2部 スペルブースト 編 8章 能力の使い方 1話
1年ぶりの「朝倉裕貴」編です。
3話に続きます。
いつからだろう、俺の身体は自由が利かない。分かっている事は今はまだ夜だと言う事だけだ。
私は遮光カーテンを開けた。窓枠からは街からの光で部屋の中がうっすらと照らされている。
夕べから降っていた雨はもう止んで町中を薄い藻やが掛かっている。
「裕貴起きた?」
――お前、また身体乗っ取って――
「何言ってんだ?私も裕貴だろ」
私は一度ベッドの前まで戻る。
「裕貴、私の服買って来て」
――いきなりなんだ。服、今着てるので良いだろ?――
「これは裕貴の服だろ、私の趣味じゃ無いわ」
そもそも男物の服だから私には合わないし、成神高校の男子生徒の制服を着てうろつくには目立ちすぎる。
――じゃあ、どんな服が良いんだよ?――
「それは店で考える」
――店って女物だよな――
「当たり前じゃない、それに下着も買わないと行けないし」
――下着?――
「私に、ノーブラ、ノーパンで街を出歩けとでも言うの?」
――そっ、そういう訳では無いけど――
「じゃあ買ってきてくれる?」
――誰が?――
「裕貴が買うのよ」
――俺が、俺の格好で?お前の格好で買えば良いだろ?――
「裸のまま買いに行くの?イヤよ!」
――おまっ何言ってんだよ――
「何か問題有る?」
――大ありだ!俺がお前の服を買いに行ったら変態だろ。それに服買いに行くなら俺の服を着て買いに行けばいいだろ――
「サイズが合わないだろ、それに裕貴の服って私の趣味じゃないからイヤよ」
――趣味って・・・――
私はあえて声に出して裕貴に話しかけた。そして裕貴が寝間着にしているTシャツを脱ぐ。
――そう言えば、何で服を脱いでいるんだよ――
「だって、私の服、無いだろ?」
半ズボンを下ろしパンツ姿になる私はパンツにも手を掛けた。
――だからといって全裸はダメだろう――
部屋の中をうろついた後ベランダの窓の前に私は立った。
「じゃあ、早く裕貴が私の服を買って来る事ね」
俺の抗議をよそにパンツまで脱ぎそのまま床に散らかすアネット。
すらりと伸びた細長い手足と小さな胸が窓の外から入る街の光にうっすらと照らされている。
女の身体としては出る所が少なく感じるが、幼い感じでも無くどことなく妖しさも有りとても綺麗だ。
というかこいつこんな口悪かったか?
「早く買ってこないとこれからも裸で街を出歩く事になるなー」
こんな脅迫は卑怯だ、しかしこのまま何もしないわけには行かない。
それはアネットになる度に裸で出歩かれたら危ないし、この身体は今は女だが俺の身体でも有る。
私は悪びれた笑顔で言った。
――分かったよ、何とかする――
「もちろん!サイズは私が指定するから頼んだわよ」
――誰かから借りるってのは無理なのか――
ベランダの窓を開けた。
「無理でしょうね」
私は意地の悪そうな顔で答えた。やっぱり裕貴をいじるのは楽しい。
――それよりも何で窓開けてるんだよ、とにかく今日はもう寝かせてくれ――
そうだ、昨日の朝からこいつのせいで綾香に酷い目に遭わされ、中間試験の追試に追われ、放課後はブルーバンドで大変な目に遭って、夜には再び綾香に酷い目に遭わされた。
厄日と言うには完全な厄日だった。
そして今日も追試の後に昨日のブルーバンドの活動で遭遇した不良達との半ば戦闘の事でシティー・フォークの叙情聴取が待っている。
『何言ってるんだよ、昨日は大変だったでだろ?だから気分転換するよ』
もう声に出さずに裕貴に話しかける。
――気分転換?――
『それに試したい事も有るしな』
ベランダへに足を踏み出した。振り返り時計を見ると午前1時半を回った所で街は静まりかえり静かにビルやマンションからの光が付いている。
綾香の部屋の窓からはカーテン越しに光が漏れている。まだ起きているのだろうか?
――まだ綾香が起きてる。静かにしてくれよ――
『そう?いっそ誘ってみる?』
――やめろ――
やっぱり、裕貴をからかうのは面白い。
さて、私はトランス能力を発揮させる。イメージは空を飛べる姿になる事。
目を閉じて身体中の意識を集中させる。なりたい姿のイメージを浮かべていく。
その身体は腕が1/3程まで縮み、それと対照的に手が大きくなっていく。その手はの大きさは本来から10倍程になり指と指の間に水掻きの様に皮が伸びてきた。
何だかわくわくが止まらない、笑いを堪えながらながらベランダから体を乗り出した。
――おい、何をする気だ?――
『私の能力は?』
――ボディートランスだろ――
『そう、裕貴の能力で私の能力よ、その真の能力とは?』
ベランダの手すりに足をかける。そして、能力で変形させた腕を羽ばたかせた。
――身体の形を変える事?――
『それなら私がやろうとしている事、分かるだろ?』
――それってまさか?――
『It's the show thyme!』
ベランダの手すりにかけた足をそのまま蹴り出しその先へ飛び出した。
――うわあああぁぁぁぁぁ!――
『ちょっと五月蠅い』
――うわああああ――
裕貴の部屋はマンション3階でベランダの手すりからだと大体10m程の高さが有る。
そんな高さから飛び降りれば3秒程で地面に墜落する・・・筈だった。
アネットの身体は墜落せずに地面すれすれを滑空してそこから風を受け高く舞い上がった。




