第8話 氷姫を逃がせ
フェルナンドはすぐにルミを物陰に隠す。
「フェル、今のは」
「分かんねえ」
そう言いながらあたりを見回す。周囲には人気が無い。護衛である両国の騎士すらも。
「まずいな。気付かねえうちに引き剥がされたか」
「偵察した方がいいよね」
「ああ。頼む」
ルミは指先で円を描く。空間に穴が開き、すぐにしまちゃんが飛び出てきた。
「しまちゃん、あっち見てきて」
「ぴぃ」
彼はそう返事をして、矢が飛んできた方向へと羽ばたく。その時だった。
ヒュン。
一本の矢が正確に白い羽を貫く。「ぴぃ!」という鳴き声と共に、白い毛玉が地に落ちた。赤色を流し、バタバタともがいている。
「しまちゃん!」
「おい、バカ」
飛び出していこうとしたルミを、フェルナンドが止める。二人の顔の横に、だん、と矢が刺さった。
「っ、居場所がバレたか」
彼の視線が動く。路地の形状、矢が飛んできた場所、現在地……。最悪は全滅。優先すべきは……。
ルミに視線が向く。
「ルミ。眷属をしまう穴、どれくらい持つ?」
「試したことないけど、すぐ閉じるわけじゃないよ」
「分かった。あの地点なら……。よし」
フェルナンドは手で円を描く。開いた穴からアンブルが顔を出した。
「アンブル、動けるか」
「きゅい」
「よし。俺が指示したらここを飛び出して、しまちゃんを回収してここに戻ってこい。その後、そのまま穴に飛び込め。分かるか?」
「きゅい」
「よし」
フェルナンドはアンブルの頭を撫でる。
「ルミ、氷の獣を頼む」
「何するの?」
「撹乱に使う」
「分かった」
「一体は俺が乗れるサイズで頼む」
「……どうして?」
「俺も撹乱に回るから」
音が止まる。ルミは息を飲んだ。
「危ないよ」
「分かってる」
「だったら……」
「死ぬ気はない。多少なら訓練受けてる」
「……でも」
ふ、と笑い声が漏れる。
「王配計画、諦める気ねえし」
「……分かった」
「お前が逃げるのはあっちからな。俺たちよりちょっと遅く出てこい」
「……ねえ」
「うん?」
「無事でいて」
フェルナンドは柔らかい笑みを浮かべる。
「女王サマの命令?」
「命令」
「仰せのままに。じゃあ、頼むな」
ルミは頷いて氷の動物を出す。大抵は狼で、一匹だけ馬だった。フェルナンドは氷の体に触れて制御を取る。
「よし。アンブル、行くぞ」
「きゅい」
彼は氷の馬に飛び乗った。狼たちと共に物陰から飛び出す。ヒュン、と矢が飛んできた。馬や狼を盾にして矢を受ける。
「きゅい」
「ちちち」
アンブルはしまちゃんに近寄り、その背に彼を乗せる。そして、踵を返した。
「今だ」
ルミは急いで手薄になった路地を駆ける。彼女の背中が小さくなる。フェルナンドが安心したような表情になった。その時だった。
「いたぞ」
フェルナンドの顔色が変わった。声は、ルミが走っていった方向から聞こえた。ルミの進路を塞ぐように、路地の先から男が飛び出した。ルミは反射的に指先を動かした。冷気が集まる。男は踏み込むが、その足元から氷がせり上がった。
男の足首が凍りつく。だが、その瞬間だった。
「っ!?」
別の路地から飛び出した影がルミの腕を掴む。
「え――」
反射的に冷気が溢れる。男の腕に霜が走った。しかし近すぎた。首筋に鋭い衝撃が走る。ルミが力を失ったように崩れ落ちていく。
「ルミ!」
気を取られた隙に矢が肩へと刺さる。馬から落ちる。倒れたフェルナンドを、弓矢を持った刺客が押さえつけた。
次の瞬間、目の前が、真っ黒になった。
読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。




