2部 スペルブースト 編 8章 能力の使い方 3話
アネットに言い勝ってつい調子に乗ってしまった。
しかし本当に困った。アネットの姿で居るときに綾香に見つかるリスクと俺が女物の服を買いに行く事を天秤に掛けなければならない。
アネットの姿で居るときに綾香と遭遇する可能性は今後ゼロでは無い。その度に裕貴の服を着ている説明をするには無理が出てくる。
――所で、制服は要らないのか?――
「それは裕貴と同じ学校の制服で良いんじゃない、昨日の綾香にした説明からすると裕貴の同じ学校の後輩ってした方が説明し易そうだし」
――成る程、明日にも昨日の戦闘でボロになった制服を新しく注文したいしそのついでで良いか?――
制服代は学生証が有れば1割負担で購入出来る。それでも一式揃えると2万は掛かるが・・・。
「それで良いんじゃない、だったら学生証を何とかして置かないといけないな」
――ICチップ入っているんだったな、どんな情報が入っているんだろう?――
「そこは詳しいヤツに聞かないと分からないな」
コンピューターに詳しい者が居たかな?井上なら何か分かるだろうか?
――それよりも買った服は何処に片付ければ良いんだ?――
「そこね、恐らくベッドの下のエロ本とかばれてるだろうし」
――え?やっぱりばれてるだろうか――
やっぱりそこか、綾香なら裕貴の部屋に何処に何が在るか分かっているだろうからそれを考えないといけない。
裕貴が井上から1冊だけ貰ったエロ本をベッドの下に隠している。綾香は何も言わないが分かっているはずだ。
――誰かに預かって貰うってのはどうだ――
「変身する度に着替えに行かないと行けなくなるだろ、それに正体を明かす事にもなるし、預けたヤツがちゃんと保管出来るか分からない」
――保管って置いて貰うだけだろ?――
「その服で遊ばない?男だったら」
男の部屋に女物の服、それも下着から全てを預けると言うのは馬の前に人参をぶら下げた様な物だ。賢者の様な者でも無い限りその誘惑に耐えられない事は裕貴が一番分かっている。
――じゃあ、女子の部屋に――
「却下!」
――なんでだよ、少なくともお前が思っている様な事はしないだろう?――
「変身する度に女の部屋に行くのか?」
――それは・・・――
近すぎる身内とは秘密にしないといけない事が有るときにはとても厄介な存在だ。
「まあ、“木を隠すには森の中”ってやつだよ、服を隠すならクローゼットの中だろ」
――ああ、なるほど――
「それに綾香は裕貴の洗濯物触らない?」
――入院中はどうだか分からないがな――
「決まり、じゃあ次の休みに買って来て、サイズは後で教えるから」
――決まりっておい!――
「さあ、帰りましょ、もう家が見えた」
私はその後もブツブツと文句を言っている裕貴の相手をせずにベランダに着地した。
「さすがに身体が汚れたね」
――え?――
空を飛べば、空気中の塵や埃で真っ黒とまで言わないが身体はかなり汚れてしまったので浴室へ歩く。
――今何時だと思って――
裕貴の言うとおり時間は朝4時、まだ空は暗いが東の空はうっすらと明るくなっている。
『床見て見ろよ』
――床?――
まるで炭の上を歩いた様に黒い足跡が付いている。
『汚れた身体で寝たらベッドが汚れるだろ。今朝も綾香に怒られたの忘れたか?』
――今朝ってもう昨日の朝の事だよ!――
『さあ、お身体を綺麗にしましょうねー』
――おい、話しを聞け――
『何?また昨日のサービスして欲しいの?』
私は股間を指で擦った。
――うっ、そうじゃなくて・・・もう、いいや、汚れたままじゃ後でどうなるか――
裕貴は観念して大人しくなった。
私はシャワーを浴び念入りに身体を洗うとさっとバスタオルで拭きベッドに沈んだ。
もう、昨日は散々な一日だったと言うのに今日も未明からアネットにつき合わされ殆ど寝てない。しかし、何故かとても目覚めが良い。
――疲労回復も私達の能力だろ――
アネットが語りかけてきた。なるほど、つまり能力を発動している限り疲労をしないと言う事か。
しかし、腹が減った。いつもは7時過ぎに起きていたのに今日は6時には目が覚めたので時間が有る。朝飯はいつもパンだが今日はご飯を炊こうと炊飯器にお米を仕掛けた。
その間に床の足跡を拭き、洗濯機を回し散らかっている着替えを片付けた。
「裕貴、起きてる?」
「おう、お早う綾香」
朝からゴソゴソと音がするせいで綾香がやや緊張した面持ちでベランダから覗いている。
「どうした?」
「どうしたじゃないわよ、裕貴こそ朝から何してるのよ」
「何って飯の支度してるだけだ」
部屋に入ってきた綾香がまるで珍獣を見るように俺を見ている。
「どうだ、朝飯食ってくか?と言ってもハムエッグぐらいしか出来ないけど」
「朝からご飯炊いてるー。ほんとにどうしたの」
「たまたま早くに目が覚めただけだよ、それに腹が減ってな」
「昨日、あれだけ食べたのに?」
そう、昨日は綾香の部屋でご飯4杯も食べたのだ。綾香が「食べ過ぎ」って怒っていた。
「成長期なんだろ?多分」
愛想笑いを浮かべながら誤魔化した。恐らく能力の反動だろう。エネルギーの消費が多いのだと思う。
「私も何か作ってきて上げる。味噌汁は?」
「無い、頼むー」
「分かった。任せて」
何故か綾香は嬉しそうに部屋に戻っていった。それから綾香は味噌汁と、昆布の佃煮を持て来て卓上に並べた。
「さて、頂きます」
2人は卓上を囲んで朝食を食べる。
「それにしても、よく食べるね?急にどうしたの?」
「さあ、腹が減ったからだだよ」
不思議そうに顔を傾げる綾香にご飯を口に含んだまま答えた。
本章は当初、1部のプロローグ→2部の1章(はこれも1部1章で使おうか迷っていた『能力者の少女』に成りました)→3部の1章で使うか迷ってその都度、文章を書き直していまいました。
そのため、文脈がぐちゃぐちゃに成って使えなくなり。結局、1から書き下ろしました。
では何故ここで採用したかというと。今後の展開からここが1番だと思ったからです。




