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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
第五章 黎明の天秤

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禁忌の時遡行と、涙に濡れた二度目の朝㈡

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

「ソラ! クロ!」


 リビングのドアを、力任せに開ける。


「……んー、おはよ、カイ。朝からうるさいよぉ……」


「わん(飯か? まだ早いぞ)」


 そこには、パジャマ姿で目をこすりながら起きてきたソラと、あくびをしている黒い豆柴のクロがいた。キッチンからは、コーヒーの良い香りが漂っている。二人は、生きている。傷ひとつない。血も流していない。いつもの、けだるげで、平和な朝の風景。

 カイは、力が抜けてその場に崩れ落ちた。


「カイ!? どうしたの!?」


 驚いたソラが駆け寄ってくる。クロも心配そうに鼻を寄せてくる。その温かさ。生きている体温。


「……よかった……生きてる……みんな、生きてる……」


 カイの目から、涙が溢れ出した。堰を切ったように、止まらなかった。失ったはずの温もりが、ここにある。僕は、殺していなかった。みんな、ここにいる。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。ピンポーン。カイは、弾かれたように顔を上げた。まさか。心臓が止まりそうになる。あの夢(記憶)の中で、最初に失われた人。彼は、ふらつく足で玄関へ走り、チェーンもかけずにドアを勢いよく開けた。


「おはよー、カイくん! 今日の一限、休講になったって連絡網が……えっ、カイくん!?」


 そこに立っていたのは、相沢ひかりだった。エプロン姿で、手にはお裾分けの食品保存容器を持っている。闇に飲み込まれ、二度と会えないはずだった、最愛の人。五体満足で、優しく微笑んでいる。


「ひかり……!」


 カイは、衝動のままにひかりを抱きしめた。強く、強く。もう二度と離さないと誓うように。


「きゃっ!? カ、カイくん!? いきなりどうしたの!?」


 ひかりは真っ赤になって慌て、食品保存容器を取り落としそうになる。だが、カイの腕の震えと、肩口を濡らす涙の熱さに気づき、動きを止めた。


「……怖い夢でも、見たの?」


 彼女の手が、優しくカイの背中を撫でる。


「……うん。すごく、怖い夢だった。ひかりがいなくなる夢だ。世界が終わる夢だ」


 カイは、彼女の温もりと、シャンプーの香りを胸いっぱいに吸い込んだ。生きている。ここにいる。これは、夢じゃない。現実だ。いや、正確には「やり直された現実」だ。カイの魂は、直感していた。誰かが――おそらくは人智を超えた存在が、その身を犠牲にして、あの破滅の未来を「無かったこと」にしてくれたのだと。

 カイの背後で、ソラとクロも、不思議そうな顔でその光景を見ていた。彼らには、明確な記憶はないようだ。だが、ソラは自分の胸を押さえ、不安げに呟いた。


「……なんだろう。私も、なんかすごく悲しい夢を見た気がする。胸が痛いよ。カイが泣いてるのを見たら、なんか私まで涙が出てきた」


 クロも、普段ならカイたちを冷やかすところだが、今は神妙な顔で、どこか遠く(おそらくは天界の方角)を見つめていた。


(……匂うな。強大な霊力の残滓。それも、神域の。誰かが、因果を弄ったか……?)


 元死神である彼の魂もまた、世界の「つぎはぎ」に気づき始めていた。

 カイは、ひかりの体を離し、涙を拭って彼女の目を見た。


「ひかり。……今日は、何日だ?」


「え? 四月二十日だよ。……あ、そっか! 大学の『新学長就任式』がある日だね! 鬼塚さんって人が来るんでしょ?」


 カイの背筋に、氷柱を突き刺されたような戦慄が走った。四月二十日。あの日だ。スサノオの分身体である鬼塚が、大学に乗り込み、洗脳と支配を始めた、全ての悲劇の始まりの日。時間が、そこまで巻き戻っている。


「……そうか。戻ったんだ」


 カイは、拳を握りしめた。爪が食い込み、痛みを感じる。その痛みさえもが、今はこのチャンスの証しだ。これは、奇跡だ。そして、ラストチャンスだ。スサノオは、また来る。あの地獄の遊戯が、また始まろうとしている。だが、今度は違う。僕たちは、知っている。奴の手の内を。奴の目的を。奴がどうやって生徒たちを洗脳し、どうやって僕たちを追い詰めるのかを。そして何より、僕たちの「敗因」を知っている。ひかりを狙われた時の動揺。力の暴走。それらを防ぐ手立てを、今からなら打てる。


「ひかり、ソラ、クロ。……聞いてくれ」


 カイの声色は、先ほどまでの怯えた少年のものではなく、千年の地獄と、滅びの未来を知る歴戦の戦士のものに変わっていた。その瞳に、静かな決意の炎が宿る。


「これから、大変なことが起きる。今日、大学に来る新しい学長……あれは、人間じゃない。僕たちを狙う、神の敵だ」


「えっ……?」


 三人が息を飲む。


「信じられないかもしれないけど、僕は『見て』きたんだ。これからの未来を。……僕たちが負ける未来を」


 カイは、三人の顔を順に見渡した。


「でも、大丈夫だ。今度は、絶対に負けない。僕たちは、未来を知っているんだから」


 カイの言葉に、不思議と疑いはなかった。彼の纏う空気が、それが真実であることを雄弁に語っていたからだ。ソラが、キリッとした顔つきになる。


「わかった。カイがそう言うなら、信じる。やってやろうじゃないの、リベンジマッチ!」


「わん! (今度こそ、噛み砕いてやる!)」


 クロが吠える。ひかりも、力強く頷いた。


「私にできることなら、何でも言って。データ分析でも、作戦立案でも!」


 一方、天界。時遡行(じそこう)を終えた天照は、神殿の床に力なく横たわっていた。その体は透け、光が明滅し、今にも消え入りそうだ。神核(コア)には深い亀裂が走り、そこから生命力が漏れ出している。修復には数百年、いや数千年かかるかもしれない重傷。あるいは、二度と目覚めないかもしれない。


「姉上……!」


 月読が駆け寄り、彼女を抱き起こす。


「……成功、しましたね」


 天照は、かすかな声で言った。八咫鏡には、決意の表情で朝を迎えたカイたちの姿が映っている。


「あの子たちは、気づきました。これが二度目の人生であることに。そして、希望を捨ててはいません。……よかった」


 彼女は、満足げに微笑み、そして静かに目を閉じた。その体は、光の(まゆ)に包まれ、深い眠りへと落ちていった。


「……月読よ。あとは、頼みます。私は、しばらく……休みます……」


「はい。この命に代えても、姉上の蒔いた希望の種、守り抜いてみせます」


 月読は涙を流しながら、深く頭を垂れた。

 だが、彼らはまだ気づいていなかった。無理やり時間を巻き戻した反動で、この宇宙を守っていた次元の境界(ベール)に、修復不可能な「亀裂」が入ってしまったことに。そして、その亀裂の向こう側――(ことわり)の外にある「混沌の(カオス)」から、スサノオなど比較にならないほど異質で、強大な捕食者たちが、ギョロリとした無数の目で、この無防備な世界を覗き込んでいることに。

 希望と絶望が入り混じる、二度目の世界。カイたちの、本当の「攻略戦(リベンジ)」が、今ここから始まる。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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