2部 スペルブースト 編 7章 終わらない不幸な1日 1話
「男の子の部屋にしては綺麗にしてるのね」
藤井先輩も俺の家まで付いてきた。
「まあ、独り暮らしが長いので必然的に綺麗にする習慣が付きまして、それに何故か他の女子の溜まり場になりやすくて」
藤井先輩は鞄を部屋の隅に置くとうろうろと歩き回ってはテレビ台の下のゲーム機や卓上テーブルの上に置かれているノートパソコンを見たりしている。
「あのー、先輩、隣は綾香の部屋なので出来るだけ静かにして下さい」
「なんでー?」
「この状況を綾香が見るとなんて言うか・・・」
「そうね・・・・こんな美人の先輩を部屋に連れ込んで何してんのよ!ってとこかしら」
「それ、ホントになるかも知れないので言わないで貰えます?」
「綾香ちゃんはよくこの部屋に来るの?」
「ええ、隣なんでしょっちゅう」
「じゃあこれは?」
テーブルに置いてあったメモを俺に見せる。綾香の字で部屋に来る様にと書かれてあった。
「また勝手に部屋に入ったな」
「部屋に来る様にって書いて有るけどもうちょっと後になりそうね」
俺はとりあえず、電気ポットのお湯を急須に煎れた。
「お茶で良いですか?」
藤井先輩は有り難うと返した。緑茶を煎れてから聞くのも何だが湯飲みを持って卓上テーブルへ進む。先輩はテーブルの何かを見ている。
「それで、先輩ここまで来て何か話しが有ったんですよね?」
「そうよ、朝倉君、能力が発現したでしょ?」
「え!?えぇ・・・まあ・・・」
「言えない事?」
「言わない方がいい事。でしょうか?」
「でしょうね。さて、朝倉君、ここでなら話して貰えるかしら?」
「先輩、怖いです」
何もかも先輩に見透かされている気がする。ここから警察顔負けの事情聴取が始まった。
「貴方、あの時の炎からどうやって脱出したの?」
「最初のチートライターの事ですか?」
「チートライター?・・・とにかくあの火の玉、全部で何発受けたの?」
「9発です。それと先輩が気を失ってからも4発ライターって魔法を使ってきたので全部で13発です」
「その・・・最初の9発を受けたとき、朝倉君はどうなったの?」
「ええ、全身の8割程を3度の火傷を負いました。あの・・・この事は」
「そうしたらあの時の朝倉君の姿は本当?・・・朝倉君?貴方の能力は一体?」
「うーん」
真剣な表情で問う藤井先輩、言うべきか・・・俺の能力を。
――秘密は何処までも隠しきれる物じゃないでしょ?――
アネットの声が聞こえた。
『そうはいってもな』
――能力がばれそうになったとき、口裏を合わせられる仲間が居る方が都合が良くなるでしょ?――
「どうなの?」
「あのー、これは誰にも絶対内緒にして欲しいのですが守って貰えますか?」
「朝倉君の能力の事?どうして黙っておかないといけないの?」
「そう言う能力なんです。うすうす気付いているかも知れませんが、以前に能力の片鱗を見た刑事さんから口外しない様に口止めされています」
シルビアから口止めされた事は事実なので出来るだけ信用出来る人に話をしたい。先輩は少し考えている。
「分かったわ、誰にも言わない。でもそれ程の能力なの?」
「それだけ変わった能力というか、俺自身に危険が及ぶ可能性が有る能力らしいです」
「それで、勿体ぶらないで教えてくれる?」
「はい、俺の能力は肉体変化、またはボディートランスと言うらしいです」
「ボディートランス?例えば何が出来るの?」
「見たいですか?」
「うん」
「それではこれから起こる事に驚かないで下さいよ」
先輩は神妙な面持ちの俺の表情を見ると黙って頷いた。俺からの緊張が伝わったのか生唾を呑んでいる。
座っている藤井先輩の向かい側のベッドに腰を下ろし静かに目を閉じた。
――じゃあ、見せるのね?――
『ああ、頼む』
俺の身長が少しずつ縮み始め、顔の輪郭も丸みを帯び始めてきた。そして今まで分からなかった男から女の身体になっていく感覚が分かる。
「朝倉・・・君なの?」
私は目をそっと開けた。正座していた筈の藤井先輩は後ろに仰け反り床に手を付いている。
「朝倉君これは、その能力は一体何?」
「これがボディートランス能力の1つ、変身?まあ肉体は完全に女だから性転換?って言った所ね」
俺の声とは明らかに違うが聞き慣れた女の声に私はなっている。そしてこれが初めて俺の意思でアネットに身体を預けた時だった。
「ね?ってなんで女言葉になってるの?本当に朝倉君?」
「うーん、ちょっと違うかな」
私は先輩に疑問符を投げかける様に返した。
「どういう事?朝倉君なのよね?」
「朝倉裕貴でも有るけどそうで無いとも言える」
「それに、その身体、女?」
「そう、今の身体は女よ、この能力を使う朝倉裕貴の正体を隠す為にこうしたの、これが肉体変化と言う訳ね」
「そんな、変化ってそれ・・・」
藤井先輩は立ち上がって私の正面まで寄ると顔や腕を触っている。
「なんで女なの?別に肉体変化と言っても女に変身しなくても良くない?」
「これには少し理由が有るの?それと私は今、朝倉裕貴では無いよ」
「どういう事?」
「私はこの能力を使う為に作られたもう1人に朝倉裕貴、もう一つの人格って事になるかな」
少し冷静さを取り戻した藤井先輩はベッド前に床に尻餅をつく様に座った。
「つまり、能力を使うときはもう1人の朝倉君の人格で姿になるって事?」
「そうよ、私でいる時の名前はアネットと呼んで、と言っても今朝裕貴に名前を貰ったばかりだけどね・・・。そうそう、表に出ていない方の人格、裕貴にも意識があるから、今のやりとり全て裕貴も知ってるよ」
私はそう言いながら自分の胸を鷲掴みにして揉んでみせる。小さい胸では手に足りない。
しかし、藤井先輩は冷静さを失わない。
「じゃあアネットさん、今の人格はアネットさんが表に出てて、朝倉君の人格は裏?に居て、しかも今は両方の人格の意識が有るって事ね」
「そうよ」
「それで、アネットさんの姿の時、肉体変化の能力が現れるって事で良いの?」
「いいえ裕貴の時も出来るわ、ただ正確には裕貴の身体の時は能力に制限を掛けているけどね」
「と言う事は、朝倉君の姿の時は能力を使えるけど使えないって事ね」
「能力自体が危険な訳じゃ無くて能力を知られる事が危険って言われたの、そしてその正体を気付かれない様にする為にこの身体と私の人格が形成された」
厳密には1ヶ月前の4月22日にジュリアンから能力解放の術と“月の石”って言うネックスレスを貰い私の人格が先に形成された。身体はそれから2週間後の5月7日
先輩は後ろに手を付きもたれ天井を見つめながら考えている。やがて正面に向いて姿勢を正した。
「私今、聞いちゃいけない事聞いたの?」
「そうですよ、だから秘密にして下さいね」
藤井先輩は困った顔をしながらも1つ訊いた。
「能力の事は分かったわ、でもなんで秘密にしなくちゃいけないのかが分からないのよね」
「それは・・・」
現在、シルビア編8章の推考中です。7章で犯人を自爆させた事で次章の内容が狂ってしまいまいました。後悔中です。何とか修正して近く公開する予定ですのでお待ちください。




