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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
第一章 冥府の理

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見えざる狩人と最初の覚醒㈡

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

「大丈夫か!」


「危なかったな!」


 だが、カイとソラだけは、公園の木々の間に、一瞬だけ揺らめいた黒い影を見た気がした。それは、死神たちによる最初の警告であり、干渉の始まりだった。彼らは、双子の魂がまだ地上の肉体に馴染みきっておらず、霊的防御が弱い子供のうちに、事故に見せかけてその命を摘み取り、冥府へと連れ戻そうと画策していたのだ。

 その夜。双子が寝静まった後、家の外の闇の中で、数体の影が(うごめ)いていた。


「最初の接触は失敗か。さすがに、あの奪衣婆の魂が入っているだけのことはある。咄嗟の反応が人間のものではなかった」


 リーダー格の死神が、冷ややかに報告する。名を、ヤミという。彼は、ソトのライバルであった野心的な奪衣婆「レン」によって推薦されたエリート死神であり、今回の作戦の現場指揮官だった。


「子供の肉体は(もろ)い。次はもっと大規模に、そして巧妙(こうみょう)にやる」


 ヤミは、地上の地図を広げた。そこには、カイとソラが住む家と、その周辺の道路状況が立体的に映し出されている。


「ターゲット一家は、来週末、家族旅行でこの峠道を通るらしい。道が古く、ガードレールも心許ない。些細(ささい)な『きっかけ』を与えてやれば、車ごと谷底へ落ちるだろう」


「面白い。自然な事故に見せかけるのは我らの得意とするところだ」


 部下の死神たちが、忍び笑いを漏らす。


「問題は、あの女の魂だ。いざという時、また魂の力で抵抗するやもしれん」


「心配には及ばん。今回は我ら三体で同時に仕掛ける。物理的な衝撃と、精神的な干渉を組み合わせれば、いかに奪衣婆の魂といえど、子供の器では耐えきれまい」


 彼らの会話には、幼い子供の命を奪うことへの躊躇(ちゅうちょ)など、微塵(みじん)もなかった。彼らにとってカイとソラは、排除すべきシステムのバグであり、それ以上でも以下でもない。死神養成校で叩き込まれた徹底的な使命感と秩序への忠誠心が、彼らから人間的な感情を奪い去っていたのだ。


 週末。カイとソラを乗せた家族の車は、紅葉が始まったばかりの山道を走っていた。


「二人とも、酔ってないか?」


 ハンドルを握る父が、バックミラー越しに声をかける。


「うん、平気!」


 と答えるソラ。助手席の母は、楽しそうにガイドブックを眺めている。ごく普通の、幸せな家族の風景。だが、後部座席のカイだけは、窓の外の景色を凝視していた。ブランコの一件以来、二人の間には言葉にしなくとも通じ合う、ある種の緊張感が生まれていた。自分たちは、何か「見えない敵」に狙われている。その漠然とした確信が、カイの心から離れなかった。

 車が、急なカーブが連続する峠道に差し掛かった時だった。


「……また、来た」


 カイが呟く。ソラも頷いた。空気の色が変わった。楽しかったはずのドライブの雰囲気が、急速に冷たく、重くなっていく。まるで、車ごと氷水に沈められていくような感覚。運転している父が、小さく(うめ)いた。


「……あれ? なんだか、急に眠気が……」


 助手席の母も、こめかみを押さえている。


「あなた、大丈夫? 私もなんだか、頭が……」


 死神による精神干渉だ。運転手の意識を強制的に朦朧(もうろう)とさせ、判断力を奪う。同時に、車のタイヤのすぐ脇で、小さな落石がパラパラと起きた。それは、死神が起こした物理的な現象。ガガガッ! 驚いた父が、眠気と戦いながら、反射的にハンドルを切った。だが、その反応は一瞬遅かった。車体はガードレールに激しく接触し、火花を散らす。古びたガードレールは悲鳴を上げ、ぐにゃりと外側へ歪んだ。その先は、数百メートルの崖。車体の半分が宙に乗り出し、絶望的な角度に傾く。


「きゃあああ!」


 母の悲鳴が車内に響く。父はハンドルに突っ伏し、意識を失いかけている。車が、重力に従ってゆっくりと滑り落ちていく。カイとソラは、死がすぐそこまで迫っているのを感じていた。恐怖。絶望。そして、自分たちのせいで両親まで巻き込んでしまったという、激しい後悔。窓の外、崖の下から、黒い影たちが嘲笑うように車を見上げているのが、二人の魂にははっきりと見えた。


(これで終わりだ。冥府の秩序は、我らが守る)


 ヤミの声が、直接脳内に響く。

 死を覚悟した、その瞬間。ソラの体から、淡い光が(ほとばし)った。それは、七歳の少女が放つものとは到底思えない、荘厳(そうげん)で、しかしどこか物悲しい光。魂の奥底に眠っていた「奪衣婆ソト」としての本質が、弟の、そして家族の危機に反応して覚醒(かくせい)しはじめたのだ。


「……あなたたちは……!」


 それは声にならない魂の叫びだった。光は不可視の衝撃波となって広がり、車に干渉していた死神たちの精神を弾き飛ばす。


「ぐっ……! なんだ、この力は!?」


「馬鹿な! 地上の肉体から、直接我らを……!?」


 死神たちが狼狽する。彼らの計算には、ソトの魂がこれほど早く、しかも強力に覚醒することは含まれていなかった。

 その一瞬の隙を、カイは見逃さなかった。千年の地獄で培われた彼の精神は、死の恐怖に屈していなかった。彼の瞳から、子供らしさが消え、千年の苦痛に耐え抜いた男の冷徹さが宿る。


「ソラ! お父さんの足元!」


 カイの鋭い声に、ソラは我に返る。父は意識を失いかけ、アクセルペダルに足が乗りかかっていた。このままでは、エンジンが回転し、車は崖下へ射出される。ソラは後部座席から必死に身を乗り出し、父の足を押し退け、代わりにブレーキペダルに自分の手を伸ばした。届かない。その時、カイもまた身を乗り出し、ソラの背中を押した。二人の力が合わさる。ソラの手が、ブレーキペダルを力任せに押し込んだ。



 キーーーーーッ! 


 タイヤがロックし、車体が悲鳴を上げる。傾いた車体のバランスが(わず)かに変わり、崖とは反対側、山肌の岩に向かってスライドした。


 ドンッ! 


 車体が岩に激突して、停止した。エアバッグが開き、父と母を守る。静まり返った車内で、カイとソラは、荒い息を繰り返していた。生きていた。

 崖の下で体勢を立て直した死神たちが、驚愕の表情で二人を見上げていた。


「……信じられん。我ら三体の干渉を弾き返し、自力で事故を回避しただと?」


 ヤミが、憎々しげに舌打ちをする。


「あの女……奪衣婆の力が、完全に目覚めるのも時間の問題だ。そして、あの男の魂……あれはただ者ではない。千年の地獄は、伊達ではないということか」


 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてくる。これ以上の深追いは、天界や他の勢力に感知されるリスクがある。


「引くぞ。……だが、忘れるな。我々は、決して諦めん」


 黒い影たちは、捨て台詞を残し、闇の中へと姿を消した。

 車の中で、カイとソラは黙って手を取り合っていた。もはや、疑う余地はなかった。自分たちは「普通」ではない。そして、自分たちを執拗に殺そうとする、恐ろしい存在がいる。震えるソラの手を、カイが強く握り返す。


「僕たち、戦わなくちゃいけないんだ」


 カイが、弟とは思えぬ力強い瞳で言った。ソラは、自らの掌を見つめた。先程、自分の中から溢れ出た不思議な光の感覚が、まだ残っている。これは、弟を守るための力だ。


「……負けない」


 ソラは涙を拭い、顔を上げた。


「カイのことも、お父さんとお母さんのことも、私が絶対に守るから」


 かつて地獄を耐え抜いた魂と、地獄を知らない奪衣婆の魂。地上で双子として生まれ変わった二人は、今、初めて同じ目的のために、その心を一つにした。それは、冥府の秩序に(あらが)う、長く険しい戦いの始まりを告げる、静かな誓いだった。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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