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2部 スペルブースト 編  4章 もう一人の名前 2話

 試験範囲を一通り復習し、勉強した所を忘れないようにと少し早めに寝る事にした。今から慌てて勉強した所で「時既に遅し」と言うやつだ。しかし、投げやりになったのでは無く必要十分だと思ったからだ。

 尿意を感じて目が覚めたのは日の出30分前の午前4時30分頃、ベッドから体を起こしトイレに入った。

「え!?」

 付いてない?

 俺は慌てて体中を触ってみる。

「何だ?胸?」

 それ程大きくは無いが胸が有る。それって・・・。

 「女?」

 一体どうして?

 目を擦りもう一度よく自分の身体を探ってみる。

「戻っている?」

 寝惚けていたのか?背がさっきより伸びている気もするが前にも見た夢だろう。

 用を済ませベッドに体を寝かせた。しかし突然の事に興奮していて眠れない。

 何故、先週の女の身体でパンツァースーツと戦う夢だったり、さっきのトイレで寝惚けていたりと俺・・・欲求不満なのか?それにしてもやけに現実的な夢だったと思う。

 と、いつの間にか眠ってしまった。

――まだ気付かないの?――

 またあの声だ。頭の中で響くように聞こえてくる。一体何者なのか?

「お前は誰だ、どこに居る」

――私は裕貴よ――

「俺は俺だ!お前のような女じゃない」

――前にも言ったでしょ?裕貴の深層心理の中に有るのよ――

 暗闇の中からうっすらと姿が浮かび上がった。背丈は160cm位だろうかきゃしゃな体付きをしている。

「お前は?」

 この女、見覚えが有る。と言うよりもさっきまでこの女の身体だった。

「どういう事だ?」

――先週の戦いも、さっき目のまで見た事も夢じゃ無いよ――

「夢じゃ無い・・・だと」

――だったらもう一度、確認して見るといい―」

 また、目が覚めた。

 今度は恐ろしく意識がはっきりしている。ベッドに横たわりながら顔を触ってみる。頬の感触が違う、それより手の感触も違う。

 俺は慌てて部屋の電気を点けた。

「夢じゃない?」

 パジャマの上からでもはっきりと分かる。これは確かに女の体付きをしている。

 慌てて洗面台へ向かった。そこにはさっき夢で見たばかりの女になった俺の姿が映っていた。

「一体、何がどうなっている」

――これは裕貴の持つ能力の1つよ、変身?と言うより変形と言った方がいいかな?そう言う能力――

「つまり俺はこの姿以外にも誰かの姿になれるって事か?」

――まあ、そういう事ね、でもこれは能力の1つって言ったでしょ?――

「まだ能力が有るのか?」

――裕貴、先週の戦いの事を覚えている?――

「ああ、って言うかいちいち声に出さなくても判るよな?」

――ええ、意識を共有しているだけだから判るわよ――

『あの時、生身でオートマトンと戦ったな、とても酷い怪我をした筈なのに回復していった事は覚えている。って事は治癒能力なのか?』

 俺は声に出すのが恥ずかしくなり心の中で言った。それより声も女声になっていて俺が話した声と頭の中で響いてくる声が同じだから混乱するのだ。

――いいえ、あの時、どうやってオートマトンを破壊したのか覚えてる?――

『素手だろ殴った・・・あれ?俺、あの時素手で倒したな?と言うかその前の時も素手で殴って壊したよな?』

――そういう事、それも能力の1つよ、あの時のパンチ力や、装甲を貫く頑丈さ。どれも普通の人間では出来ない力よ――

『この能力はお前の能力なのか?』

――いいえ、裕貴の能力よ、そして私も裕貴から生まれた意識の1つ、人格ってヤツね――

『俺って2重人格?』

――まあ、そういう事になるね、でも、私は裕貴が5歳の時に生まれているの、こうやって表に出れたのは先月かしら――

『あの、先月に綾香と行った魔法のアイテムショップの時か?』

――丁度1ヶ月前ね、あの時能力の封印解除の儀式を受けてから私とこの能力が解放されたの――

『ちょっと待て、生まれ付き俺は2重人格だったのか?じゃあ、昔、幽霊が見えるって言っていた事はお前だったのか?』

――いつから私の人格が形成されていたのかは私にも判らないわ、それと幽霊かどうかわ分からないけどそう言った第6感を持っていた事は事実よ――

 つまり、俺は生まれ付き、若しくは生後直ぐには2つの人格を持っていて、そして第6感を持っていた。と言う事はその事を両親は知っていて俺の人格を封印した。それと同時に能力も封印されたと言う事だろう。

――そういう事になるね、これからよろしく、裕貴――

『お前、聞こえていたのか?』

――そりゃそうよ、同じ意識の中に私と裕貴、両方の人格が有るのよ?言葉にしなくても思っている事は分かるよ。それより裕貴。私の名前、付けてくれるかしら?――

『名前?そうか、今まで封印されていた・・・じゃなくてお前の人格は消せないのか?』

――さあ?分からないわ、でもそれまででも良いから名前が無いと不便でしょ?――

 確かにそうだ。こいつが何時消えるかは分からないが長い付き合いになりそうだ。

――それが、裕貴のイメージだからね――

 何故か言われるままに考えた。

「アネット・・・」

――アネット?まずまずの名前ね、スペルはAnnetteになるのかな――

「いや、あえてAnnetじゃいないのか?呼び方は同じだろ?」

――そうね、そういう事にしておく、それより――

 身体の自由が利かない。アネットが俺の身体をコントロールしているのか?

――止めろ――

「何言ってるの?男が女になって真っ先にしたい事って有るでしょ?」

 アネットが俺に言い聞かせるようにわざと声に出した。俺の意思とは無関係にパジャマを脱ぎ出す。そして右手が・・・!!

「どお?気持ち良いでしょ?女の歓びを知った感想は?」

――凄かった――

 時計は5時50分、外はもう明るくなっていた。そして身体も俺のものに戻っていた。

『私はもう寝るね』

「お休み?」

 寝るとは意識が消えると言う事だろうか?とりあえず、2つの人格の内、俺が表に出ている事になる。

 しかし、俺が能力を使うとき必ずアネットの人格が必要なのだろうか?天井を見つめながら考えていた。

「裕貴、朝よ、起きてる?」

「あ!綾香?ちょっと待て!」

 まだ全裸のままだそれにアネットがベッドの上でした事でしみが付いている。

 そうとは知るはずも無い綾香がベランダから入ってきた。

「きゃあああぁぁぁぁぁ!裕貴朝から何してたのよ!」

「ちょっと待てこれには訳が・・・」

 体が浮き上がると布団やシーツ諸共吹き飛ばされた。

「裕貴の変態!」

 綾香は半泣きになりながら自分の部屋へ帰っていった。

「俺・・・朝から厄日」

 小さな声で呟いた。


ここでやっと1部7章「学研都市の日常」の序盤で朝倉裕貴が中野綾香に言っていた

「女になって学研都市を飛び回っている夢なんだ」

の伏線の女の正体は朝倉裕貴の中の人格「アネット(Annet)」で在ると言う事を認識しました。

2部1章「能力者の少女」で登場する少女の正体はアネットになった朝倉裕貴です。


後日、アネット人物設定を公開します。

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