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1部 12芒星魔方陣 編  6章 退屈しない街

 ゴールデンウィーク前半の4月29日土曜日、プラザタウンの中に在る家電量販店に来ている。

「どう言う物が欲しいんだ?」

 一緒に来ていた井上が俺の要望を尋ねた。

「ノートパソコンにしようと思ってるのだけど、ノートパソコンも種類が多いな」

「予算はどれ位だ?それによってパソコンの性能が変わるぞ」

 井上は得意げに言った。

「コツコツ貯めていたからな今150万位有るぞ」

 150万と言っても円の通貨が戦前の1/10位まで暴落している。スーパーインフレ政策の為だ。

「150万か・・・結構良いのが買えるな。それでパソコンで何がしたいんだ?」

「学校の課題をしたいんだが、後インターネットとメールも」

「メールとネットはどれでも出来るさ、それから課題って何をするんだ?」

「何って書類を作ったりだよ」

「その程度か・・・だったらこれはどうだ?」

 井上はノートパソコンの売り場でA4サイズの売り場に俺を誘導した。後ろにはもっと大きなノートパソコンが置いてあるが価格表を見ると明かに予算オーバーだった。

「パソコンの画面って大きい方がいいのかな?」

「朝倉は初めて使うんだろ?だったら画面は大きい方がいいぞ、これからメインで使っていく事になるだろうし」

「メインって複数のパソコンを使う人が居るのか?」

「ああ、メインパソコンに大型のディスクトップを用意して、サブパソコンに持ち運びしやすい小型のノートパソコン使ってたり俺みたいにタブレットを使っていたりするぞ」

「なるほどー、それだと俺の場合は大きめのノートパソコンが良いって事になるかな」

 そこで並んでいるノートパソコンの中で大きめの物を見て周り、井上が勧めるノート型にした。

「これDVD付いているんだ」

「A4サイズでこの性能なら十分だろう。通信機能内蔵だからルーター要らないしな」

 井上は自分が買ったかの様に満足気だった。俺も高額商品だったパソコンを購入出来た事に満足していた。

「これで後はメール設定だな、プロバイダ契約は携帯で済ませたのだろう?」

「ああ、後日スタートアップキットが届く事になっている」

「それが来たら設定してやるよ」

 井上はユーティリティコーナーへ歩きながら俺に言った。

「井上は何か買う物が有るのか?」

「いや、俺は何も無いけど」

 今度はタブレットを見ながら随分物欲しげに見ていたが、突然、俺の所へ戻ってきた。

「とりあえずパソコン家に置いてゲーセン行こうぜ」

「お、そうするか」

 井上ならそのままゲーセンとか行きそうなのに一度、家に帰る様に言うのはやっぱり俺等にとってパソコンはとてもすぐに買えない高額商品だと気遣ってくれているのだろう。

「朝倉、トイレ借りるぞ」

 家に着くと井上は直ぐにトイレに入った。俺は玄関先でまず郵便受けを確認したがまだプロバイダからの書類は届いていなかった。

 部屋に入り買ったばかりのパソコンの箱を机の上に置きコップに入れた水を飲んだ。

「じゃあ、ゲーセン行こうか」

 俺はトイレから出てきた井上とプラザタウンに在るゲームセンターに行った。


「裕貴、それに井上君」

 ゲームセンターを出た所に綾香達と鉢合わせした。

「綾香、晩飯の買い出しか」

「うん、ちょっと瞳に料理を教えるのよ」

「それで広瀬が居るのか」

 少女の名前は広瀬瞳、綾香の能力が特別珍しい物では無いが、集中力を高めると全身から風が舞い上がるその姿の美しいさから人気が有りファンクラブが出来ている。

 そのファンクラブのメンバーで会員ナンバー0002の広瀬は綾香と同じ様に首筋が見える程のショートカットに薄いリップクリームを塗っている。

「うわ、裕貴だー」

「なんだよ、そのあからさまな態度は」

 俺は広瀬の態度に抗議した。

「なによ、五月蠅いわね」

「なんだよ」

「お前等の漫才にはどうでも良いとして・・・」

「良い事無いだろ!」

 呆れた表情の井上に若干ムキになって言い返した。

「瞳こそいい加減にしなさい、きんぴらぼごう教えないわよ」

 綾香も広瀬を言い聞かすと少し大人しくなった。

「お姉様がそういうなら・・・」

「ちょっと休憩していかないか?目の前モンローが在るし」

 モンローとは、プラザタウン内に在るカフェで店舗とアーケード内の広場にオープンテラスを設けてある。

「で、ここは裕貴の奢り?」

 唐突に綾香が訪ねてきた。

「悪いが今日はパソコン買ってお金が無いんだ。割り勘で・・・」

「パソコン買ったの?」

「ああ、井上とどれが良いのか教えて貰って買った」

「そうなの?後で見せて」

「良いけど、ネットとかまだ設定出来てないぞ」

「そうなんだ」

 綾香は俺の買ったパソコンに興味が有るようだった。

「あれ、何やってるのかな?」

「どうたの?お姉様」

 たまたま向かい合う席に座っていた広瀬が綾香に注目した。

「ほらあそこ」

 綾香が指を指す先にはアーケードの反対側で3人の男子高生が1人の男子中学生を一見じゃれているように見えるが俺達には明かに虐めか若しくは恐喝に見えた。

「あれはやばいかな」

 俺もちょっと異常な雰囲気を感じた。

「ちょっと止めさせてくる」

「ちょと綾香、待て!」

 俺の制止も聞かずに綾香は飛び出した。

「ちょっとお姉様待って」

 広瀬も綾香の後を追いかけて飛び出した。俺も綾香達を止めるべく追いかけようと立ち井上へ一度振り返った。

 井上は携帯電話でブルーバンドへ通報している。

「井上、後頼んだ」

 井上は通話の受け答えをしながら俺を見ると携帯を持っていない左手を挙げて合図した。

「ちょっとそこのあんた、何してるの?」

 綾香は果敢にも3人の男子高生相手に言い寄っている。

「ああぁ、お前には関係ないだろ」

 みさわ高校の制服、本来ならネクタイの色で学年が分かるのだが着崩してネクタイをしていない為学年は分からない。

「何言ってんの?それより何をしてるのか聞いてるのよ」

「うるせー女だな」

 リーダー格と思われる男は男子中学生を放すと右手から炎を出して綾香を威嚇した。

「ファイアキネシス・・・」

「ちげーよ、パイロキネシスだ」

 男はその燃えた右手で綾香を掴もうとする。しかし男子高生の動きが止まった。その間に俺が男子中学生を保護した。

「おま・・一体、何を」

 男子高生は3人とも動けないみたいだ。

「ただの金縛りよ、私があんた達相手に本気も無いわ」

「さすがお姉様」

 余裕を見せる綾香に広瀬はうっとりしている。

「この女、まさかサイコクイーン?」

 動けなくなった男子高生の1人は思い出した様に声を上げた。

「そうよ、このお方はレベル4の第2位、中野綾香お姉様よ!あんた達なんて目じゃないんだから」

 広瀬はまるで自分の事のように綾香を紹介した。能力レベル4位は現在685人、その中で2番目の能力を持っていてしかもテレキネシスという万能さ、それはもう無敵に近い能力だろう。

幹夫(みきお)さん・・・」

 動けない1人はリーダー格の名前を呼んだ。

「そうか、こいつが・・・」

 以前、ブルーバンドで話題になった男、鹿島幹夫(かしまみきお)は恐喝や暴力で生徒指導からも学外での行動を注視するように言われていたブラックリストの人物だ。

「とりあえず、この子の財布は私が預かるわ」

 鹿島のブレザーの右ポケットから財布が浮き上がり綾香の差し出した左手に収まると、3人の拘束を解いた。

「この野郎!」

 鹿島は性懲りも無く綾香に炎の灯った右手で殴りに掛かった。しかしそんな攻撃も虚しく3人は宙に浮き上がり背中から地面に叩きつけ気絶させた。

 その後、駆けつけたブルーバンドに逮捕され警察へ護送された。

「有り難うございます」

「大丈夫だった?怪我は無い?」

 綾香は男子中学生に財布を私ながら聞いた。

「はい、有り難うございます」

 男子中学生は何度もお礼を言っているが表情は曇ったままだ。恐らく日常的に恐喝されていたのだろう。

「お疲れさん」

 モンローで結局、荷物番をするはめになった井上が戻ってきた俺達を労った。

「悪かったな、突然飛び出して」

「いや、鎌わんさ、それよりあいつ等って」

「ああ、鹿島幹夫だ」

 俺の声のトーンも落ちる。厄介なヤツだ。現在のレベルは2程度で能力自体は大した事は無いが質が悪い陰湿なヤツだと聞いている。逆恨みされる可能性を考えると関わりたくなかった。

「綾香、広瀬・・・」

「何よあんたに呼び捨てにされる筋合いは無いわよ」

「いちいち突っかかってくんな広瀬、さっきのヤツだが鹿島幹夫と言ってな・・・」

 俺はヤツがどんなヤツなのかを説明した。最初はつんけんしていた広瀬も少し冷静さを取り戻した。

「分かったわ。気を付ける」

「ああ、俺もあいつに恨み買っているかも知れないから気を付ける」

「大丈夫よ」

「え?」

 俺は改めて綾香を見た。

「裕貴は私が守るから」

 綾香は胸を張って俺に言った。


 夕方、家に帰るとプロバイダからのインターネット接続キットが届いていた。そのインターネット接続の方法が分からなくて四苦八苦していた。

「何してるの?裕貴」

 そこへ綾香がベランダからタッパを持って来た。

「んん?今、パソコンをネットに接続してるんだけどよく分からなくて・・・」

「そんなの、簡単じゃない」

 綾香は俺の勉強机のパソコンとインターネット接続キットを見ている。

「ちょっと貸して」

 綾香がそのまま俺のパソコンに手を伸ばしメールアカウントの設定を始めた。綾香の身体が異常に俺に近い、それ程大きくない胸が俺の右肩に何度か当たったが綾香は気にしていないようだった。

「お前、設定出来るのか?」

「この程度出来なくてどうするの、ほら、設定終わったわよ」

「有り難う、助かったよ」

「まだよ、メールアドレスどうする?」

「メールアドレスってその紙に書いてあるので良いんだろ?」

「こんな無意味な文字列誰か分からないわよ、それにアカウントの同じでしょ?普通は変えるの」

「変えるって自由に変えられるのか?」

「そうよ、無いなら私が決めてあげる」

 そう言うと『flower-tail@○○○.com』と勝手に設定してまった。

「どう言う意味だよ」

「ちょっと待って」

 綾香はこのパソコンから何処かにメールを送ると直ぐベランダから自分の部屋に戻った。そうすると何処からかメールが届いたのでメールを開いた。

「どう、届いた?」

 ベランダから綾香の声がした。

「ああ、これが綾香のだな」

「そうなのー、登録しておいて」

「登録って、どうやって?」

「そんな事も知らないの?ダメね裕貴は」

 その後、綾香にあれこれ言われながらメルアドを登録したのだった。


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