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異世界転生した俺のチートはAIでした。なお、たまに嘘をつきます。  作者: 白川 透


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土地のやり方

ギルドの奥の部屋には長い卓が一つあった。

卓の周りに座っていたのは八人で、みんな冬の外套を着たままだった。互いに名前で呼び合っていて、俺たちが入ると話し声が一度だけ止まった。

いちばん奥に肩の広い男が座っていた。四十に少し届かないくらいで、壁には槍と、縁の欠けた丸い盾が立てかけてある。男は俺たち四人を一人ずつ見た。

「ハーゲンだ。座ってくれ」

低い声だった。大きくはないのに、部屋のどこにいても聞こえそうな声だった。

ハーゲンさんは条件を短く言った。仕事は街道の巡回と、平地の街道沿いにある集落の守り。指揮には従うこと。日当は一人六十。集落にいる間の飯は集落が持つ。

「宿は自分で払え。集落は門から近い。通える」

それから、俺たちのほうへ向き直った。

「ベルクハイムの。何ができる」

何が得意か、ではなかった。何ができたか、を聞かれている気がした。

俺は街道で会った三頭の話をした。荷馬車を止めて背にしたこと。リナが盾で押し返し、セレスさんが雪を吹きつけ、アイリが向きを言ったこと。

「三頭とも退きました。一頭も討ってはいません」

そこで止めてもよかった。少し迷ってから、続けた。

「俺は二度目で足を取られて、リナに助けられました」

ハーゲンさんは黙って聞いていた。卓の端の若い男が何か言いかけて、ハーゲンさんの顔を見てやめた。

「退けて誰も噛まれなかったのなら、いい」

それだけだった。

俺たちは依頼を受けた。最後にハーゲンさんが合図を一つ足した。

「俺の角笛が短く三つ鳴ったら、先に決めておいた場所へ集まれ。場所はその日ごとに言う」

ハーゲンさんは卓を指で一度叩いた。

「守りの最中に、それで持ち場を空けるな。持ち場は、持ち場だ」


*


次の日、初めての巡回に出た。

リートブルクの門を出て平地の街道をしばらく歩くと、雪の野の向こうに屋根が十いくつ見えてくる。それが守る集落だった。家畜小屋がいくつかあって、柵の中で羊が身を寄せ合っていた。

集落の手前でハーゲンさんが足を止めた。

街道の脇の雪に足跡が一列続いていた。俺にはどれも同じ穴に見えた。

「昨夜のうちだ。三頭。こっちから来て、あっちへ抜けた」

ハーゲンさんは足跡を見下ろしただけで言った。

「何を見たんですか」とアイリが聞いた。

ハーゲンさんはアイリを見た。それから黙ってしゃがんで、手袋を外した指で足跡の縁をなぞった。

「縁が丸い。朝の日で少し崩れてる。だが底は固い。夜のうちに踏まれて、凍った」

次に、足跡の続く先を指さした。

「ここでは重なってるが、先で三本に分かれてる。三頭だ」

見ると、少し先の雪の上で、足跡の列が三つに割れていた。

アイリが隣にしゃがんだ。ハーゲンさんのしたとおりに縁と底を指で押して、それから少し離れた所の、別の足跡にも同じように指を当てた。

「こちらは底が柔らかいです。縁も崩れていません」

「そっちは今朝のだ。集落の犬だな」

アイリは帳面に二つの足跡の違いを書き足して、もう一度足跡の縁に指を置いた。何度も同じ所を押していた。顔を上げた時、アイリの目は少し明るかった。

ハーゲンさんは立ち上がって、足跡の続く先を見た。

「こいつらは風下から来る。匂いでばれない側から、家畜に寄る」

「街道でも、そうでした」と俺は言った。

「だろうな」

ハーゲンさんは槍の石突きで雪を軽く突いた。

「群れは数を減らせば引く。これまでの冬も、何頭か討って、近寄るのは割に合わんと分からせた。それで高地へ帰った」

話し方に迷いがなかった。何度も冬を越して、実際にそうしてきた人の言い方だった。俺はうなずいた。数を減らして、割に合わないと分からせる。荷馬車の時に三頭が退いたのも、近づく隙がなかったからだ。筋は通っていた。


*


その夜、集落の食堂で飯になった。

食堂といっても、集落でいちばん大きな家の土間に卓を並べただけの所だった。炉の上で鍋が湯気を立てている。ハーゲンさんは席に着く前に台所へ顔を出して、何か二言三言話してきた。

同じ卓には現地隊のユルゲンさんも座った。部屋で何か言いかけてやめた、あの若い男だ。

しばらくして、深い皿が並んだ。羊の骨付きの肉を麦と一緒に柔らかく煮たものだった。上に刻んだ緑の葉が散らしてある。

リナが一口食べて、黙った。

匙を持ったまま、しばらく動かなかった。

「だろう」とハーゲンさんが言った。

「……骨のとこの肉、もう一つある」

「多めに頼んである。肉の付いた骨を残させた」

リナがハーゲンさんを見た。ハーゲンさんもリナを見た。

そこから、二人の話が止まらなくなった。

「リートブルクで腸詰めなら、市のどこだ」

「入って右の、柱の三本目の屋台」

「あそこは皮がいい。だが中身は、門の脇の店のほうが上だ」

「門の脇って、看板が傾いてるとこ」

「そう、そこだ。冬だけ、胡椒の強いのを出す」

「……次の休みに寄る」

「昼過ぎに行け。夕方には売り切れる」

俺とアイリとセレスさんは、煮込みを口に運びながら二人を見ていた。誰も話に入れなかった。ユルゲンさんが向かいで肩を揺らして笑いをこらえていた。

「私たちも、何か話しましょうか」とセレスさんが小声で言った。

三人とも黙った。俺には話題が一つも浮かばなかった。

「ハーゲンさんの日当は、ほとんど飯に消えるんです」とユルゲンさんが身を乗り出して言った。

「聞こえてるぞ」

ハーゲンさんは顔も上げずに、リナの皿へ骨付きの肉を一本移した。

集落からリートブルクの門までは近い。宿へ戻ったのは暗くなってからだった。雪の街道を歩きながら、リナは門の脇の店の話をもう一度した。


*


次の日の昼、集落の外れで声が上がった。

「家畜小屋に、一頭寄ってる」

駆けつけるといちばん端の小屋の裏の雪原に灰色の獣が一頭いた。小屋の板壁の下を鼻で探っている。

現地隊の動きは速かった。ハーゲンさんが何か言う前に、三人が左右へ散って、獣の横と後ろへ回り込んでいく。ハーゲンさんは槍と盾を持って、まっすぐ獣の正面へ歩いた。

「ベルクハイムの。外を頼む。小屋の向こう側だ」

俺たちは小屋の向こう側へ回った。柵は小屋の角から雪原のほうへ斜めに延びていて、柵の前からは小屋の脇越しに雪原が半分ほど見えた。獣が逃げてきたら、柵の羊の方へ行かせない。それが持ち場だった。リナが盾を構え、俺は剣を抜いて柵の前に立った。アイリは小屋の角から獣の動きを見ていた。セレスさんは俺の後ろで、片手を半分上げたまま待っていた。

獣がハーゲンさんに気づいて、低くうなった。

ハーゲンさんは盾を前にしたまま、止まらなかった。槍の穂先を獣の鼻先へ突き出し、引き、また突き出す。突くたびに一歩ずつ前へ出る。獣は牙をむいて飛びかかりかけたが、盾の縁に鼻を打たれて下がった。横から現地隊の一人が雪を蹴り上げて叫ぶと獣は向きを変えた。

雪原の端まで下がって、獣は一度だけ振り返った。それから一頭で林の方へ走っていった。

あっという間だった。ハーゲンさんの息は、ほとんど上がっていなかった。

セレスさんの手は、風を使う前に下りた。俺は柵の前に立っていただけだった。剣を鞘に戻すと手袋の中の指がまだ柄の形に曲がっていた。

隣でリナが盾を下ろした。目はまだ、ハーゲンさんの背中を追っていた。その目が一度、ハーゲンさんの足もとへ落ちた。リナは何も言わなかった。その日の帰り道、リナは雪の上で一度だけ、盾を前に出して一歩踏み込んでいた。

アイリが帳面に書いた。小屋の裏から。一頭で来て、一頭で逃げた。


*


夕方、家畜小屋の持ち主の家で茶を出してもらった。

持ち主は年配の男の人で、炉の前の椅子から立ち上がらずに湯の入った鍋を孫に持ってこさせた。茶は少し苦くて、熱かった。

「去年の冬も来たよ。あの灰背は」

男の人は窓の外の小屋を見た。

「ただ去年は、一頭ずつだった。一頭来て、追われて、また別の日に一頭。わしが見たのは、そうだったな」

俺は茶の器を両手で持ったまま、街道のことを思い出していた。

あの時は三頭だった。三頭が、別々の向きから同時に来た。

「アイリ。街道の三頭の時、斜面に一頭いたよな」

「はい」アイリが帳面をめくった。「三頭が退いた後に、斜面の中ほどの岩の横で見ました。左の耳の先が欠けていました。今日は、小屋の周りにほかの一頭は見えませんでした」

俺は炉の向こうのハーゲンさんに言った。

「街道の時は三頭が一緒に来て、離れた所で一頭が見ていました。今日の一頭は一頭で来て、一頭で逃げた。関係があるのかは分かりませんが、その違いが気になって」

ハーゲンさんはしばらく黙っていた。それから茶をすすった。

「関係があるかもしれん」と言った。「だが雪が早かった。高地の獲物が少ないと、群れは腹をすかせて大胆になる。三頭で来たのは、それだけかもしれん」

「それも、あると思います」

「どっちとも言えんな」

ハーゲンさんは空になった器を卓に置いた。

「両方、覚えておく」

窓の外では小屋の屋根の雪が夕日で赤くなっていた。男の人の孫が柵の羊を一頭ずつ数えていた。

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