2部 スペルブースト 編 7章 終わらない不幸な1日 4話
普段、綾香と俺の部屋の行き来はいつもベランダを通っている。
「綾香、入るぞ」
時間は午後7時過ぎ、綾香はボーダーの長袖シャツと短パンにエプロンをしている。
「遅いんじゃ無いの?」
広瀬がまだ部屋に居るのか、めっちゃ睨んでいる。
綾香の部屋は俺の部屋以上に綺麗に整理されている。そして花や縫いぐるみと云ったかわいい系の小物が何故か一切無い、これが普通の女子の部屋なのだろうか?
「どうしたのよ、瞳が呼びに行ってから・・・40分も時間掛かってるじゃない」
時計を見ながら綾香は非難した。
「わるい、ちょっと遅くなった」
綾香の機嫌が悪い、調理や盛りつけの動作が見るからに荒っぽくガチャガチャと大きな音がしている。
「またブルーバンド?また危険な事をしてないよね?」
綾香は不満そうに訪ねる。
「もちろん、今日たまたま顔を出しただけだよ、それに明日のテストが残っているのにブルーバンドの活動なんかしてる場合じゃないから」
「ブルーバンド?裕貴が?うそー」
「何だよ」
広瀬が小馬鹿にする様に笑っている。
「裕貴にブルーバンドが務まるわけ無いじゃない」
「失礼なヤツだなお前は」
広瀬を非難する。
「そうよ、裕貴は無茶はするけどブルーバンドが務まらない程でも無いはずよ」
「フォローになってないぞ」
まだブリブリと起こりながら調理している綾香に抗議する。
「だってそうじゃない。先週までブルーバンドで怪我して入院してたんだし」
「それは・・・まあ、テロ事件だったからな」
「ああ、あちこちで起きた爆発事件の事?ただドジなだけじゃ無いの?」
「ますます、失礼なヤツだな」
また俺は広瀬を非難する。
「だったら、裕貴の部屋に女2人も引き入れて何してたのよ」
「ちょっと待って、何、女引き入れたって?」
綾香の手が止まった。
「今日、追試の後でブルーバンドの事務所に行ってパトロールにつき合っただけだよ」
「それで何で裕貴の部屋に女が来るの?」
「女って言っても藤井先輩だよ、新人のパトロール中に川に落ちた猫を助けようとして落ちた新人に服を貸していたんだよ」
「裕貴の服を?新人って女子でしょ?」
綾香がエプロンで手を拭きながらキッチンからリビングの俺に向かってきた。
「裕貴の服を着て帰ったの」
「いや、洗濯して自分の着て帰ったよ」
「それでなんで女2人も連れてきた?」
「そうよ、どうして」
広瀬は話しをややこしくしようとしている。
「パトロールは2人以上でする事になっているからな、それについて行っただけだし」
「そうじゃなくて、なんでブルーバンドに行ったの?」
今度は綾香からの質問。
「それは、藤井先輩が国語が得意だから、明日の現国について教えて貰いに行くとパトロールに出る所だったから、ちょっとついて行っただけだから」
「それじゃあ、さっきの女は?アネトだったっけ?」
広瀬は悪戯顔をしてわざと聞いてくる。
「それは、さっきも言ったから川に落ちた猫を助けようとしてあいつも川に落ちたんだよ」
「その時なんで裕貴が助けなかったの?」
綾香まで・・・。もっともな疑問だろう。上手く説明出来たと思ったのにそう返されると説明が苦しくなってきた。
「それは・・・猫の鳴き声しか俺も先輩も分からなかったんだよ、アネトだけが川沿いの茂み居た猫を見付けてな、その猫が川に落ちた時にアネトも川に落ちながら助けたんだよ」
「それで、川に落ちた猫ね・・・」
綾香は含みの有りそうな表情で呟いた。
「それで、事務所に戻るより裕貴の部屋に行った方が近いって事になったのね」
「そう言う事、それにアネトの服が乾く間に少し現国に付いて教えて貰って居たって訳」
「藤井先輩の能力はテレポートでしょ?何で猫をテレポートさせなかったのよ」
「それは・・・その」
説明が出来ない。そこへ広瀬が何か気付いた。
「藤井先輩?って藤井麻未の事?レベル4の20位代だったかな。確か物に触れずにテレポートが可能だった筈よ」
「ゆーうーきー?アネトって結局だれなのよ!」
俺の身体が浮いた。綾香のテレキネシスだ。
「おい、止めろ!」
「裕貴が持ってる服の種類くらい私が知らないと思った?」
そう、綾香は俺の母親代わりを勝手にやっているから俺のプライベートはほぼ無い。俺はそこから脱出しようと自炊を始め掃除洗濯をこなしているが、目を離すと勝手に掃除洗濯がされている事が有った。
そして、ベランダの窓が開きそのままベランダへたたき出された。
「った!」
その時ベランダに干してあった綾香の洗濯物が俺の上に落ちた。
「何だこれ?」
目の前に小さな布きれが、洗濯物に埋もれる姿を見た綾香は顔を真っ赤にして迫る。
「もう何してんのよ!」
俺目がけてフォークやナイフが飛んで来た。慌てて俺の部屋に飛び込み窓を閉めた。
しかし、綾香は窓ガラス1枚の所まで迫ってくる。
「ひっ」
執拗に追いかけてくる綾香に怯え尻餅を付いた時、俺の足元に絡まっている布きれを見付けた。
「あっ」
ピンクのレース柄の布地・・・手に取る。と同時にテレキネシスで解錠された窓を開けて綾香が部屋に入ってきた。
「うわー!」
ベッドが浮き上がり俺に直撃した。
「もう、なにしてんのよ」
俺の上で寝ているベッドの横を通り、布きれを胸元に持つとそのまま部屋に戻っていった。
「ホント、今日の俺って・・・厄日?」
ひっくり返ったベッドの下で俺は呟いた。
来週からシルビア編8章の推考が終わったので公開します。
随分やっかいな章でした。
そして現在、長らく止まっていた岡本浩子編の執筆中です。




