できるかぎり守ってあげないといけませんね。幼いエドワードとの記憶はありません。自分のことで精一杯でしたから。幼い頃の記憶はアリア様やお母様に怒られている記憶ばかりですわ。
まずは料理長にエディの晩餐時のメニューの相談ですわ。
マナー違反をしにくい食べやすいメニューを考えてもらわないと。
食べずらいメニューはお母様のいない二人の時に出してもらいましょう。エディのマナーは私が完璧にしますわ。
食事も終わり午後はお勉強の予定はありません。
これからセリアの家に遊びに行きますわ。
セリア・シオン伯爵令嬢はお友達です。
生前もお友達はいましたが、セリアほど仲良くありませんでしたわ。社交の予定もなく遊びに行くために会うお友達はいませんでした。
シオン伯爵家は変わっています。
フラン王国の中心に王都があり、上位貴族の領地は王都に隣接してた領地を持っています。王宮に一番近い広大な土地に本邸を建てています。
王宮の一番近い貴族の邸はルーン、次がビアード、レート、スミス、マールとどんどん続いていき建国に深く関わった家が王家の近くに本邸を構えています。
領地が遠くても王宮に大臣は部屋を与えられますし、王都に小さい邸を買って暮らしている貴族も多いので不便はありません。
上位貴族の中でシオン伯爵邸は一番王宮から離れています。
シオン伯爵家は天才が多くフラン王国の発展の裏にはシオン一族がいると言われています。優秀な研究者は国の至宝と呼ばれ、その称号を手にするほとんどがシオン一族。王家より貴族の務めや社交より研究を優先するのが許されている一族です。また国への貢献が大きいシオン伯爵家を不敬で裁けるのは王族だけ。フラン王国の序列に関係なく、ある意味最も力を持つ一族です。これを知るのは一部の方だけ。私はセリアと仲良くなってからお父様に教えていただきました。
お恥ずかしい話ですが王妃教育をほぼ終えたのにシオン一族について詳しく知りませんでしたわ。アリア様はシオン伯爵家出身のサラ様をお嫌いでしたので。人生はいくつになってもお勉強ですわね。
シオン伯爵家の本邸は伯爵家とは思えないほど小さいですが、周りにたくさんの小さい邸宅があります。
研究好きが多い家系のため、実験等の被害を最小限にするために個人用の小さい邸宅を構えているそうです。
本邸で実験をして爆発が起き、全焼したため作り変えたそうです。もともとは大きな邸を王家から下賜されたそうですが、人を招かないので客室も広間もいらないという。大きい邸は必要ないから燃えて良かったと笑えるのはシオン一族だけですわ。
その代わり国内で一番大きい高等研究所を持っています。
シオン伯爵家は使用人の実験結果の持ち逃げ問題もあり、幼い頃より一人で生活できるように躾られるそうです。
シオン一族は、凝り性なので夢中になることを見つける前に生活力を教育。
貴族の常識よりも過労で死なないための知識と刷り込み。効率よく頭を回転をさせるための体作りと生活習慣を!!が教育方針。
素敵ですわね。シオン一族は社交より研究を優先するので、社交に積極的な者は少数派。というよりもシオン一族に嫁いだ方達が社交をこなしています。
シオン伯爵家は領地は狭いですが貴族社会では勝ち組。
他国貴族では、婚姻を結びたい家として上位ですがシオン伯爵家は権力に興味がないので、縁談は本人の意思次第。
研究に没頭するために婚姻を選ばない方も多いですが、シオン伯爵家は多産な家系のため血が絶えることなく続いています。
シオン一族を魅了した優柔な殿方や令嬢に感謝ですわ。
社交デビューしたらセリアにはアプローチの嵐ですわね。
でも私が認めた方じゃないとセリアは渡しませんわよ。社交に興味のないセリアが王宮事情に詳しいのはサラ様と親しいからで、他の事情はさっぱり知りません。
私はまた貴族に生まれるなら、シオン伯爵家がいいですわ。
「レティ、大丈夫?手が止まってるよ。集中しないなら、包丁から手を離して」
ぼんやりしてましたわ。私はリンゴの皮を剥いていましたわ。ルーンでもマールでも許されないことはシオンでやらせていただいてます。
「大丈夫ですわ」
「気を付けて。火や刃物は触れさせてもらえないんでしょ?怪我をすればシエルとリオ様が二度と料理をさせてくれなくなるわよ」
「気を付けますわ。シエルとリオには言わないください」
「ならきちんと気を付けてね。私も二人から怒られるのはごめんだわ」
セリアも邸宅を与えられています。
本邸でも生活はできますが、一人が気楽がいいと3歳から邸宅で生活しているそうです。
初めてここに案内されたときは驚きました。
6歳児が一人で暮らしてるんですもの。
シオン伯爵家ではよくあることだそうです。むしろ本邸で暮らす方の方が珍しいという。
パーティで泣いていたセリアからは想像もできません。
「レティも色々できるようになったね。初めて会った時はしっかりしてて驚いてたのに、ほかはポンコツだとは思わなかった」
セリアに色々教えてもらって感謝してますよ。当時はドレスも一人で着れませんでしたわ。湯あみの用意も、洗濯もパンの焼き方も。あげ出したらキリがありません。
「私も守ってあげたくなるかわいい子が、こんなにしっかりしてるとは思わなかったですわ」
「懐かしい。私は昔のレティも今のレティも大好きだけど」
「私も大好きですわ」
ナイフを置いてセリアにギュッと抱きつくと、ベリっと引き剥がされました。セリアの手が薬品にあるので邪魔するなということですわね。大人しくセリアが用意した生地にリンゴを流します。
「令嬢達からの嫌がらせは落ち着いた?」
「暇なんですかね。もう社交デビューも終わったご令嬢達に私を構っている時間がどうしてありますの?」
「まだまだ来るのね。殿下が見初めたって噂だけで、2年も続けるなんて、凄い執念」
笑いながらもセリアの視線は私にはありません。テキパキとオーブンにパイを入れて、火をつけています。セリアの部屋のオーブンは特別製らしいので、使い方を覚えても意味はないそうです。セリアの部屋は不思議な物で溢れています。
「社交会デビュー前の私もそれなりに忙しいですわ。思いやってくれませんかね。限られた時間を有意義に使いたいのに」
「ルーン公爵令嬢はお勉強が大変そうね。社交デビューしたらさらに―。大丈夫?」
最近はお母様の教育が厳しくなりました。生前に身に付いていることばかりでも、さらなら技術の向上を求められます。唯一の救いは、
「伯母様と一緒に丁重にお返事を書いたら、少しは落ち着きましたわ」
「マール公爵家はレティが大好きよね。レティが止めないなら私が仕返ししてあげるのに」
セリアが瓶を持ってくるくると回しながら空気を液体に含ませ、楽しそうに笑っています。
「被験者が欲しいだけですよね?それに私の喧嘩は私が買いますわ」
「残念。半々かな。この液を皮膚につけると火傷するのよ。普段はインクとして使えるわ」
なんて危ないものを普通のインク瓶に入れてるんですか!?
普通に使いそうでしたわ。今日は書きたいものがありませんが。
「また変なものを作ったんですの?そんな危ない物をこんなところに置かないでください」
「この容器は強いのよ。どうしたら壊れるかわからないわ。熱も通さないし屋根の上から落としても無傷。暗殺の道具にもぴったりかしら?暗殺向けの物もたくさんあるから、いつでも相談して。レティを犯罪者にはさせないから」
パチンとウインクするセリアは可愛い。片手に物騒なインクがなければ。
「そんな予定ありませんわ」
「残念。レティの力になりたかったのに。リオ様に令嬢達の嫌がらせの件見つかったのね」
楽しそうに笑うセリアの予想通り見つかりましたわ。
「はい。うっかり」
「どうせ隠せないから早めに話せばよかったのに。まぁ、もったほうじゃない?」
「女の戦いにリオを巻き込むわけには…。リオが女嫌いになっても将来困りますし。女嫌いになっても、マール公爵令息が一生独身なんて許されないから可哀想ですわ」
「そんなやわじゃないわよ。貴方の従兄様は。これを従兄様に渡してくれる?危ないから見たら駄目よ」
軽い小箱を渡されました。もしかして、
「贈り物ですか?」
「大事なお得意様よ。リオ様の発想はすばらしいわ」
「セリアとリオの関係って」
「うーん。商売客かなぁ」
春は来ませんでした。容姿端麗な二人が並ぶと絵になるんですが。セリアは私と同じ歳なのに、背が高くリオと並んでも釣り合いがとれますのに。
「二人はお似合いだと思うんですが」
「ありえないわ。私達は取引相手としては最高だけど、同族嫌悪で仮面夫婦になるのが目に見えてるわ。あんな腹黒男に興味ないわ」
リオは腹黒ではありませんよ。それはクロード殿下ですよ。セリアのリオの評価が酷い。
「レティの大事なリオ兄様をとらないから安心して。ちゃんと渡してね。今回はサービスって伝えておいて。お茶にしましょ。レティの切りすぎたリンゴがたっぷり入ってるから美味しいわよ」
「わーい!いただきます!!」
セリア特製のアップルパイを口に入れると熱々でしたわ。セリアに笑いながら冷たいお茶を渡され慌てて口に入れました。セリアのアップルパイは不思議な味がしますが美味しく栄養満点。目の前の楽しそうなセリアはパーティでしょぼんとしてたのが嘘のようです。
でも良い友達ができて幸せですわ。
ここまで好きになった令嬢のお友達はセリアが初めてです。
今日も楽しい一日でしたわ。




