2部 スペルブースト 編 3章 声 3話
「あ、いたー」
「真紗美?」
「朝倉君?」
屋上庭園の扉を開ける音と同時に聞こえた声は高塚真紗美だった。
「なんで真紗美がここに居るんだ?」
「だってまよちゃんは私の従姉妹だもん、そりゃ病院にだって来るわよ。それより裕貴君こそ試験を受けすにこんな所で何してるのよ!」
「俺も入院してるんだよ」
「何?2人はつき合ってるの?」
「はあ?そんな・・・ただのクラスメイトよ」
宇田川先輩が俺達の関係なんて知りもしないから当然と言えば当然なのだが、突然された質問に俺の俺も「え?」と聞き返した。
しかし、真紗美の声の方が大きく、そして直ぐに否定された。
「朝倉君、もしかしてあの事件の時から入院してるの?」
「ああ、ブルーバンドの交通整理中に事件に巻き込まれて・・・、でも明日退院出来るよ」
「明日ね、でも試験最終日だね、どうするの?」
「分かっていた事だけど、追試になるだろうね」
「入院してる事はあっちゃん知ってるの?」
あっちゃんとは綾香の事だ。
「ああ、毎日来るからな、ブルーバンドの事もばれてしまったし」
「あっちゃんには内緒にしてたもんね、私も朝倉君に口止めされていたから内緒にしていたけど、もう良いんだよね?」
「ま、まあ、そう何だけど」
「あ、そうそう真代ちゃん聞いた?看護士さんから聞いたんだけど真代ちゃんも明日明日退院なんだよね?」
「ええ、でもまた直ぐに入院するでしょうけど」
「また入院ってなんでそんな事言ってるのですか?」
「事実じゃない!」
「真代ちゃん落ち着いて、朝倉君は関係無いのだから」
真紗美は突然、声を荒げる宇田川先輩を宥めた。何か宇田川先輩には秘密が在るようだ。
「そろそろ病室に戻るよ、うろうろして居る所を綾香に見られると怒られそうだから」
「あっちゃんそんなことで起こるの?」
真紗美の「あっちゃん」は綾香の事だ。
「良くも悪くも俺の事心配してるんだよ、先週の土曜から入院して居たのだからな」
「そんなに長いこと入院してたの?そりゃ心配するよね」
「そういう事、だから少し過敏になってるから・・・それじゃまた学校で・・・」
「うん、また学校で」
俺は綾香が来ないうちに病室に戻った。
「まったく・・・また入院するような事が有ったら許さないんだからね」
「分かってるよ、気を付けます」
あえてはっきりと宣言しておかないと綾香の機嫌が治まらない。
病室に有った着替えや中間試験の為に綾香が持ってきたノートや教科書をまとめ病室を出る準備を綾香も手伝ってくれる。
そもそも、勉強道具を持ってきたのは綾香なのだが全部俺の持ち物だ。15分と掛からず片付けが終わると1階カウンターの会計の受付をした。カウンターの向こうでは事務の女性が費用の計算を行っている。
「お早う、朝倉君」
「あ、お早うございます。宇田川先輩、今から退院の手続きですか」
「ええ・・・これからね。そうだ真紗美ちゃんも退院の荷造り手伝ってくれたの」
宇田川先輩と俺がカウンターで立ち話をしている姿に綾香が気が付いた。
「裕貴、その人は?」
「ああ、今日、退院する宇田川先輩だ。えっと確か大誠学園だったからお前の先輩だな」
「え、大誠学園?って私の学校の?」
「そう大誠学園」
「あっちゃん、そんな大声出してるとみんなの迷惑になるわよ」
俺と綾香は面と向かって言い合っている?所へ高塚がやって来た。
「だって裕貴が・・・」
「ああ、宇田川先輩が綾香の同じ学校の先輩だって話しをしてたんだ」
「そうそう、真代ちゃんはあっちゃんと同じ学校なの、そう言えばあっちゃんは真代ちゃんと初対面だったね」
それを聞いてカウンターで精算の手続き待ちをしていた宇田川先輩が綾香の側まで来ると高塚と並び挨拶をした。
「初めまして、宇田川真代です。まあちゃんとは従姉妹なの、今日は私が退院するので荷物の整理に来てくれたの」
「真紗美ちゃんの従姉妹?退院ってなに?」
綾香は俺に問い詰める。この話は俺より真紗美の方が適任だと思うのだが。
「私、ここで1ヶ月位入院していたの、朝倉君とは昨日、屋上庭園で偶然会ったの」
「そうだったの、私は中野綾香、宜しく、宇田川先輩」
「こちらこそ、私は宇田川真代、宜しくね綾香さん」
宇田川先輩は綾香に軽くお辞儀すると右側に居た真紗美の手を引った。
「?」
「ちょっといい?」
「いいけど何?」
宇田川先輩は真紗美の手を引いたままカウンター前から離れ、入り口横のテレビの前まで行って何か話している。
「何の話しかしら?」
「さあ?何を話してるんだろう」
俺と綾香は同時に首を傾げた。
「あの2人ってつき合ってるの?」
真代は真紗美に聞いた。
「え?ああ違う違う、あの新倉君とあっちゃんは幼馴染みだから」
「でも同級生なんでしょ?」
「うん、私と同じ高校2年だし、家が近所で家族ぐるみの付き合いって聞いた事があったよ」
「ほーら、やっぱりやっぱり!ふたりは何処まで進んでるの?キスはもう済んでいるの?」
「知らないわよ!それに仮にそうだとしてもあの2人に聞けるわけ無いでしょ」
「だったら、私が聞いちゃう」
「ちょっと真代ちゃん」
引き留める真紗美の手が届かない程素早く身をかわし、俺と綾香の前に這い寄って来た。
その動きは忍者と云うか上半身と下半身の動きがまるで一致せずロビーの椅子と椅子の合間を縫うように近づいてきた。その動きの不気味さに俺と綾香は同時にビクッと飛びはねる。
「嫌!」
「綾香!」
宇田川先輩の手はそのまま綾香の右手を捕まえるとロビー端の階段へ連れ去った。
「まったく、どうしていつもこう・・・」
真紗美は呆れた口調で俺の横を通り抜ける。
「おい、真紗美どうなってるんだ?」
「病院では静かに!」
声が大きくなっていた様だ。カウンター奧の係員に注意された。
「あっ、すみません」
咄嗟に係員に謝りまた宇田川先輩と綾香の様子を見た。何か話しをしている様だが綾香はなにやら慌てている様にも見える。
「一体、何を話しているんだよ」
声を潜めて真紗美に訊いた。
「アレね。とりあえず危険な事では無いから安心して、それとも何を話しているか気になる?」
真紗美が意地悪そうな目つきで俺を下からのぞき込んでくる。
「何だよ!その顔は」
「やっぱり、あっちゃんの事が気になるんだ?」
「は?そりゃぁ一応は幼馴染みだからな」
「本当にそれだけ?」
「どう言う意味だよ」
「べつにー、まあ、真代ちゃんも同じ事訊いてるのよ、具体的にね」
俺は顔がカーと赤くなる感覚を覚えた。
「お前、俺を試したな?」
「さて、ちょっと真代ちゃんの暴走を止めてくるね」
真紗美はあえて俺を無視して仲裁に入った。そしてあわよくば俺にした事を綾香にもするのだろう。
「朝倉さん-」
会計の計算が終わり呼び出されたので綾香の事が気になるがカウンターへ向かった。
普通なら目を疑う高額な医療費を請求されるのだが、学研都市に住む学生は色々と優遇を受けている為今回の費用は随分安く済んだ。
真紗美が2人を連れて戻ってきた。
「綾香どうした?顔、赤いぞ?」
「何でも無い」
この一言で大体の察しが付いた。真紗美が俺にした事と同じ質問をより具体的に「キスは済ませたのか?」みたいな事を詮索されたのだろう。ただの幼馴染みなのに・・・。
だからあえてここは詮索はしない。
「なによ」
そんな事を考えているうちにいつの間にか綾香を見澄ましていた。その視線に気付いた綾香とまた目が合ってしまう。
「いや、なんか変だなと思ってな」
「何でも無いわよ」
いつもの綾香に、というか何かを誤魔化すいつもの綾香に戻っている事に安心した。そこへ綾香の一言。
「中間試験、今日までだったのよ。どうするの追試?」
キーワード「宇田川真代」
この人物は2部「スペルブースト」編と3部「マナ臓器」編でキーマンとなる(予定の)人物です。
近く、人物紹介をしたいと思います。
そういえば「鹿島幹生」を覚えていますか?
1部6章「退屈しない街」で出てきた小者ですが、彼もこれから(特に岡本浩子編で)色々やらかす予定です。




