2部 スペルブースト 編 4章 もう一人の名前 1話
大分間が開いてしまいました。
仕事が忙しく、家に返ると疲れて寝てしまいました。
退院した日が週末の金曜日で良かったと思う。と言うのも俺の成績はまあ悪くないのだが、中間試験前から12芒星魔法陣事件の事件や、その際に負った怪我のせいで入院をしたりとろくに試験勉強をしていない。それどころか、中間試験中は入院していた。
そこでこの土日の休みを使って試験で出た問題やせめてノートだけでも見せて貰おうと思っている。
そこで人選なんだが、渡邊一樹だと真面目にノート取って無さそうだし、井上も多分あいつは一夜漬けで暗記しているだけだろうから役に立たなさそうだし残るは・・・・。
「こんにちわー」
呼んだのは高塚真紗美、勉強を教えて貰う代わりにケーキを食わす事で手を打った。
と言う事で今ケーキを焼いている。余談だがケーキを焼くのはそんなに難しい事ではない、分量をちゃんと量り作れば時間が掛かるだけで誰でもでも作れる。
今回はシンプルなスポンジケーキの甘さ控えめ、砂糖を少し減らしている為、泡立がし難い分泡立て器の前に小型の電気ストーブを置いてい作った。
「男子がケーキ焼くなんてなんか変」
ケーキが焼き上がるに従ってオーブンから香ばしい香りが漂って来ると、真紗美は面白がって言った。
「材料と道具さえ揃えれば誰でも出来るよ」
「今度、作り方教えてよ」
「いいよ、そのノート見せて」
俺は数学のノートを真紗美から手渡されるとノートを見開いた。
「朝倉君はいつも英語が弱いよね?」
「英単語見てると頭が痛くなるんだよ」
「まあ、分からない事も無いけど、英語はこれから必要だし覚えておいた方がいいよ」
「日本から出なければ大丈夫だろ」
開き直りとも聞こえる台詞を吐くと、真紗美はいつも呆れた様な顔をする。
「ノート見せて貰っているのだからいい加減な事はしないよ」
「だよねー、朝倉君のそう言う所は私は好きよ」
「告白か?」
「何言ってるのよ、言葉の綾よ、言葉の」
本来の『言葉の綾』とはたとえ話の事を言うのだが俺を含め今言った真紗美の様な使い方をしてしまっている。
「まあ、そうだろうな」
真紗美は「好き」「嫌い」のワードをはっきりと使い分けるので、今の「好き」発言も恋愛感情から言った言葉で無い事は分かっている。
中間試験で出題された範囲を教えて貰った。追試では中間試験と違う問題が出題される為、中間試験の解答が解っても余り意味は無いのかも知れない。
「裕貴、ケーキ焼いてるの?」
部屋中にケーキの焼ける香りが漂い始めた頃、綾香がベランダから部屋に入ってくる。
「あっちゃん、お邪魔してます」
「あっ、真紗美ちゃん、裕貴のテスト勉強?」
綾香は俺を通り越して真紗美と喋りだす。
「そうなの、特に英語とか英語とか英語をね」
「英語しか知ってないじゃないかよ!」
「でも、今英語を教えてるでしょ?」
「それは・・・まあ、そうなんだが、それより綾香はなんで来たんだよ」
真紗美に上げ足を取られそれ以上、反論出来なくなったので話しを逸らす。
「ケーキの臭いがしたから」
「外まで臭いがしているのか?」
「してるわよ、窓を開けてたから臭いが部屋まで届いていたわよ」
「まだ焼いている途中だから少し待ってろ」
台所のオーブンを覗いてみる。タイマーの残り時間はおよそ7分、そろそろ生地が膨らんできた。もう少しだ。
「どれどれ?うわっ美味しそう。と言うかこれ大きくない?」
真紗美がオーブンを覗き込んで俺に訊いた。
「20cmの型だが」
「1人で食べる気?」
「いや、真紗美が食べるだろ?」
「私もこんなに大きなの食べられないわよ」
真紗美が部屋から大きな声で返す。
「最初は何度も焼くの失敗してたよね」
「そりゃオーブンに癖があるからな、料理本に書いてある焼き方では上手く行かないよ」
綾香に文句を言う。事実、何故かオーブンが変わると焼き時間が変わったり余熱が必要だったり無かったりする。このオーブンでは余熱有りの180度で45分だ。
そうこうしているうちにケーキが焼き上がった。
スポンジケーキは形から取り出してあら熱を取り、冷蔵庫へ入れて生地を寝かす。
「何か手伝おうか?」
「いや大丈夫だ。いや、イチゴを切ってくれないか」
真紗美に俺は指示を出すと慣れた手つきでイチゴをスライスしていった。
俺はオーブンで焼いてある間に洗っておいた泡立て器に生クリームを入れてスイッチを入れた。泡立て器を固定するスタンドがある為、ある程度放っておいても大丈夫だ。
「裕貴の焼くケーキって美味しいんだよ」
「ケーキ意外にも料理くらい出来るわ」
綾香は何故かまるで自分の事の様に自慢するが言われて悪い気がしない。
綾香も俺が祝い事の度にケーキを焼くので要領を覚えていて、言わなくても・・・言うまでも無く冷蔵庫に入れて寝かせた。
1時間程綾香と真紗美はお菓子作りについて話しをしていると勝手に冷蔵庫からケーキを取り出して真紗美と2人でデコレーションをし始めた。
夕方になっても綾香と真紗美はケーキの彩りがどうとか、あそこのケーキが美味しいとか完全な女子トークになっていた。
「もう帰らなきゃ」
時間は5時半頃、まだ外は十分明るい。
「ご飯食べて行ったら?」
「うん、華英さんに晩ご飯要らないって言ってなかったから」
華英さんとは真紗美の下宿の管理人の事だ。とてもいい人らしい。
「そうなの?すぐに用意出来るのに」
綾香は残念そうに答えた。
「ケーキ美味しかった。有り難う」
「ちょっと、ケーキ半分持って帰れ、その為に焼いたんだから」
「でもどうやって持って帰るの?」
「そこは頭の使いどころだよ」
ケーキは残り4分の3残っている。残り4分の2を真紗美に持って帰る用に分けると、
半円になったケーキを同じ大きさの紙の皿を同じように半円に切ってケーキを慎重に乗せると小物を仕分ける時に使う篭に入れ紙袋に入れると上からラップを被せ蓋をした。
「上手く袋に入ったね、所でこの篭売ってるの?」
「千均で買ったんだよ」
「有り難う、朝倉君」
「今日のお礼だし、結局、デコは俺やらなかったし」
ケーキは上下に切った間にイチゴが入り、生地の上にはたっぷりの生クリームとイチゴが上品に乗った手作り感一杯の、しかし、店にも負けないような豪華なイチゴのケーを手に提げて帰って行った。
「勉強ははかどってる?」
もう時間は夕方の7時、綾香はわざと無神経な質問を投げかけてくる。
「まあまあかな、英語と日本史以外は何とかなるだろう」
「その英語が問題なんじゃない」
「まあ、そこは頑張るしか・・・」
「それはそれは・・・頑張れ!では、頑張る裕貴君の為に私が夕食を作ってあげよう、ちょっと待ってね」
綾香はベランダへ飛び出すと、大きな鍋を持って部屋に戻ってきた。
「何だ、その鍋は?」
「へへー、これはねぇ・・・聞きたい?」
「カレーだろ?臭いで分かる」
「ブー、でもただのカレーでは有りません」
「キーマカレーって言いたいのか?」
「どうして分かったのよー」
口を尖らせながら文句を言ってきた。
「ただ何となく、そうかなーと思って」
「でもただのキーマカレーじゃ有りません」
今度こそと言わんばかりに鍋の蓋を開けて見せた。
「赤くない?凄く辛そう」
「この赤はトマトの赤だから辛くないよ、その名も『トマトとパセリのキーマカレー』!」
「旨いの、それ?」
「ひっどーい、それなら一度食べてみてよ」
綾香は皿に盛ったご飯の上にカレーを注いだ。辛いがトマトの酸味も利いて不思議と旨かった。
「ブルーバンドを止める気は無いんでしょ?」
綾香は突然、思い詰めた表情で訊いた。先日の入院で俺がブルーバンドに所属している事がばれたのだった。
「ああ、でもスリルを求めて始めた事じゃ無いからな」
「じゃあ、どう言うつもりなの?」
「それはまだ言えない、だけど好奇心から始めた事じゃ無く街の安全を守る為だって」
それは何も能力の無いこんな俺でも『綾香を守るため』とはとても言えない。
「守る為?」
「いや、何でもない」
「あー。もしかしてあの胸の大きな先輩?」
「藤井先輩は関係無いだろ」
「それなら、あの中学の娘は?」
「いやいや、違う違う。大体ブルーバンドは女ばっかじゃないんだから、渡邊だって居るし」
「でも、女が多いんでしょ?」
「たまたま配属された支部に女が多いだけだって、20支部は男の方が多いんだし」
「ホントに?」
「お前だって、先週、プラザタウンで不良達をやっつけたときに駆けつけたブルーバンドが居ただろ?あそこは男の方が多い支部だから」
「でも、女も居るんでしょ?」
「そうじゃなて、学研都市の警備がブルーバンドの役目だよ、みんな守る為に頑張っているんだよ」
「じゃあ、私も守ってよ」
「は?綾香?」
綾香が食べているカレーのスプーンの動きが止まった。俯いていて表情は判らないがでも判る。
「綾香、どうした?」
「ううん、何でも無い」
「そうなら良いんだが、何か俺に出来る事が有ったら言えよ」
「何でも無いって言ってるでしょ!」
綾香は怒りながらカレーを口に流し込んだ。
夕食が終わり俺は食器を洗いだした。俺の部屋の食器を使ったのだから食器も俺の物だ。
その上、ケーキを焼いた時の器具もそのままだったので一緒に片付けた。
「裕貴、勉強、教えてあげようか?」
俺の部屋で何故かテレビを見ながらくつろいでいる綾香が言った。
「要らん、何とかする」
夕食に悩んでいる様に見せた表情は俺の勘違いか?いつもの意地の悪い顔つきの綾香に戻っている。そんな時に頼ると余計につけ込まれそうだ。
そして、これで成績が悪かった日には何を言われるか分かった物では無い。だからこそ俺は必死に勉強をした。
しかし、一夜漬けだが・・・。




