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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
終 章 陽だまりの詩

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神々の黄昏、あるいは新たな契約と継承㈠

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

 それは、歴史書には一行たりとも記されることのない、しかし、この宇宙そのものが魂に刻み込んだ戦いだった。

 時遡行(タイムリープ)によって生じた次元の亀裂。そこから雪崩(なだ)れ込んだ、(ことわり)の外側に住まう「混沌(カオス)」の大群。星を喰らい、時間を腐食させるその絶対的な絶望に対し、地上、天界、冥府は、種族の壁を超えた総力戦で応じた。

 カイの黄金の「言霊」が現実を再定義し、ソラの銀色の「念動力」が物理法則をねじ曲げる。クロの蒼き「雷撃」が闇を焼き払い、ひかりの「解析」が神々さえも見落としていた活路をこじ開ける。そして、本来は最大の敵であるはずの破壊神・スサノオの「神速」が、カオスの軍勢を塵へと還していく。

 三日三晩続いた、神話的な攻防。その果てに、カイは最後の力を振り絞り、天に向かって言霊を放った。


『境界よ、閉じろ。ここは、僕たちの生きる世界だ。異物の侵入は許さない』


 その言葉は、天照皇大神(あまてらすすめおおかみ)の加護を受け、宇宙の裂け目を縫い合わせる「黄金の針」となった。ジジジ……という音と共に亀裂が塞がり、最後のカオスが断末魔と共に消滅した瞬間。世界は、かつてない静寂と、浄化されたような透明な空気に包まれた。

 そして今。戦いを終えた神々は、それぞれの領域で、その結末を見届けていた。それは、神代(かみよ)の終わりと、人の世の真の始まりを告げる、静かなる黄昏の時だった。


【次元の狭間・根の(ネノクニ)への境界】

 星も光もない、虚無と暗黒だけが支配する、絶対零度の空間。そこに、一つの巨大な影が漂っていた。荒ぶる神、素戔嗚尊(スサノオ)。かつて全能を誇り、天地を震わせたその神衣はズタズタに引き裂かれ、自慢の燃えるような赤髪は(すす)と返り血で黒く汚れ、鋼の肉体にはカオスの牙による無数の傷が刻まれていた。彼が手にした最強の神具「天逆鉾(あまのさかほこ)」でさえ、その穂先の一部が欠け、(まと)っていた黒い雷は、今は蛍火のように弱々しく明滅しているだけだった。

 神としての(エネルギー)は、枯渇寸前だった。指一本動かすのも億劫(おっくう)なほどの消耗。だが、その顔には、敗北者の悲壮感など微塵もなかった。彼は、血に濡れた唇を吊り上げ、喉の奥から湧き上がるような、獰猛(どうもう)で、そしてどこか清々しい哄笑(こうしょう)を上げていた。


「クク……フハハハハハッ! 愉快、愉快だ! この私が、破壊の化身たるこのスサノオが、ここまで消耗させられるとはな!」


 スサノオは、閉ざされた次元の亀裂――カイたちがいる地上の方向を、愛おしそうに見つめた。彼の当初の目的は、姉である天照への復讐と、彼女が作り上げた「退屈な秩序」の破壊だった。そのためにカイという特異点を利用し、絶望させ、世界を滅ぼす引き金にしようとした。だが、結果はどうだ。カイは絶望を超えた。神である自分と肩を並べ、あろうことか「背中を預け合う」という、神話にもない屈辱的な、しかし最高に(たぎ)る共闘を演じてみせた。


「あの小僧……カイと言ったか。神の理を人の身で御し、最後には私に『そこを狙え』と指図までしおった」


 スサノオは、欠けた矛の柄を強く握りしめた。数万年の退屈な生の中で、初めて出会った「対等な他者」。自分の力に怯えず、崇めず、ただ一人の敵として、そして戦友として対峙した存在。それを、ただの玩具として壊す気には、もうなれなかった。


「……行くか」


 スサノオは、(きびす)を返した。彼が向かうのは、天界でも地上でもない。遥か深淵、死者と闇が(よど)む、彼自身の領土「根の国」。「姉上の箱庭(高天原)には戻らん。あそこは息苦しいし、光が眩しすぎる。……私は、根の国の底で傷を癒やし、再び牙を研ぐとしよう」

 スサノオの体が、闇に溶けていく。だが、その去り際は、以前のような「捨て台詞」ではなく、ある種の「約束」のようだった。


「さらばだ、人の子よ。次に会う時は、貴様が老いさらばえ、その魂が熟しきった時か……あるいは、再び世界が混沌に飲まれ、私の力が必要となる時か。……精々、それまで退屈させないでくれよ」


 破壊神は、満足げな笑みを闇に残し、歴史の表舞台から姿を消した。彼の心に残ったのは、カイという名の、小さな、しかし決して消えない火傷の跡だった。


【天界・高天原】

 神々の住まう「天岩戸(あまのいわと)」の奥深く。そこは、永遠の光に満ちた場所だが、今のその光は、夕暮れのように(はかな)く、弱まっていた。

 最高神・天照皇大神(あまてらすすめおおかみ)は、崩れ落ちるように床に座していた。その身体は、向こう側が透けて見えるほど半透明になり、輪郭が陽炎のように揺らいでいる。禁忌である「時遡行(じそこう)」の代償、そしてカオス侵入を防ぐための結界維持。それらに費やした神気は計り知れず、彼女の神核(コア)である太陽の輝きは、燃え尽きる寸前の蝋燭のように小さくなっていた。


「姉上……」


 傍らで彼女を支える月読命(つくよみのみこと)が、悲痛な面持ちで声をかける。彼の銀色の髪もまた、戦いの疲労で輝きを失っていた。


「……見事でしたね、月読」


 天照は、消え入りそうな声で、しかし慈愛に満ちた聖母の微笑みを浮かべた。彼女の目の前にある「八咫鏡(やたのかがみ)」には、平和を取り戻し、朝日が差し込む大学のキャンパスで、泥だらけになって笑い合うカイたちの姿が映っていた。


「あの子たちは、自らの手で未来を掴み取りました。……神の奇跡にすがるのではなく、神さえも巻き込み、乗り越えて」


「ですが、その代償は大きすぎました」


 月読は、天照の透けた手に触れた。冷たい。太陽神であるはずの彼女の手が、氷のように冷たい。


「姉上の御力は、此度の戦いで大半が失われました。もはや、地上に直接干渉することも、加護を与えることも叶いますまい。……神々の時代は、実質的に終わるのです」


「それで良いのです」


 天照は、静かに首を振った。


「親がいつまでも子供の手を引いていては、子供は歩けません。カイたちは証明しました。人間は、脆く、愚かで、間違いを犯すけれど……それでも、自ら修正し、前へ進む強さを持っていると」


 天照は、月読の助けを借りて、ゆっくりと立ち上がった。その姿は、威厳ある最高神というよりも、役目を終えて隠居する母のようだった。


「私は、永い眠りにつきます。この傷ついた神核を癒やし、再び世界を照らす光となる日まで。数百年か、数千年か……」


「……はい。この高天原は、私が守り抜きましょう。姉上が目覚めるその日まで、夜の月が、太陽の留守を預かります」


 月読が深く頭を下げる。その瞳には涙が光っていた。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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