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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) 1~絶望の未来を書き換えろ。地獄還りの少年が挑む、禁断のタイムリープ戦記!~  作者: たくみふじ
第五章 黎明の天秤

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禁忌の時遡行と、涙に濡れた二度目の朝㈠

千年の地獄を耐え抜いた魂が、神々に抗い『陽だまり』の日常を守る!

 世界は、死んだ。

 それは、比喩(ひゆ)でも誇張でもなく、物理的な事実だった。カイの暴走した「虚無」と、スサノオの「天逆鉾(あめのさかほこ)」が衝突した瞬間に生じた、巨大な対消滅エネルギー。それは、大学のキャンパスを、街を、そしてこの惑星そのものを、音もなく黒い静寂の中へと飲み込んでいった。悲鳴も、祈りも、後悔も、愛する者の名前を呼ぶ声さえも、すべてが等しく闇に溶け、無へと帰した。そこにはもう、光も、時間も、観測者さえも存在しない。ただ、冷たく、乾いた「無」だけが漂っていた。

 だが。その絶対的な虚無の(ふち)で、ただ一箇所だけ、凛とした光を放ち続ける場所があった。次元の狭間に存在する、宇宙の(ことわり)を司る中枢。天界――高天原(たかまがはら)

 その最奥にある神殿「天岩戸(あまのいわと)」で、最高神・天照皇大神(あまてらすすめおおかみ)は、崩壊しゆく下界の惨状を、神鏡「八咫鏡(やたのかがみ)」を通して見つめていた。鏡の中には、砂嵐のようなノイズと、漆黒の闇だけが映っている。それは、バッドエンドを迎えた宇宙の墓標だった。


「……終わって、しまいましたか」


 背後に控える、月の神・月読命(つくよみのみこと)が、痛ましげに顔を伏せる。


「カイの魂は砕け、スサノオの悪意が勝利した。もはや、この因果(タイムライン)に未来はありません。……我々もまた、この崩壊の余波に飲まれ、消えゆく運命(さだめ)か」


 神々の黄昏。宇宙の管理者が敗北を認めた瞬間だった。

 しかし、天照は静かに立ち上がった。その顔には、悲嘆の色はなかった。あるのは、創造主としての冷徹なまでの決意と、子を想う母のような慈愛。そして、かつて「天使養成校」で学んだ、「導く者」としての矜持(きょうじ)


「いいえ、月読。終わりではありません」


 彼女は、純白の衣の袖を払い、鏡の前に立った。


「ここからが、始まりです」


「姉上、まさか……」


 月読が息を飲む。その美しい顔が、恐怖に歪んだ。


「『時遡行(じそこう)』を行われるおつもりですか!? それは、宇宙の理を根底から覆す禁忌(きんき)! 過ぎ去った時間を巻き戻すなど、神といえども許されることではありません! そんなことをすれば、因果律の反動(バックラッシュ)で、姉上の神核(コア)が砕け散ってしまいます!」


「許しなど要りません。……それに、自分の命など、惜しくはありません」


 天照の声は、鈴の音のように清らかで、しかし鋼のように強かった。


「私は見ました。あの最期の瞬間、カイが何を想ったのかを。彼は、自分の命が惜しかったわけではない。愛する者たち――ひかりを、ソラを、クロを守れなかった絶望故に、心を壊したのです」


 天照は、胸元に手を当てた。そこには、彼女の命そのものである太陽の輝きが脈打っている。


「愛ゆえに壊れた魂を、愛によって救わずして、何が神ですか。……閻魔との約束もあります。あの子たちに、もう一度、未来を。……その代償が、私の身一つならば、安いものです」


「姉上……!」


 月読は、天照の前に(ひざまず)いた。止めることはできないと悟ったのだ。この方は、一度決めたら梃子(てこ)でも動かない。その頑固さも含めて、敬愛する姉神だった。ならば、妹として、臣下として、その背中を支えるのみ。


「……御意。私も、全霊力をもってお支えいたします。月の光が、太陽の道標となりましょう。……共に、()きましょう」


「ありがとう、月読」


 天照は微笑み、八咫鏡(やたのかがみ)に両手をかざした。


「我が名は天照。万物を照らす、始まりの光」


 神殿が、激しく震え始めた。高天原に満ちる無尽蔵の霊気(マナ)が、天照の身体を通して鏡へと収束していく。彼女の全身から、金色の血のような光の粒子が噴き出し始める。


「因果の糸よ、(ほど)けよ。悲しみの記憶をほどき、絶望の結び目を解き、全てを無垢なる白紙へと還せ!」


 キィィィィィィィン!!


 鼓膜を引き裂くような高周波の音と共に、八咫鏡から奔流のような光が放たれた。それは、物理的な光ではない。「時間」という概念そのものを逆流させる、神の最終権能。光は次元の壁を突き抜け、崩壊した地上世界へと降り注ぐ。

 黒く塗りつぶされた世界に、光の(くさび)が打ち込まれる。それは、壮絶な巻き戻しの光景だった。飛び散った瓦礫が、逆再生のビデオのように空へと戻り、組み合わさり、元の形を取り戻していく。燃え尽きた灰が、炎へと戻り、さらに燃える前の木材へと戻る。流れた血が、傷口へと吸い込まれ、裂けた皮膚が塞がり、傷そのものが消え去る。

 死んだ者たちが、息を吹き返す。絶望の叫びが、喉の奥へと戻り、沈黙へと変わる。飲み込まれた街が、人々が、日常が、再構築されていく。

 世界が、巻き戻っていく。スサノオが勝鬨(かちどき)を上げた瞬間へ。カイが絶望し、心を壊した瞬間へ。ひかりが闇に飲まれ、その命を散らした瞬間へ。そして、さらにその先へ。


「ぐっ……うぅっ……! あぁぁぁぁっ!」


 天照の口から、苦悶の絶叫が漏れる。時を戻す負荷は、全て術者である彼女の魂に跳ね返ってくる。数千、数万の魂の「死の記憶」と「苦痛」。それが、逆流する時間の刃となって、彼女の体を内側から切り刻む。美しい肌に亀裂が走り、白い衣が鮮血で赤く染まる。神核にヒビが入る音が、ピキリ、ピキリと響く。


「姉上! もう十分です! これ以上は、御身が持ちません! 存在が消滅してしまいます!」


 月読が悲痛な叫びを上げ、自らの霊力を注ぎ込んで支えるが、それでも崩壊は止まらない。


「まだ……です……!」


 天照は、血の涙を流しながら笑った。


「あの子たちが……笑って、ご飯を食べられる……そんな朝まで……戻さなければ……意味が、ないのです……! こんな地獄の入り口ではなく、もっと前……彼らがまだ、希望を持っていた、あの『始まりの日』まで……!」


 彼女は、最後の力を振り絞った。自らの存在を(まき)としてくべ、命の火を燃え上がらせる。


「戻れぇぇぇぇぇッ!!」


 視界がホワイトアウトした。宇宙の因果律が悲鳴を上げ、強引にねじ曲げられる。その瞬間、世界は「確定したバッドエンド」という未来を破棄し、新たな分岐点へとジャンプした。


 チチチ、チチチ……。小鳥のさえずりが聞こえる。どこか遠くで、車の走る音。誰かが布団を叩く音。柔らかい朝の日差しが、カーテンの隙間から差し込み、部屋の中の埃をキラキラと照らしている。


「……ッ、はぁっ!? うわぁぁぁぁっ!?」


 カイは、弾かれたように上半身を起こした。心臓が、破裂しそうなほど早鐘(はやがね)を打っている。全身がびっしょりと冷や汗で濡れ、シーツが肌に張り付く。過呼吸気味に、ヒューヒューと喉が鳴る。彼は、自分の体を抱きしめ、激しく震えていた。


「ここは……どこだ……? 僕は……死んだのか……?」


 荒い呼吸を繰り返しながら、彼は周囲を見渡した。見慣れた自分の部屋。机の上には、読みかけの参考書と、大学の講義ノート。壁にはカレンダー。静かだ。あまりにも、静かすぎる。あの、耳をつんざく爆発音も、人々の悲鳴も、スサノオの哄笑(こうしょう)もない。


「……夢?」


 カイは、自分の手を見つめた。震えている。あの感触が、残っている。指先をかすめて消えた、ひかりの手の感触。自分の力が暴走し、ソラを、クロを、世界を飲み込んでいった時の、肉が裂け魂が砕けるような、あの身の毛もよだつような絶望感。あれが、夢? いや、違う。夢にしては、あまりにも鮮明すぎる。魂の奥底に、焼きごてを当てられたような痛みが刻み込まれている。自分の内側にある「虚無」の力が、一度限界まで膨張し、そして枯渇したような、奇妙な喪失感があった。

 カイは、ベッドから転がり落ちるようにして立ち上がり、リビングへと走った。足がもつれる。壁に肩をぶつける。それでも止まらない。確認しなければ。もし、あれが現実の続きなら。リビングには誰もいないはずだ。あるいは、黒焦げになった死体があるだけか。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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