第12話 アンブルの秘密
簡易的な治癒魔法で傷を塞ぎ、しまちゃんやアンブルを鳥かごから出して魔封じを外したあとのことだった。
「きゅい!」
解放されたアンブルは真っ先にフェルナンドの肩へ飛び乗った。
「おう。心配かけたな」
「きゅう……」
「怖かったよ? どっちが?」
「きゅいきゅい……」
「俺の怪我もルミも? 悪かったな」
「ごめんね」
フェルナンドは苦笑する。ルミも安心させるように微笑んだ。
「きゅう……」
それでもアンブルはフェルナンドの肩にしがみついたまま、じっと彼を見つめている。
「だから大丈夫だって」
「ちゃんと塞いだから」
「きゅい」
「信じてねえな?」
フェルナンドは笑いつつドアを開ける。どうやらここは小さなほったて小屋だったようだ。小屋の中にいた人間は、どうやら全員あの部屋に集まっていたらしい。
「俺がボコボコになるのを見物したい客が多かったみたいだな」
「……笑い事じゃないと思う。肝が冷えた」
「イルヴェリアの冬くらい?」
「……ふざけすぎ」
ルミの声は低かった。フェルナンドはすっと笑顔を引っ込める。
「……悪い。怖がらせたな」
「それはお互いさま」
「……確かに」
ほんのり温かいルミが頭をよぎる。……確かにあのときは、生きた心地がしなかった。
「……帰るか」
空気を変えるように玄関らしき扉を開ける。視線の先はきり立った崖だった。ひゅう、と風の音がする。鳥型の魔獣たちが、一斉にフェルナンドへと視線を向けた。
「……まずい。ここ、魔獣の谷だ」
そう呟いた彼にめがけて、鳥たちはビームを打ち出す。頭をかばい目を閉じた瞬間だった。
「きゅいい!」
肩に乗っていたアンブルが飛び出す。その身体が光に包まれた。
「……は?」
次の瞬間、みるみるうちに巨体へと変わっていく。アンブルは彼を守るように覆いかぶさった。
「アンブル?」
「きゅう!」
口を大きく広げて火球を放つ。鳥たちは皆打ち落とされた。アンブルは光に包まれ、また子竜の姿へと戻る。ひっくり返ったアンブルをつかんで、フェルナンドはすぐに小屋の中に戻った。
「フェル、大丈夫?」
「おう。アンブルが助けてくれた。アンブル、ありがとな」
「……アンブルが?」
「ああ。……アンブル、さっきの、なんだ?」
フェルナンドに抱かれたアンブルは、誇らしげに「きゅい!」と鳴いた。
「火はぼくの魔法? 火竜だもんな。大きくなる方は?」
「きゅい?」
「……知らない? なんかできた? マジで?」
フェルナンドは目を見開く。それを聞いたルミは「……そういえば」と口を開いた。
「どした?」
「……小さい頃、子供の竜がいきなり大人になったっておとぎ話読んだことある」
「竜ってそんなことできんの?」
「分かんない。子どもの竜はアンブル以外見たことないから」
彼はアンブルを見る。
「もう一回できるか?」
「きゅい」
「やってみる? よし、頼む」
フェルナンドはアンブルを地面に下ろす。アンブルは「きゅいー!」と雄叫びを上げた。光に包まれて再度巨大化する。だが。
今度は一瞬で光に包まれて戻ってしまった。
「……きゅう」
「魔法っぽい? なるほどな」
「きゅい」
「けど持たない? そりゃそうか。……魔法だったら……」
彼はアンブルに触れる。
「これでもう一回やってみろ」
「きゅい?」
「そう。もっかい。いけるか?」
「きゅいー!」
体がみるみる大きくなる。アンブルは羽を大きく広げ、バサバサと羽ばたいてみせた。
「どうだ?」
「きゅい!」
「さっきより楽? やっぱりな」
「……あ、もしかして安定化かけてる?」
「おう。ブーストもしてるから、だいぶ楽なはずだ」
フェルナンドは笑みを浮かべる。
「よし次。俺に制御渡せ」
「きゅい?」
「……分かんねえか」
「フェルに魔法操って欲しいなー、って考えてみて」
「きゅい」
「いつもそう考えてんの? ……よし、制御も取れる。ちょっと乗ってみてもいいか?」
「きゅい」
「ありがとな」
フェルナンドは巨大化したアンブルにまたがった。
「飛べそうか?」
「きゅい」
「余裕? じゃあ、浮かんでみろ」
アンブルは羽ばたく。その巨体は難なく浮かび上がった。
「あと一人乗せても平気か?」
「きゅい!」
「できる? じゃあ、ルミ、乗ってくれ」
フェルナンドはルミに手を差し出す。重ねられた手を取り、自分の前に座らせた。
「暑くねえか?」
「……許容範囲」
「悪いが少しだけ我慢してくれ。保冷剤、持ってねえ」
「過保護」
フェルナンドは軽く笑って続けた。
「……空中姿勢も問題なし。いけるな」
アンブルは得意げに胸を張った。フェルナンドが「戻すぞ」と言うと、彼の姿が光に包まれる。子竜に戻った彼は、フェルナンドの頭に飛び乗った。フェルナンドはにんまりと笑う。
「……何か、思いついた?」
「おう」
「……悪いこと企んでそう」
「そこまででもねえよ。まあ、任せとけって」
フェルナンドはからからと笑う。谷には夕日が沈みかけていた。
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