第2話 小竜が あらわれた!
フェルナンドのお腹に乗った竜は、ふみふみと寝床を整えるように足ぶみすると丸くなった。彼の眉間にしわが寄る。
「……っ、ルミ……。死ぬな……」
寝言なのか、フェルナンドは絞り出すような声を出す。
「……ねえ」
「ちち」
ルミは竜を睨みつける。しまちゃんも低い声で威嚇する。小竜は目を開け、そして固まった。
「きゅいっ」
慌てて逃げようとした竜の脚を、ルミはガシッと掴む。そのまま逆さまにして持ち上げた。彼女の手から冷気が漏れる。
「……何してるの?」
「きゅい」
「……ご飯食べてた? ……そう。じゃあ、凍れ」
「きゅいきゅいきゅい!」
小竜はバサバサと羽をばたつかせて抵抗するが、掴まれた足先からじわじわ凍っていく。
「きゅい〜!」
「……ったく、うるせぇな」
フェルナンドが迷惑そうに目を開ける。そして固まった。
「……何してんの」
「教育的指導」
「……怖えよ。……とにかく、事情聞かねえ? ……話できるか、分かんねえけど」
「……フェルがそう言うなら」
ルミは竜の足を離す。竜は「きゅい……」と鳴きながら、フェルナンドの後ろに隠れた。
「……あー、ルミって竜と話できんの?」
「ニュアンス取るくらいなら」
「なるほどな。俺としまちゃんと一緒か」
フェルナンドは小竜を見る。小竜は甘えるように彼の膝に顎を乗せた。
「……懐かれてない?」
「だな。……見たことねえけど」
「きゅいっ」
「……あ、ニュアンス分かるわ。美味しいから、か。……美味しい?」
「きゅい」
「……やっぱり。生命力奪ってたんだ」
静かに言うルミに対し、フェルナンドは「生命力?」と聞き返す。
「そう。生きるエネルギーみたいなもの」
「いや、それは分かるけど……竜が?」
「うん。魔力とか生命力とか、そういうのも食べるから」
「へえ。詳しいな」
「イルヴェリアの女王は氷龍の加護持ちだよ?」
「……そうだったわ」
からりとした笑い声が響く。
「で、フェル。どうするの?」
「どうするって?」
「この小竜。放置してたらフェルの生命力、際限なく奪うよ」
ルミはフェルナンドの顔を見る。彼は笑って言った。
「……それは勘弁だわ。対処法は?」
「まず倒す」
「……物騒だな。できんのかよ」
「凍らせればワンパン」
「規格外かよ。……規格外だったわ」
フェルナンドはけらけら笑いながら「他には?」と聞いた。
「使い魔にする。多少魔力を渡す必要はあるけど、契約で縛れる分、際限なくは取られないよ」
「……使い魔か。割と便利そうじゃね?」
「否定はしない。竜って魔法が使えるし」
「……魔法……。安定化やブースト効くかな?」
「効くと思うよ。私の絶対防御も安定化させてくれたし」
フェルナンドはベンチの座面をトントンと指でたたく。しばらくして口を開いた。
「……するか。使い魔。……どうやるんだっけ」
「……知らない」
「しまちゃんと契約してんだろ?」
「生まれつきだから」
「へえ……。生まれつき?」
ルミは「そうだよ」と言ってから続けた。
「加護をくれるときに、眷属を遣わしてくれるの」
「至れり尽くせりじゃねえか」
「そのかわり、女王は毎年生命力とか捧げてる」
「へえ。大丈夫なのか?」
「うん。数日寝込むけど」
フェルナンドの動きがピタリと止まる。
「……それは、大丈夫じゃねえだろ」
「そう? 昔よりはマシ」
「まし?」
「うん。昔は王子を捧げてたって」
「……王子を。……今も生命力は捧げてるんだろ」
「うん」
「他国の王族にこんなこと言うのもあれだけどさ」
「なあに」
「それ、贄って言わね?」
彼女はなんてことのないように笑った。
「否定はしない。それが王族の役目だから」
「……マジで?」
「うん」
「王族が贄?」
「……女王は最期に冬になって民を守る、って伝承がある国だよ」
「……だったわ」
フェルナンドは空を見上げる。ルミは恐る恐る口を開いた。
「……受け入れ、られない?」
「理由を、教えてくれ」
「氷龍との契約。国を襲わない、むしろ守護する。その見返り」
「見返り」
「うん。竜はそういう生き物」
「……怖えな」
「……王配、辞めたくなった?」
アクアマリンが揺れる。フェルナンドは「いや」と笑った。
「……正直、納得はできねえ。でも、ルミの隣に立たない理由にはならないな」
「……良かった」
風がルミの髪を揺らす。彼は、隣にいた。
読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。




