第10話 氷姫の逆鱗
ベッドの上で目を覚ます。気がつけば見知らぬ部屋だった。ルミは手足に魔力封じの枷をはめられ、首にも同じく魔力封じの首輪がつけられていた。上には鳥かごがつり下げられていて、しまちゃんが捕まっている。
壁の向こうにはフェルナンドとアンブルがいるらしい。目を覚ましてからしばらく、二人は壁越しに言葉を交わしていた。
その時、隣室から扉の開く音が聞こえる。誰かが入ってきたのだろう。
ルミは思わず耳を澄ませた。
「……安い復讐だな」
聞こえてきたのはフェルナンドの低い声だ。
「……フェル?」
嫌な予感がして、ルミは慌てて壁際へ駆け寄る。
「フェル、大丈夫?」
「健気な婚約者だ。心配されているようですね」
「だろ?」
フェルナンドは鼻で笑ったようだった。
「……で? わざわざ公爵サマがご足労いただいたんだ? 要件、あるんだろ?」
「ええ。そうですね」
大勢の足音が響く。次の瞬間、ドン、と重い音が壁越しに響いた。きゅい、とアンブルが心配の雄たけびを上げる。
「……っ、フェル?」
「あなたのおかげで、人生めちゃくちゃです」
ガタン、と音がする。
「おやおや。達者な口はどこにいったのですか」
「……っ」
わずかに聞こえるのは、押し殺したフェルナンドの声だった。たたきつけられる音がした。壁が揺れる。
「……赤、似合いますね」
「……言ってろ」
「しゃべる余裕があるんですね」
ドサリと何かがたたきつけられる音がした。ごほっ、と咳き込む声がする。
柔らかいものが踏みつけられる音が聞こえた。
「やめて!」
彼女は思わず叫ぶ。だがそれでも音は止まらない。フェルナンドの声は、ほとんど聞こえなくなった。
「おい、殺すな」
「ええ。分かっていますよ。少し眠ってもらうだけです」
わずかに漏れる声は、息が詰まっているような声。
「それ以上やったら死ぬのでは?」
「そうですね。ではこれで終わりにしましょう」
男の声は弾んでいる。ルミは静かに拳を握りしめた。
「……ないで」
「……氷姫、何か言ってないか?」
「……フェルに、手を出さないで!」
魔力封じの腕輪がパチパチと音を漏らす。冷気が漏れる。
「……おやおや、心配されているようですね。せっかくですので、婚約者に声を聞かせてあげなさい」
「……っ」
壁に何かが叩きつけられ、フェルナンドはうめき声を漏らす。
「……ルミ……」
名前を呼ぶ声は、今にも消えそうだった。
「……許さない」
枷はみしみしと音を立てる。しまちゃんがぴいぴいと落ち着くようになだめても、冷気は鋭さを増していく。
「あなたたちを許さない!」
ばちん、と枷がはじけ飛ぶ。部屋の温度が急激に下がった。鳥籠に霜が走る。壁一面が白く凍り付く。
「なにごとだ?」
次の瞬間、猛吹雪が壁をぶち破った。
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