第11話 止まらない吹雪
壁に叩きつけられ、痛みで意識が朦朧とする。
そんな中、フェルナンドが感じたのは肌を刺すような冷気だった。ルミの名前を呼ぼうにも、喉から出るのは潰れたうめき声だけだ。
次の瞬間、壁が弾け飛んだ。奥に立っていたのはルミだった。
白銀の髪は静かに浮き上がり、蒼玉の瞳は煌々と輝きを放つ。吹雪は彼女を中心にうねっていた。さながら雪の女神の顕現にも見えた。
フェルナンドは息を呑む。こんなルミは、見たことがなかった。青い瞳と目が合う。視線の温度が更に下がった。
「……誰」
ルミは静かに問いかける。
「フェルにこんなことしたの、誰」
フェルナンドの頭に「竜の逆鱗」という言葉がよぎる。
(こいつら、終わったな)
モンテリア公爵子息は尻餅をついて後ずさる。「……ひぃぃぃ」と情けない声も漏れた。誰もが息を呑む。鳥かごの中でアンブルが震えているのだろう、がたがたと鳥かごが揺れる音が聞こえた。
「誰って言ってるの」
フェルナンドは目だけで公爵子息を示す。ルミは「ありがと」と言ってから口を開いた。
「凍れ」
次の瞬間、手足からじわじわと氷が広がっていく。
「やめろ、やめてくれ……」
公爵子息はがたがたと震えながら命乞いをする。
「……あなたは、フェルにやめろって言われたら、やめられた?」
彼は何も答えない。ただガタガタと震えている。凍結は進む。やがて、物言わぬ氷像が完成した。
「……ひぃぃ」
商会の奴らが声を上げる。それを皮切りに、彼らは逃げ出そうとした。ルミはそちらへ目を向ける。
「逃さない」
床を走った霜が彼らの足を捕らえる。悲鳴を上げる間もなく、氷は全身へと駆け上がった。
次の瞬間、そこにはいくつもの氷像が並んでいた。
(規格外だな)
彼は笑いをこぼす。ルミも微笑みを浮かべた。なのに、吹雪が収まらない。ルミの顔が驚きに染まっていく。
「……ルミ?」
「……フェル、どうしよう」
「……どう、した……?」
ルミは青い顔で首を振った。
「……止まらない」
吹雪は未だ部屋の中を叩きつけるように吹き荒れている。フェルナンドは口の中で「やべえな」と呟いた。
「……ルミ、こっち……これね?」
「何するの?」
「俺が……制御する」
「魔封じは?」
「……外してくれ」
「分かった。拘束も外しとくね」
ルミはフェルナンドに近づき、彼の首にはまっている魔封じの首輪を外す。手足の枷も外した。
「……ん。ありがと。……制御、渡せるか?」
「……やってみる」
「……最悪、意識するだけでいい」
フェルナンドは彼女の肩に手を乗せた。
「……どう?」
「……ちょっと集中させてくれ」
「うん」
「……ルミ、ゆっくり息を吐けるか?」
「分かった」
彼は痛みに顔をしかめながらも、吹雪の制御を取り、少しずつ、少しずつ鎮めていく。やがて冷気が収まった。彼は肩から手を離す。
「……よし」
「ありがと」
ルミは笑顔を浮かべてお礼を言う。そして気づいた。
「フェル、怪我してる」
「……なんとも……ねえよ」
「強がりはいいから。口から血が出てる」
「……どおりで。……まずいと思った」
ルミは「もう」と呟きながら、傷口へ手をかざした。
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