2部 スペルブースト 編 5章 不幸な1日の始まり 2話
現場へは俺の他、藤井先輩と浅野結花子の3人で現場に向かった。非番だった久田を事務所に残して何か有った時の連絡係になって貰った。
「ここが噂になっている場所のみたいです」
浅野がスマホを片手に案内してくれた。
「ここは・・・」
「朝倉君知ってるの?」
「はい」
ここは久田と12芒星魔法陣の魔法陣を発見した事件現場のビルの近くだった。
「ここが事件現場・・・嫌な感じがするわね」
「先輩、もう帰りましょうよ」
「しっ!静かに」
藤井先輩が止める。先日の事件現場となったこの場所は以前立ち入り禁止になり、簡単なバリゲートが有るが簡単に通り抜けられる為、不良達にはもってこいの溜まり場になっている。
その奥のビルから怒鳴り声や鈍い音が聞こえる。どうやら通報通り喧嘩が起きていると言うのは本当の様だ。
そのままビルの中に入る。声はどうやら2階から聞こえてくる。階段を藤井先輩が先頭になって慎重に進んでいく。
「先輩、テレポートしないんですか?」
浅野は何故能力を使わないのか不思議そうに訪ねた。
「これだけで行動するのは危険よ?」
「え?またテレポートすれば・・・」
「こちらが発見されると警戒されるし、危険よ」
浅野は何故って顔をしている。
「相手が大人数で待ち伏せしているかも知れないからだよ」
「待ち伏せ・・・なるほど」
浅野は納得していた。
「私が中の様子を確認するから貴方達は周りの警戒をして」
「分かりました」
階段を上がり角から先の様子を藤井先輩が伺っている。
「何?あれ・・・」
戸惑っている。
「どうしたんですか?」
後ろから乗り出す浅野を藤井先輩が押さえた。
「結花子ちゃん、ちょっと待って」
「何が有ったんですか?」
俺も浅野と同じ疑問を投げかけてみる。
「戦っているのよ、1対1で」
「え?戦っている?喧嘩じゃなくてですか?」
「試合と言うよりも・・・処刑・・・」
腕を組み言葉を選びながら説明している。
「処刑?」
浅野は声を上げて慌てて口を塞いだ。俺と藤井先輩は慌てて周囲を警戒する。
「大丈夫、気付かれてない」
周囲を警戒しながら俺は声を潜めた。
「処刑ってどういう事ですか」
浅野も声を潜めて訊いている。
「能力者だと思うけど、その生徒へ一方的に攻撃している」
「それじゃ早く助けないと」
「早まってはダメ、中には30人程居る。全員が能力者かは分からないけど、仮にそうだとすると私達だけじゃ無理よ、多すぎる」
以前、不良達18人を相手に俺と藤井先輩で対処に当たった事は有るが苦戦した。それでも勝てたのは藤井先輩の能力と合気道黒帯の実力を持っているうえに連携が上手くっただけだ。毎回そんな無茶ばかり出来ない。
俺は先輩の前に出て制服の内ポケットに入っているエチケットブラシの鏡で中の様子を伺った。
確かに先輩が言っている様に男子中学生相手に高校生が取り囲み順にデジタル魔法の端末を操作し試し撃ちをしている様に見える。
「先輩何とかならないですか?このままだと大怪我しますよ」
「とにかく一度、外に出て応援を呼びましょ」
「そうですね、とにかく一度外に出よう」
「朝倉君、後ろをお願い」
「分かりました」
俺はH&K VP70をフォルスターから抜きスライドを引いた。
「中の人はどうなるの?」
「残念だけど、今の装備と人数ではどうする事も出来ない」
浅野の問いに藤井先輩は残念そうに答えた。俺もその意見に賛同する。
ビルを出た所で周囲をうろついていた男に遭遇した。
「しまっ!」
「ブルーバンドだ!もう来てるぞ!」
俺は咄嗟にH&K VP70を構え撃つ、麻酔弾を受けた男はその場に倒れた。
「朝倉君大丈夫?」
「はい、でも気付かれました。周りの監視お願いします」
俺が撃った男の側に駆け寄り所持品を調べる。藤井先輩は「本当はもっと広い所まで出たいのだけど」と漏らしながら携帯電話を取りだしている。
「先輩、一度待避しましょう」
「結花子ちゃん早く!」
薬莢の火薬の少ない麻酔弾でも狭いビルの間で撃てば銃声が反響し周り聞こえている筈だ。その事は藤井先輩も分かっている為、まずは安全な場所まで退避する事を選んだ。
案の定、ビルから次々と人達が降りてくる。
「朝倉君!」
「早く行ってください」
ビルの谷間に集まる不良達がおよそ30人、デジタル魔法を扱う為と思われる端末やバット、何故か銃も持っている。
「ブルーバンドだ、直ぐにこの場から解散しろ!」
見つかった以上はったりを噛まさなければブルーバンドとしての権威が墜ちる。
しかし、多勢に無勢、1人対30人、普通なら勝ち目が無い。と言うか権威が地に墜ちている事は分かっている。
「朝倉君、無事?」
藤井先輩は俺の背中合わせにテレポートし、周囲の状況を確認している。
「ええ、まだ何も始まっていませんから」
「でも、囲まれているのね」
「それで浅野は?」
「安全な所へテレポートした。次は朝倉君の番よ」
「それは無理そうだ」
それもその筈でボコボコにされた少年を引きずって見せている。
「次は青狩りかよ」
「あの女、テレポーターだぞ」
ブルーバンドの事を「青」と呼ばれているらしいとは知っていたがやはり随分と舐められた物だと思う。
周りの状況を確認していた藤井先輩も「これは、難しい」と呟いている。
「先輩のテレポートでこいつ等を何とか出来ないのですか?」
「テレポート自体は出来るけどテレポート先のスペースが無いの」
「では、ここは何とか切り抜けないといけないな!」
と言っている間に端末を操作している不良が居る。デジタル魔法か?
「動くな、手に持っている物を置いて3歩下がれ」
効果は無いと思うがあえて銃を向け叫ぶ。
「はははっそんな物怖くねーよ」
やはり能力者やデジタル魔術師には麻酔弾が装填された銃では脅しにもならない。
俺の持っているH&K VP70の弾倉は18発、その内1発は既に使ったから残り17発、全て命中させれば残る不良達は13人になる。それくらいになれば先輩と俺ならもしかするとどうにか出来るかも知れないが、100発100中でしかも動く相手に確実に当てたとしても必ず麻酔が効くとは限らない。
右側面に居る不良の前に魔法陣が現れた。
デジタル魔法は必ず魔法陣が現れるをブルーバンドの研修で知っている。直ぐに狙いを定め引き金を引いた。
その隙を突いて先ほどまで銃口を向けていた奴の前にも魔法陣が現れる。藤井先輩はその前にテレポートするとお手本の様な一本背負いで投げ飛ばした。
俺が撃った相手の前には2つめの魔法陣が現れていたが模様が薄くなるとやがて消え、膝を地面に突いて崩れるように倒れた。やっと麻酔弾が効いた様だ。
自慢では無いが俺はこれでも射撃では学研都市で20位内に入る。これは40m離れた目標へ9割の確率で命中できる腕前だ。
「ヤロー!」
1人を倒すと間に藤井先輩も2人を倒した。それを見た不良達が逆上して5人が一斉に襲いかかってきた。
もしもここに居る相手が全員デジタル魔術師だったなら、この時の他の相手はデジタル魔法を撃ってこない。
それはデジタル魔法の殆どが遠距離攻撃型の範囲攻撃魔法が殆どで、しかも魔法発動までに螺旋魔法陣と召喚魔法陣と言う2つの魔法陣が現れる特性からだ。
但し連中が仲間諸共俺達を攻撃するなら話しは別だが・・・。
そして今俺達に襲いかかっている相手以外の外周に居る連中か攻撃してこない事からここに居る不良達の全員、若しくは殆どがデジタル魔術師と推測出来る。
俺は正面から向かってくる相手3人に対し引き金を引いた。命中!
だが左右両方から向かってくる2人の内どちらかしか間に合わない。攻撃を受ける覚悟を決め俺はまだ距離の遠い右側の奴を睨み付けけ飛び掛かった。
相手との距離を詰めているため引き金を引く余裕はもう無くなっているが、それも計算済み、身体を左へ捻りながら銃のグリップの底で相手の左脇腹を殴った。
相手は脇腹を抱えその場に倒れる。しかし直ぐ後ろにも残る1人が刀を持って斬りかかっている。俺は身体を捻った反動で後ろへ振り返り左胸の前へコンパクトへ両手で銃を構え撃った。
焼けた薬莢が右頬に当たりスライドが左鎖骨に当たる。俺は元々バランスを大きく崩した状態で射撃したのでそのまま地面に受け身も取れないまま仰向けに倒れていった。
至近距離で撃たれた相手は刀の剣先が俺の左上腕に当たった所で実体が無くなり俺の左に倒れる。これで両方に敵、俺、敵の順に川の字で並んで倒れる不思議な状態になっている。
不良達に囲まれた今は下手に動きを止めると袋叩きに遭うかも知れない。すぐさま待避を兼ね後転しながら体を起こす。
「朝倉君前!」
俺から見て右側で不良の肩を決めている藤井先輩が叫ぶ。
正面に走り込んでくる不良が俺の目の前に向かっていた。俺が倒れて居た所に左足を置き右脚を大きく後ろへ振り上げている。
咄嗟に左手を出しガードするが俺に向かってまるでサッカーボールを蹴るかの様に振り出した右足の勢いを押さえる事は出来ず。ガードした左と一緒に顎に受けてしまった。
「うわ!」
後ろに下がり起き上がる途中のしゃがみ込んだ状態の俺の姿勢では十分な防御姿勢も取れず、吹き飛ぶように仰け反りその弾みであさっての方向へ発砲してしまう。
その瞬間に景色が歪み、音が遠くなった。
――脳震盪起こした!――
アネットからの声がぼんやりと聞こえた。すると耳元でボソっと鳴ると劈くっていた耳が回復した。そして視界の歪みが消えていく。
「!?」
意識がはっきりしたのは俺の身体はまだ顎を仰け反らせ倒れる瞬間だった。
「4章 もう一人の名前 2話」から5月23日(火)のまま進んでいます。
朝倉裕貴のなが〜い1日はまだ終わりません。




