第15話 騎竜は男のロマン
「焼け!」
フェルナンドの指示のもと、アンブルは白い炎を噴き出す。灼熱の奔流がワイバーンの首元を飲み込んだ。
「凍らせろ!」
ルミは何も言わず手を前に出す。次の瞬間、巨大な氷塊が飛び出し、炎に焼かれた首元へ叩きつけられた。じゅうっ、と耳障りな音が響く。
「……効いてる?」
「分からん。もう一回だ」
「分かった」
灼熱と極寒が交互に首元へ叩き込まれる。一回、二回、と繰り返していく。
ぱきりと小さな音が響いた。ワイバーンが初めて苦しげな咆哮を上げる。
「効いてるっぽい?」
「ぽいな。続けるぞ」
「いいよ」
何度目かの氷塊が叩きつけられる。その瞬間、ぴしりと音がして鱗にひびが入った。
「焼き払え!」
「きゅいいい!」
白い炎がワイバーンの首元を襲う。ばきん、と首元の鱗が砕け散った。氷の塊が露出した肉を貫く。
ワイバーンは断末魔を上げ、力を失ったように地へと落ちていった。
フェルナンドは額ににじんだ汗を乱雑にぬぐう。
「よーし、帰んぞ」
二人は谷を抜ける。フェルナンドは安心したように息を吐いた。
「……ねえ」
「ルミ、どうした?」
「途中から、楽しくなってなかった?」
「うっせ。騎竜は男のロマンなの」
「そんなもん?」
「そんなもん!」
笑い声が響く。アンブルは悠々と翼を広げ、学園を目指して飛んでいった。
◇
満月が空高く昇る頃、アンブルは白陽学宮の中庭に降りる。
フェルナンドはルミの手を引いてアンブルの背から下ろした。
「アンブル、戻っていいぞ」
「きゅい」
その体が光に包まれる。彼は子竜へと戻り、フェルナンドの肩に止まった。
「きゅい」
「疲れた? お疲れ様」
「きゅいっ」
「もう一歩も動きたくない? だろうな。しまおうか?」
「きゅいきゅい」
「ここがいい? 爪、立てんなよ」
フェルナンドはアンブルの頭をぐりぐりと撫でてやる。アンブルはじゃれつくように鳴きながら、フェルナンドに頭を押しつけた。ルミはその様子を見ながら小さく笑った。その時だった。
「……殿下」
静かな声が響く。フェルナンドは慌てて背筋を伸ばして振り返った。
「……リカルド」
振り返った先には、青筋を額に浮かべ、笑顔のはずなのに目が笑っていないリカルドが立っていた。
「護衛と逸れた上、こんな深夜に飛竜の背に乗ってご帰宅されたこと、服装が妙にぼろぼろな理由について、納得いく説明をしていただきたく」
「……気がついたら逸れてたんだよ」
「その点については申し訳ございません」
リカルドは頭を下げる。何とか説教を回避できるか、と思った瞬間だった。
「では、なぜ深夜帰宅に?」
「……誘拐されたから、逃げてきた」
「飛竜に乗って、ですか?」
「きゅい」
「……なるほど。騎士の到着を待たずに、自力で、ですか」
リカルドの瞳の温度は、二度下がった。
「殿下。正座を」
「……やっべぇ、逃げるぞ」
フェルナンドは慌てて走り出す。だが、別の騎士に回り込まれてしまった。
「その手は通用いたしません。何年あなたの側近を務めていると思っていらっしゃるのですか?」
フェルナンドは観念したように肩を落とす。
「……ルミ、助けてくれ……」
「しっかりお説教受けてきて。囮になったり、ぼろぼろにされてたりしたんだから」
「っ、ルミ! それ、火に油!」
「……殿下?」
リカルドの静かな声が響く。
「……明日学校だから短めに……」
「お二人は明日欠席していただきます。精神的ショックも深いでしょうから。ですので、安心して説教されてください」
「んな殺生な!」
フェルナンドの悲痛な叫びは、夜空へと吸い込まれていった。
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