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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
序 章 陽だまりの追憶、黎明(れいめい)の別離

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分かたれた神格と反逆の狼煙(のろし)㈡

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

 彼女は淡々と布を受け取る。その姿は、自らの心をすでに殺し、システムの一部となることを受け入れた機械のようにも見えた。

 こうして、四人の神格化は完了した。彼らはもう、ただの学生ではない。宇宙という巨大な機械を動かすための、代替不可能な「歯車」となったのだ。

 式の後、四人は示し合わせたように、いつもの中庭へと足を運んだ。そこは、変わらず穏やかな黎明の光に満ちていた。だが、以前とは決定的に何かが違っていた。光の温もりが、肌の上を滑り落ちていくような疎外感(そがいかん)。彼らの魂が変質してしまったが故に、この無垢な場所とも波長が合わなくなってしまったのだ。


「……ここに来るのも、これが最後ね」


 天照が、光の冠を少しだけ気恥ずかしそうに触れながら言った。その声音は、努めて明るく振る舞おうとしているのが痛いほど分かった。


「みんな、元気でね。役目は違っても、私たちの心は、いつも一つよ」


 彼女の言葉は、美しかった。だが、その美しさが、今のスサノオには棘のように刺さる。「心は一つ」。そんな言葉で誤魔化せるほど、彼らの行く道は近くない。天と地、そして境界線。物理的にも概念的にも、彼らは引き裂かれるのだ。


「ああ。何かあれば、いつでも力を貸す」


 閻魔が、低く、しかし力強く応えた。彼の纏う漆黒の衣が、陽だまりの中で異質な影を落としている。彼はすでに、冥府の王としての重圧をその肩に感じているのだろう。


「姉さんこそ、一人で抱え込むなよ!」


 スサノオは、わざと大げさに笑い飛ばし、天照の背中をバンと叩いた。そうでもしなければ、泣き出してしまいそうだったからだ。


「俺がいる。俺の剣は、姉さんの敵を討つためにあるんだからな」


 それは本心だった。だが、その「敵」が、姉自身が守ろうとするシステムそのものであるという矛盾に、彼自身が一番苦しんでいた。


「……ソトも、たまには笑えよな!」


 スサノオは、隣に立つ無表情な少女に矛先を向けた。ソトは、じっと彼を見つめ返した。その瞳の奥には、数式とデータが高速で流れている。だが、その演算結果の果てに、彼女はぽつりと呟いた。


「……非合理だ」


 いつもの口癖。だが、その時、彼女の口元がほんの数ミリ、震えるように持ち上がったのを、スサノオは見逃さなかった。それは、彼女なりの精一杯の別れの挨拶であり、感情の発露だったのだ。

 四人は、それぞれの方向へ背を向けた。振り返ることは許されない。彼らは信じていた。あるいは、信じようとしていた。この友情は永遠だと。役割という名の仮面を被っても、その下にある魂の輝きは変わらないと。だが、彼らはまだ若く、知らなかったのだ。役割(マスク)は、いつしか皮膚に食い込み、素顔そのものを変えてしまうということを。

 そして、悠久の時が流れた。それは、地上の文明が幾度となく(おこ)り、滅び、星々の配置さえもが書き換わるほどの、気の遠くなるような時間だった。

 高天原の玉座に座る天照は、いつしか「完璧な統治者」という概念そのものと化していた。彼女の微笑みは、地上を照らす太陽として固定され、個としての感情は、光の粒子の中に溶けて消えた。彼女が守るのは「全体の幸福」であり、そのために切り捨てられる個々の悲劇には、もはや涙することもない。その輝きは、あまりにも強く、そして冷たかった。

 冥府の最下層、閻魔庁。閻魔は、何億もの魂の罪と悲しみを一身に受け止め続け、その心を鋼鉄よりも硬い鎧で覆い尽くしていた。彼の裁きに慈悲はない。あるのは厳格な法の適用のみ。かつて天照に向けたような温かい眼差しは、分厚い鉄仮面の下に封印され、彼自身でさえ、その開け方を忘れてしまっていた。

 三途の川のほとり。ソトは、来る日も来る日も、死者の衣を剥ぎ続けていた。彼女の瞳からは、光が失われていた。膨大な人生の記録(データ)が彼女の魂を通り抜け、摩耗させていく。彼女は思考することを放棄し、ただシステムの一部として機能することに、安らぎさえ感じ始めていた。「無関心」。それが、彼女が永劫(えいごう)の時間を生き抜くために身につけた、唯一の処世術だった。

 そして、スサノオ。彼の変化は、最も劇的で、そして悲劇的だった。彼は当初、与えられた「更生」の役割に忠実であろうとした。道を誤った天使たちを正し、秩序を守ろうとした。だが、彼が見たのは、システムの腐敗と矛盾だった。純粋な正義感から規則を僅かに破った者が、見せしめのように重い罰を受け、冷酷な計算で他者を陥れた者が、法の網をかいくぐって出世していく。そんな理不尽を、彼は何度も目の当たりにした。


「これが……姉さんが守りたかった秩序か?」


 彼の純粋すぎた正義感は、やがて行き場を失い、どす黒い憎悪へと変質していった。本当に正しいのは、冷たい秩序か? それとも、愛や情熱といった、熱い魂の叫びか? 彼の中で、何かが音を立てて砕け散った。彼は、自らに与えられた「荒ぶる神」としての役割を、最大限に、そして最悪の形で利用することを決意した。この偽りの調和を、最も美しい形で、最も残酷に、踏みにじってやる。姉である天照が作り上げたこの箱庭を、根底からひっくり返してやるのだ。

 時は、現代へと近づく。スサノオは、高天原(たかまがはら)を追放され、闇の異空間に拠点を構えていた。彼の周りには、同じようにシステムに絶望し、あるいは欲望に溺れた堕天使や悪鬼たちが群がっている。彼は、一つの壮大な「遊戯」を画策していた。それは、天界と冥府、そして地上を巻き込んだ、秩序への復讐劇。そのための「駒」を探していた彼の目が、ある一つの魂に吸い寄せられた。

 場所は、冥府の閻魔庁。かつての友、閻魔が統治するその場所で、信じられない報告が上がっていた。地獄の業火に一千年も焼かれ続けながら、決して消滅せず、屈することのなかった、特異な魂が存在するというのだ。男の魂。名はまだない。だが、スサノオはその魂の深淵に、世界そのものを無に帰しかねない、恐るべき「空虚(ヴォイド)」の萌芽(ほうが)を見た。


「ククク……見つけたぞ。極上の駒を」


 スサノオは、愉悦に顔を歪めた。この魂は使える。この底なしの虚無は、天照の光さえも飲み込むブラックホールになり得る。さらに面白いことに、その魂の監視役として、あの無感情な女、ソトが選ばれたという情報も入ってきた。


「閻魔め、粋な計らいをするではないか。かつての同窓生たちが、こうして役者として揃うとはな」


 スサノオは、(かたわ)らに控える漆黒の影に命じた。死神統括官、ヤミ。彼もまた、スサノオの思想に共鳴し、冥府の秩序を内部から食い破ろうとする裏切り者の一人だった。


「ヤミよ。我が忠実なる死神たちを率い、あの魂たちが地上へ転生するのを待て」


 スサノオの声は、楽しげに弾んでいた。


「手出しはするな。まだだ。人の子として生まれ変わらせ、仲間を知り、愛を知り、守るべきものを見つけさせよ。希望が大きければ大きいほど、それが絶望に変わった時の味わいは、格別なものとなろう」


「御意に」


 ヤミは恭しく頭を垂れ、闇の中へと消えた。

 スサノオは、虚空に浮かぶ地上の映像を見つめた。そこには、産声を上げようとしている双子の気配があった。一人は、一千年の地獄を耐え抜いた男の魂。もう一人は、感情を殺した奪衣婆(だつえば)、ソトの魂。彼らはまだ知らない。自分たちが、神々の壮大な遊戯の駒として、この世に生を受けたことなど。そして、これから歩む道が、愛する日常を守るための、あまりにも過酷な戦いとなることなど。

 黎明(れいめい)の時代に別れた四つの魂が、再び交錯(こうさく)しようとしている。だが今度は、友としてではない。世界を壊す者と、守る者として。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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