1部 12芒星魔方陣 編 7章 学研都市の日常
「ほら、早く起きて」
ゴールデンウイークの開けた5月11日木曜日の朝、また綾香が起こしている。
「ダメ、風邪退いた」
「また?」
俺は布団に潜ったまま出てこない。
「また、そんなこと言って」
「良いじゃん、寝たって」
「良いから、起きなさい!」
いつもならここから布団を引っ張り出そうとするのだが、今回は違った。
綾香は布団の上に乗りそのまま俺の顔の所までやって来た。
目を閉じていても分かる。目の前数センチに綾香の顔がある。それも綾香の息が俺の顔に掛かる位に近い。
俺はびっくりして目を開けた。綾香は俺の布団の上に乗ったまま見下ろしたまま豪快なフォームを繰り出そうとしている。
「おま、ちょっ、待て」
言葉虚しく勢いよく振り下ろされた右手は俺の頬を直撃した。
「裕貴が何時までも起きないからよ」
綾香は呆れた表情で俺を見下ろしている。
「でも、お前・・・」
涙目の折れにすると突然、綾香の表情が変わって。
綾香は体を起こしベッドから降りながら。
「今度からこの方法で裕貴を起こそうかなー」
そう言ってキッチンに歩いて行った。
俺はベッドから這い上がる様に起き上がった。洗面台の見上げて腫れた左頬を撫でる。
「痛いから止めて・・・」
「じゃあ、どんな方法で起こせばいい?」
「普通に起こして・・・」
腰を押さえながらの悲痛な言葉と共にダイニングテーブルを見るとトーストと 二人分のマグカップにコーヒーが入っていた。
「いつも悪いね、朝ご飯作って貰って」
「何言ってるの?私も朝ご飯食べるからよ」
「何で、自分の家で食べて来ないんだよ」
キッチンに向かって綾香はフライパンに卵を落としながら
「裕貴を起こさないといけないから・・・、それに一緒に食べた方が効率良いでしょ?」
俺はテーブルの前に座りコーヒーを飲んだ後、俺のトーストにマーガリンを、綾香のトーストにジャム塗っておいた。綾香はスクランブルエッグをテーブルに置いてトーストを食べた。
「今日の放課後、買いたい物が有るから裕貴ちょっと付き合って」
「何を買うんだよ」
「新しい服、見て頂戴」
「分かった、付き合うよ」
言うまでも無いが綾香は強情な方で俺はいつも振りまわされている。そして下手な嘘はは直ぐに見破られてしまう辺り幼馴染みの性なのか?
二人は朝食を食べた後、食器を片付けて身支度を調えた。
「あれ、何時の間にか歯ブラシ増えてる」
俺は自分の歯ブラシをてにまさかを思って訊いてみる。
「それ、私のよ」
「何時の間に用意した、それよりどれだけここに来る気だよ」
「いつもここに来るんだから要るじゃない」
「そんな毎日来なくても良いのに」
歯を磨きながら言った。
「なによ、だったら毎日ちゃんと起きなさいよ、ホント私が居ないとダメなんだから」
「お前は俺の母さんか?」
「それより早く」
綾香が洗面所に入ってきて隣で綾香も歯を磨き始めた。追い出された俺はその間に制服に着替えた。
「早くしないと遅刻しちゃう」
綾香が急かした。
「準備完了、行こうか」
「うん」
「俺、最近変な夢を見るんだけど」
俺と綾香は登校する途中に聞いた。
「変な夢?って?」
「女になって学研都市を飛び回っている夢なんだ」
「何それ?それより女って何?」
「よく分からん、何故か裸の女の目線で空を飛んだり誰かと戦ったりしてる夢なんだ」
「裸って・・・、裕貴のスケベ」
「違うって、そう言う夢なんだって」
「はいはい、裕貴が最近変態に目覚めたという事で・・・」
「だから違うって」
俺は綾香に訴えた。
「おはよう」
そんな事を言っている間に渡邊一樹が俺達の後ろ姿を見て追いかけて来た。
「よお、おはよう」
歩きながら俺は返事した。
「相変わらず奥さんと一緒か、ところで大きな声を出してどうしたんだ?」
「何でも無いわ」
いつも言われるので、もう慣れた。綾香も言われ慣れている。
学校に向かう途中の公園の入り口に少女が立っていた。
「お早うございます。お姉さまー」
「お早う、もう『さま』は止めてって言ってるでしょ」
綾香は困ったように言った。
「何をおっしゃいますお姉さま~」
広瀬は綾香に抱きついた。綾香の方は嫌そうに引き剥がしに掛かっていた。
「裕貴もお早う」
「何だよ、そのついで見たいな挨拶は」
広瀬は振り返り捻くれた表情で言った。
「お姉様の顔を立てて挨拶してやってるのよ、じゃないと誰があんたなんて」
「私の前で裕貴にそんな事言わないで」
綾香が広瀬を制したが懲りている様子は無い、俺を毛嫌いしている事は知っているが言い返そうと思ったが黙っていた。
「ごめんなさい、お姉様ーでもなんでこんなヤツ」
「それはもう・・・そんな事よりもう時間」
綾香は腕時計を見て言った。確かに綾香の学校に行くにはちょっと遅い時間に家を出た。
「何が『そんな事より』だよ」
俺は、綾香に抗議した。
「瞳、もう時間無いから能力使うよ」
「私の能力だったら」
「それだと間に合わない、一気に飛ぶよ」
「きゃは!お姉様とランデブー」
「裕貴、私、先に行ってるから、後でメールするね」
広瀬は綾香の後ろに捕まって俺に振り向きざまに憎たらしい表情で舌を出した。
「ああ、分かった」
俺はそんな広瀬を無視して綾香に返した。綾香は俺の返事を聞くと学校に向かって一気に飛んでいった。
「相変わらずお熱い事で」
渡邊が冷やかした。
「これの何処が熱いんだよ」
「分からないのかよ」
「分からないよ」
俺と綾香は幼馴染みだ。やっぱり他人からはつき合っているように見えるのか。
「おはよー」
まだ冷やかしを入れようとする渡邊に抵抗しようとする俺には丁度良いタイミングで後ろから自転車の乗って向かってくる橋本翼が大きな声で振り返った。
「おう、お早う」
「お早う、翼」
渡邊も橋本に返事していた。橋本は背中の辺りまでのロングヘアにしていていかにも女らしい雰囲気が綾香と大違いだ。それに見た目のスタイルも良く活発だがお淑やかな口調女らしさを強調している。
「どうしたの?校門の前で」
翼が俺達に聞いている。俺は。
「どうもしないよ」
「いつもの痴話話」
渡邊が茶化した。
「中野さん?」
橋本は乗っている自転車を降りながら聞いた。
「朝から熱いの見せつけられちゃって」
「何が熱いんだよ」
さすがにしつこく言われるとちょっと苛立つ、すると渡邊は喧嘩反対と言わんばかりに鞄の持っていない方の手を上げて何も攻撃の意志が無いように見せた。
「もう時間だから自転車置いてくるね」
橋本は急いだ表情でそう言い残して、駐輪場に行った。
「ほら、行こうぜ」
俺と渡邊は学校に入った。教室にはタブレットの画面を見ていた井上博司が居た。
「お早う」
俺に気付いた井上はこっちに返事した。
「おはよう、二人ともこれ見た」
「なになに?」
高塚真紗美が割って入ってきた。井上はタブレットを見せながら
「アメリカのEEDS社の軍事工場が襲撃されたみたいだ」
「軍事工場が襲撃?また物騒な話だな」
俺は鞄を机に置きながら言った。
「それってテロなの」
高塚が不思議そうに聞いた。
「まだ分からねぇ、襲撃なんて言ったらアルカムかな」
「それって俺らに関係あるのか」
タブレットを操作している井上に俺は聞いた。
「それが関係有るかも知れないよ、朝、ダイブした情報だと特殊能力研究部門みたいだ」
「特殊能力研究部門?それがどうして私達と関係が有るの」
井上の説明は分かりにくい、高塚がまた質問してくる事も分るし俺も分からない。
教室のドアから橋本も入ってきた。周りでも何人かのグループがたむろしているが俺たちの方へやってきた。
「どうしたの?」
「博詩がまたダイブしてた、その話」
渡邊が冷めた表情で橋本に説明していた。それを聞いた橋本は井上に忠告した。
「またどこかにハッキングしてきたのいずれ捕まるわよ」
「アメリカの軍事企業が襲撃されたのだって」
俺は橋本に説明していた。
「特殊能力研究部門って能力者の研究とかしている部門だよ」
「って事は」
俺は井上の言葉に嫌な予感がした。
「つまり、能力者に批判的な組織が今回のテロを起こしたって事だよ」
「それって、ここも攻撃対象に含まれるって事か?」
井上の話に渡邊が言った。
「そういう事に成ると私達も攻撃対象って事?」
橋本は胸に右腕を当てて恐る恐る聞いた。しかし俺は楽観主義だ、余りこの手の問題に対して危機感が湧かない。それに襲撃されるならもっと能力レベルの高い人が狙われるはずだ。
「待てよ、レベルの低い俺たちよりも、レベルの高いヤツの方が狙われやすいよな?綾香とか狙われるって事か?」
「はーい、静かに、ホームルームを始めますよ」
ドアを開けて入ってきた安場先生の声が響いた。




