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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
第五章 黎明の天秤

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神の誤算と、蝕まれた舞台㈡

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

 カイの両手から、金色の障壁が展開される。バチバチバチッ! 神の雷と、人の言霊が激突し、火花を散らす。


(……重い!)


 カイは歯を食いしばった。膝が震える。先ほどのカオス(影の怪物)との戦いで消耗した分、出力が落ちている。それに、スサノオの怒りが、前回よりも力を増幅させている。だが、一歩も引くわけにはいかない。


「ハァッ!」


 ソラが念動力で、崩れてきた天井の巨大な(はり)を空中で支え、学生たちの頭上を守る。


「こっちよ! 早く逃げて! パニックにならないで!」


 クロは雷狼となり、出口を塞ぐ死神たちを蹴散らしていく。


「ガウッ! (邪魔だ、雑魚ども!)」


 その巨体が、鋼鉄の扉を体当たりでぶち破る。スピーカーからは、ひかりの冷静な誘導放送が流れる。


『非常口は北側です! A棟への通路を確保しました! 落ち着いて、前の人に続いてください!』


 カイたちの連携は完璧だった。前回の失敗を教訓に、被害を最小限に抑えつつ、学生たちを逃し、スサノオを孤立させる。カイが防ぎ、ソラが守り、クロが道を切り開き、ひかりが導く。このままいけば、勝てる。

 そう思った、その時だった。


 ズズズズズ……。


 講堂の天井、そのさらに上空から、異様な音が響いた。それは雷鳴ではない。爆発音でもない。空間そのものが、何か巨大すぎる質量によって無理やり押し広げられ、「(きし)む」音だった。ガラスを爪で引っ掻くような、あるいは濡れた布を引き裂くような、生理的嫌悪感を催す不協和音。


「……なんだ?」


 スサノオが攻撃の手を止め、天井を見上げる。カイもまた、嫌な予感に戦慄した。あの音は。あの気配は。先ほど、西の焼却炉で戦った「カオス」と同じ。いや、比較にならないほど強大で、濃密な「虚無」の気配。


(まさか……ここに来るのか!? こんな時に!?)


 バリバリバリッ!!


 講堂の天井が、物理的な破壊ではなく、デジタルノイズのように四角く分解され、消失した。空が見えるはずの場所には、空はなかった。そこにあったのは、色のない、ただの「穴」だった。その穴から、ドロリとした黒い液体のような闇が、滝のように降り注いだ。


「うわあああっ!?」


 闇を浴びたスサノオの親衛隊(死神)たちが、悲鳴を上げる間もなく溶けていく。骨も残らず、存在そのものが消去される。

 そして、闇の中から、巨大な「目」が現れた。一つではない。百、千、いや万を超える、ギョロリとした目玉が集合し、不定形の肉塊を形成している。カオス。それも、先ほどの影など比較にならない、次元の壁を食い破って侵入してきた、本隊クラスの上位個体「暴食者(グラトニー)」だ。


「な……なんだ、これは!?」


 スサノオが驚愕する。神である彼にとっても、それは未知の存在だった。神話にも、地獄の記録にもない、理外(ことわりがい)の怪物。カオスの肉塊は、スサノオの放つ強大な神気に反応し、無数の触手を伸ばした。高エネルギー反応。極上の餌。カオスにとって、神も人間も関係ない。ただの栄養源だ。


「貴様……神であるこの私を、喰らおうというのか!?」


 スサノオが激昂(げきこう)し、天逆鉾(あめのさかほこ)で触手を()ぎ払う。黒い雷が触手を蒸発させる。だが、切断された破片が、それぞれ独立した生き物のように(うごめ)き、再生し、さらに分裂して四方八方から襲いかかる。物理攻撃無効。霊的干渉無効。(ことわり)が違う。こちらの攻撃が「攻撃」として認識されない。


「カイ! あいつ、スサノオを狙ってる!」


 ソラが叫ぶ。


「……まずい!」


 カイは瞬時に理解した。スサノオは、この世界で最強クラスのエネルギーの塊だ。もしスサノオがカオスに喰われれば、神の強大なエネルギーを取り込んだカオスは、制御不能の「滅びの神」へと進化し、この星ごと飲み込んでしまうだろう。敵であるスサノオを、助けなければならない。なんて皮肉な状況だ。だが、迷っている暇はない。


「全員、退避ッ! この講堂から離れろ!」


 カイは叫び、スサノオとカオスの間へと割って入った。黄金の言霊をまとい、カオスの前に立ちはだかる。


「何をする、小僧!」


 スサノオが吠える。


「黙ってろ! そいつに触れるな! 取り込まれるぞ!」


 カイは、両手を広げ、最大出力の言霊を練り上げる。カオスの存在を定義し、こちらの物理法則に縛り付ける。だが、相手が大きすぎる。講堂全体を覆うほどの質量。これを全て「翻訳」するには、カイの魂が焼き切れてしまうかもしれない。それでも、やるしかない。

(頼む……保ってくれ、僕の魂!)


 カイが覚悟を決めた時。カオスの無数の目が、一斉にカイを見た。そして、肉塊の一部が変形し、人の口のような形を作った。


『……ミ……ツ……ケ……タ……』


 不快な合成音声のような、歪んだ声。それは、カイの魂の深淵を覗き込むような響きを持っていた。


『……因果ヲ……歪メシ……特異点……』


『……オ前ヲ……喰ラウ……』


 カオスの標的が、スサノオからカイへと切り替わった。時遡行を行った代償。世界のバグを生み出した元凶として、カイ自身が「排除すべきエラー」としてロックオンされたのだ。


 ドォォォン! 


 カオスの触手が、音速を超えてカイに迫る。全方位からの刺突。防げない。言霊の展開が間に合わない。カイが死を覚悟した瞬間。


 ガギンッ!!


 硬質な金属音が響き、カオスの触手が弾き飛ばされた。カイの目の前に立っていたのは、意外な人物だった。燃えるような赤髪、漆黒の神衣。スサノオだ。彼は天逆鉾を構え、忌ま忌ましげにカオスを睨みつけていた。


「……勘違いするなよ、小僧」


 スサノオは、背中越しにカイに言った。その声には、助けたことへの照れなど微塵もなく、あるのはただ、己の獲物を他者に横取りされることへの不快感と、神としての矜持(プライド)だけだった。


「貴様の魂を狩るのは、この私だ。こんなどこの馬の骨とも知れぬ汚物に、横取りされてたまるか。……私の獲物に指一本触れさせるものか」


 神のプライド。それが、奇妙な共闘を生んだ。カイは、目を見開いてスサノオの背中を見つめ、そして、ふっと口元を緩めた。


「……助かったよ」


 カイは、苦笑しながら立ち上がった。


「一時休戦だ、スサノオ。こいつを倒さないと、世界もろとも消える。……君の支配するはずの世界も、ね」


「指図するな。……だが、今は利害が一致したようだな」


 スサノオが、口角を吊り上げて凶悪に笑う。


「いいだろう。神と人、その力を合わせて、この不届きな侵入者を、虚無の彼方へ葬り去ってやる!」


 崩壊する講堂。逃げ惑う学生たち。天井から降り注ぐ混沌の雨。その中心で、因縁の敵同士であるカイとスサノオが、背中合わせに並び立った。昨日の敵は、今日の友――ではない。昨日の敵は、今日も敵だが、共通の敵の前では手を組むしかない。これは、生存をかけた、最初で最後の共同戦線(タッグマッチ)


「行くぞ、小僧! 私の足手まといになるなよ!」


「そっちこそ! 飲み込まれても助けないからな!」


 光と闇。創造と破壊。相反する二つの力が、螺旋(らせん)を描いて融合し、未知の混沌へと放たれた。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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