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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
終 章 陽だまりの詩

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春の風、珈琲の香り、そして陽だまりの探偵たち㈠

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

 あれから、二年という月日が流れた。

 季節は巡り、また春が訪れていた。大学の正門へと続く桜並木は、満開の花びらを散らし、アスファルトの上に薄紅色の絨毯(じゅうたん)を敷き詰めている。その上を、黒いアカデミックガウン(角帽とマント)に身を包んだ卒業生たちが、晴れやかな笑顔で歩いていく。ある者は友と肩を組み、ある者は花束を抱え、ある者は涙を拭いながら。その中に、カイとソラ、そしてひかりの姿もあった。


「……終わったね、学生生活」


 カイは、手元の卒業証書を見つめた。筒に入ったそれは、物理的にはただの紙切れ一枚かもしれない。だが、カイにとっては、かつて振るったどんな神具よりも重く、そして尊いものに感じられた。あの日。時を巻き戻し、神々と戦い、世界を修正したあの日から、彼らは「ただの学生」として生きることを選んだ。レポートの締め切りに追われ、単位に一喜一憂し、学食で安い定食を食べ、居酒屋でくだらない話をして笑い合う。そんな、あくびが出るほど平和で、退屈な日々。神の視点から見れば「無駄」に見えるかもしれないその時間こそが、彼らが命を懸けて守り抜いた「戦利品」だったのだ。


「あーあ! やっと終わった! 卒論、マジで地獄だったー!」


 隣で、ソラが豪快に伸びをする。彼女のガウンは少し着崩れていて、角帽も斜めに傾いているのがいかにも彼女らしい。


「あのゼミの教授、絶対性格悪いよ。私の論文の『念動力の物理的考察』に対して、『空想科学としては面白いが』って赤ペン入れまくるんだもん。本物見せてやろうかと思ったわ」


「こらこら。地獄の番人が『地獄』なんて言わないの。……でも、ソラちゃん、よく頑張ったね。一時は留年するかと思ったけど」


 ひかりが、クスクスと笑いながらソラの角帽を直してやる。彼女は首席での卒業だ。その胸元には、優秀な学生に贈られる金色の徽章(きしょう)が輝いている。


「うぅ……ひかりのスパルタ指導のおかげだよぉ。徹夜でデータ整理させられた時は、スサノオと戦ってる時よりしんどかったかも」


「ふふっ。でも、カイくんもひかりも、みんなで卒業できてよかった」


 カイが微笑むと、ソラとひかりも顔を見合わせ、満面の笑みを返した。


「「カイくんも、おめでとう!」」


 ふと、カイは立ち止まり、空を見上げた。雲ひとつない、抜けるような青空。二年前、あそこに刻まれていた「次元の亀裂」は、もうどこにもない。黒い泥のようなカオスも、威圧的な神々の気配も、きれいさっぱり消え失せている。世界は、完全に修復されたのだ。だが、カイの魂の奥底には、まだ微かに「虚無」の感覚が残っている。それはもう暴走することはないが、彼が「普通」ではないことの証しとして、静かに眠っていた。彼は、その感覚を嫌だとは思わなかった。それは、彼が戦い抜いた証しであり、これからも大切な人を守るための「力」なのだから。


「……ワン!」


 足元で、聞き慣れた鳴き声がした。黒い紋付袴(もんつきはかま)――ひかりの手作りだ――を着せられた豆柴、クロが、尻尾を振って待っている。


「おっと、ごめんごめん。待ちくたびれたか、クロ」


 カイがしゃがみ込み、クロの頭を撫でる。


(……やれやれ。あんなヒラヒラした服を着て、よく恥ずかしくないものだ。俺のこの袴姿の方が、よほど凛々しいだろう?)


 クロの心の声が、カイの脳内に直接響く。神々は去ったが、彼らの「異能」が完全に消えたわけではない。カイの「虚無と創造」、ソラの「念動力」、クロの「変身能力」。それらは、以前より出力こそ落ちたものの、彼らの魂の一部として定着していた。ただ、それを使う機会がなくなっただけだ。平和ゆえに。


「さあ、行こうか。……僕たちの、新しい『城』へ」


 カイが立ち上がる。三人と一匹は、桜舞い散る思い出のキャンパスに背を向け、新たな未来へと歩き出した。


 街の喧騒から少し離れた、静かな路地裏。かつては古書店だったという、(つた)(から)まる赤レンガ造りの三階建てビル。カイたちは、卒業前の半年間、アルバイトをして資金を貯め、この物件を借り受けた。自分たちで壁紙を張り替え、家具を運び込み、少しずつ作り上げてきた場所だ。

 その一階のテナントに、真新しい木製の看板が掲げられていた。

『陽だまり探偵事務所』~失せ物探しから心霊相談まで。あなたの日常、守ります~


 カランコロン♪ 


 アンティーク調のドアベルの音が軽やかに響き、カイたちが中へと入る。室内は、午後の日差しがたっぷりと降り注ぎ、温かいオレンジ色に染まっていた。磨き上げられたフローリングの床。カイとソラが向かい合うように配置された二つの大きなデスク。窓際には、ひかり専用のパソコンスペースと、来客用の座り心地の良さそうな革張りのソファ。壁一面の本棚には、古今東西のミステリー小説と、オカルト関連の資料、そして大学時代の思い出の品々がぎっしりと並んでいる。そして、部屋の隅には、クロ専用のふかふかのベッドと、高い位置から室内を見渡せる「ドッグタワー(特注品)」が設置されていた。


「うん、いい感じ!」


 ソラが、ドカッとソファに座り込み、スプリングの感触を確かめるように跳ねる。


「ここが、今日から私たちの職場かぁ。……なんか、実感湧かないね。学生気分が抜けないっていうか」


「そう? 私はもう、やる気満々だよ」


 ひかりが、奥の給湯室から淹れたてのコーヒーと、手作りのクッキーを載せたトレイを持って現れた。香ばしい珈琲の香りが、事務所内に広がる。


「経理と情報収集は任せて。……それに、依頼の予約も、もう入ってるし」


「えっ、もう!?」


 カイが驚いて振り返る。まだ看板を掛けてから数時間だぞ。


「ふふっ。ネットの口コミよ。ソラちゃんがSNSで『心霊現象バスターズ開業!』って宣伝してたでしょ? それに、『以前、大学の集団催眠事件を解決した学生たちが事務所を開いたらしい』って、都市伝説みたいに噂になってるの」


 ひかりが、タブレットの画面を見せる。そこには、尾ひれのついた噂話と共に、期待を寄せるコメントがいくつも並んでいた。


「依頼内容は?」


 カイが尋ねると、ひかりは少し困ったように、でも嬉しそうに笑った。


「『毎晩、亡くなったおばあちゃんが枕元に立つので、話を聞いてあげてほしい』……だって。依頼人は、小学生の男の子」


「……なるほど。僕たちの専門分野だな」


 カイは苦笑した。神々との戦いは終わったが、この世から「不思議」が消えたわけではない。霊的な悩み、不可解な現象、あるいは人知を超えたトラブル。警察や科学では解決できない「隙間」の出来事は、いつの時代もなくならない。そうした「小さな非日常」を解決し、人々の平穏な日常を守る。それが、カイたちが選んだ、新しい生き方だった。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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